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40年前から「恋愛強者は3割しかいない」のに「若い頃俺はモテた」という武勇伝おじさんが多い理由

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

無理なものは無理

「100mを9秒台で走れ」――。

そんなことを言われても、できないものはできない。努力したところで、誰もがそんな速く走れるようになるわけがない。できないことを延々と続けてもそれは苦痛でしかない。さっさと違うフィールドに移ったほうがいい。

逆に、たいして努力したわけでもないのに、さすがに9秒台とはいかないまでも、そこそこのタイムで走れてしまう猛者もいる。人間にはそれぞれ生まれ持った能力値というものがある。どの分野でもそうだが、能力ある人間は少数である。

恋愛力もそれと同じである。

ここでいう恋愛力とは、誰かを好きになったりするという個人の感情の話ではない。「誰かと恋愛関係を作れる能力」のことを指す。世の中には「恋愛指南書」的な本も多数あるが、恋愛は学校のお勉強ではない。第一、恋愛力のある人間はそんな本は一生読まない。

ところで、以前、未婚化の原因を「イマドキの若者の草食化」のせいにするおじさんへのブーメランという記事でも書いた通り、「俺の若い頃は女にモテた」などと武勇伝を語りたがるおじさんは多いが、そんな話は大抵大嘘である。そんなに世の中モテる男だらけだった時代など歴史上存在しない。

恋愛強者3割の法則

結論から言えば、恋愛力のある人間というのは、いつの時代も一定の割合しかいない。具体的には大体男女とも3割しかいない。これを私は「恋愛強者3割の法則」と名付けている。つまり、残りの7割の大多数は恋愛弱者である。

よくよく思い出してほしいのだが、中学・高校時代クラスでモテた男子の数なんてそんなに多くなかったはずだ。バレンタインに義理でもなく、母親からでもない本命チョコをもらう男子の数なんてせいぜい3割程度だったろう。クリスマスデートする割合も実は3割もいない。カップルしかいない場所に一人で行くから自分は少数派だと認識してしまうだけで、マジョリティはクリぼっちである。

写真:アフロ

それは国の基幹調査においても明らかだ。

厚労省の出生動向基本調査を1982年以降2015年までの長期推移をみると、「婚約者または恋人がいる」率は、1982年は男性21.9%、女性23.9%に対し、2015年は男性21.3%、女性30.2%と男女とも大体男20%台、女30%台で推移しており、恋愛相手がいる率というのは大体3割前後でほぼ一定だといってよい。

2015年男性の恋愛率が直近ではもっとも低いため、マスコミは「恋愛離れだ」と騒ぎ立てるのだが、そういう論調の記事の場合、それを際立たせるために始点が2005年からの切り取りだったりする。が、40年間の長期的に見れば、大きな変化はないし、むしろ2000年代前半が少し異常値だったという見方をする方が適切である。

もちろん、現在恋人がいなくても過去に付き合ったことがある人もいる。そういう人も恋愛力があると言えるのではないかという考え方もあるが、たとえ中学生のときにモテモテでも、大人になったらまったく恋愛に縁がなくなってしまう人もいる。過去の恋愛力が、現在の恋愛力を担保するものではない。現在の恋人の有無で恋愛力を計るほうが妥当だと思う。

また、いつ調査してもその切り取った瞬間の恋人がいる率というのがずっと3割程度で推移しているという法則性の方が、着目すべきポイントなのである。

アッシー・メッシー・みつぐくんという恋愛弱者

これに対する反論もある。「1980年代の交際率はもっと高いはずだ。交際経験なしの推移をみれば、近年になって急上昇しているのだから、最近の若者の草食化は明らかだ」というわけである。

しかし、その言い分は無理がある。「交際している」という割合の中に「異性の友人がいる」という数字をを含めてしまっているからなのである。

友人とは交際相手や恋愛相手と言えるのだろうか?交際の定義はいろいろあるとはいえ、恋愛を語る上での交際とは、彼氏・彼女という立場になった段階を指すもので、友人は友人でしかない。

たとえば、告白した際に「友達でいましょう」と返されたとしたら、それは大体において拒絶の意味だ。百歩譲って、「異性の友人も交際相手である」という説に同意するとしても、それはせいぜい10代、それも中学生くらいまでの話であって、20代以降の交際に友人を含めて、それをもって「恋愛をしていた」と言うのはあまりに純粋すぎるというか、世間知らずというしかない。

写真:アフロ

第一、いつまでも「異性の友人」のままでいて、ちっとも「異性の恋人」に発展しないなら、そっちの方が草食だろう。おじさん連中の言う「俺の若い頃は女にモテた」というのは、どうもこの女性の友人を恋人だったことに勝手に脳内変換してしまっているような気もしないでもない。

確かに、彼らの若い頃のバブル時代、「メッシー」「アッシー」「みつぐくん」という女性にとっては好都合の友人関係が存在した。そう考えれば、彼らの「俺はモテた」武勇伝は、むしろ涙なくして聞けない話に転換する。

※「メッシー(飯)」とは食事だけを奢らされる男、「アッシー(足)」とは車で送り迎えだけさせられる男、「みつぐくん(貢)」とは高価なプレゼントなどを求められるだけの男という意味である。

「恋人がいる率」男女差が10%の謎

出生動向基本調査では、18~34歳までおよび2015年までのデータしかないので、2016年以降の数字についてもご紹介したい。各年、全国20~50代の未婚男女延べ約5万人に対する調査結果である。

これを見ても、20-30代で平均するとほぼ3割程度で、40代以上は年代とともに恋愛に対する興味を失うのか、相手にされなくなるのか、減っていく傾向がみられる。むしろ20代だけ見れば、男女とも近年上昇している。「若者の恋愛離れ」どころか増えている。

ところで、お気づきだろうか。ご紹介したふたつのグラフともに、どの年代も男女間で恋人のいる率に10%もの開きがあるということに。

この要因はいろいろあるが、そのひとつが当連載で結婚したくても、340万人もの未婚男性には相手がいない「男余り現象」の残酷の記事などで紹介してきた「男余り現象」によるものである。未婚男女の絶対数が違うのだから、マッチング数が同じであれば、割合にすれば当然差が出る。

しかし、それだけでは説明つかない部分もある。女性は相手の男性を恋人だと思っているが、男性はそうは思っていないパターンも考えられる。つまり、男性が二股以上かけている可能性だ。もっといえば、女性が独身を装う既婚男性に騙されているパターンもあるかもしれない。

そうした一部の恋愛強者男性が多くの女性を独り占めにしているという不都合な真実が存在するがために、7割の恋愛弱者は割を食うのだが、その件はまた後日ここの連載にて。

「いやいや、待て待て。恋愛強者が3割しかいないなら、有配偶率6割にならないじゃないか」というご指摘もあろうかと思う。しかし、既婚者が全員恋愛強者であるとは限らない。それについても後日記事化するとしよう。

※記事内グラフの無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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