「松坂桃李は人間的にイイやつ」大ヒット映画のプロデューサーに訊く、主演にふさわしい俳優
電話取材の相手はそのとき、撮影真っ最中の庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』の現場にいた。
その相手とは、大ヒットしたホラー映画『犬鳴村』(2020年)、絶賛評が相次いだ『初恋』(2019年)など話題作を次々と送り出している、東映の紀伊宗之プロデューサー。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021年)にも携わっており、今回も庵野監督と仕事を共にすることに。
挨拶もそこそこに、『シン・仮面ライダー』の気になる近況を尋ねたが、『エヴァンゲリオン』シリーズでも情報の扱いにかなり慎重だった庵野監督作とあって、「自信はたっぷりありますが、それ以上のことはね」と紀伊プロデューサーの口は当然ながら堅い。
松坂桃李は妖しさも出せる稀有な俳優
今回の取材のメインテーマは「主演俳優について」だ。2018年公開の前作に続いて熱烈に支持されているプロデュース作品『孤狼の血 LEVEL2』(公開中)では、主演・松坂桃李が鬼気迫る熱演をみせた。
見どころは、劇中での松坂と鈴木亮平のバトル。鈴木演じる狂気的なヤクザ・上林に、松坂扮する刑事・日岡がどんどん追い詰められていく。広島の裏社会を強権でねじ伏せてきた日岡がいだく恐怖や焦りをスリリングに体現している。
松坂のどんなところに良さがあるのか。紀伊プロデューサーは「『孤狼』シリーズの白石和彌監督が作った『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)を観て、幅が広い俳優であることは分かっていました。それでも『娼年』(2018年)を鑑賞したとき、『まさか妖しさまで出せるなんて』とびっくりしたんです。これは日本でも稀有な俳優だな、と」と過去の出演作をまず振り返る。
減量姿の松坂桃李に驚き
2020年9月29日に撮影が始まった『孤狼の血 LEVEL2』。松坂は10月5日にクランクインしたが、体重をかなり落とした姿で撮影現場にあらわれた。
紀伊プロデューサーも「痩せろ、という指示は一切ありませんでした。つまり自分なりに考えて体を絞って来たんです。きっと敵が鈴木亮平だったから、桃李くんも期するものがあったんじゃないでしょうか。しかも、前作主演の役所広司さんの後を受けての“座長”ですから。プレッシャーもかなりあった気がします」と風貌の変化に驚いたという。
そして「主演にふさわしい俳優」の条件について、「いくら人気があっても、人間的にしっかりしていないとつとまらない。やっぱり、その作品を背負うわけですから。現場での立ち振る舞いも含めて、“座長”にふさわしいかどうか」と紀伊プロデューサーは人間性も重視しているという。
その点「松坂桃李はものすごくイイやつ。ずっと一緒にいるけど、いつもそう感じます。どんな相手であっても、話がしっかりできる。作品が何を伝えようとしているかを深いところで考えて、つかんでくれる」と全幅の信頼を置いている。
Koki,が主演「みんなから『やられた』と言われた」
一方で、未知の可能性にかけて“座長”に持ってくることもある。『牛首村』(公開日未定)では、モデルのKoki,に大役を任せた。映画は初主演だ。
※Koki,の「o」はマクロン付きが正式表記
紀伊プロデューサーは「企画から撮影開始までのストロークがかなり短かったので『主演は誰が良いだろう』と急いで考えましたが、すぐにKoki,さんが浮かんだんです。話題性もそうですが、前々から『何か持っているんじゃないか』と気になっていました」とポテンシャルに目を光らせていたという。
「Koki,さんの場合はやはり、映画の主演をやってくれるかどうかが大きな問題でしたね。ただ、一緒に『牛首村』を作ったプロデューサーがアプローチをしてくれて、ご本人に『どうですか』と真正面からお願いをしたら、『ぜひ』とのことでした」とスムーズに快諾を得たそうだ。
紀伊プロデューサーは「業界的には誰もがKoki,さんの初主演映画を撮りたかったはず。みんなから『やられた!』と言われました」と裏話を明かしてくれた。
『孤狼』第3弾は「登場人物はこれまで死んでいない人」
『孤狼』シリーズは第3弾の製作も決定。「白石監督たちとはなんとなく『こんな話にしたいね』と喋っている」とのことだが、具体的なことはまったく決まっていないという。
紀伊プロデューサーは「僕は庵野監督と『シン・仮面ライダー』をやっていて、白石監督は別のプロデューサーと『仮面ライダー BLACK SUN」を作っている。今はライバルなので、『ライダー』対決が終わってから話をします」と火花を散らす。
そして「3作目のことはまだ何も分からないけど、主人公をはじめとして、1、2作目で死んでいない人が出てくることは間違いないですね」と含みをもたせた。