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地方におけるセクシュアルマイノリティが抱える課題とは?当事者のコミュニティつくりを促すために(前半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
「多様な性、知っていますか?」パネル展示の様子

地方におけるセクシュアルマイノリティが抱える課題と、当事者のコミュニティつくりを促すために必要なことについて一般社団法人「広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)」を取材しました。

※セクシュアルマイノリティについての説明はこちらをご覧ください。

「セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編」

広島県福山市を中心にセクシュアルマイノリティの交流会を実施

茶話会の様子
茶話会の様子

一般社団法人「広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)」は2014年8月に任意団体として発足しました。2015年10月には一般社団法人になっています。20代から60代まで幅広い年代やセクシュアリティの人が参加しています。当事者だけでなく、そうした人たちを支えたいと思う異性愛者も支援者として参加することができます。

福山市は広島県の東にあり、広島県内では二番目に人口の多い中核市です。しかし、今までいろいろなセクシュアリティの人が継続して参加できる団体はありませんでした。自分以外の当事者に会う機会も情報も少ない地方で「自分は、いわゆる『ふつー』とは違うのかも?」と孤独に悩む人でも、ここにくればセクシュアリティを隠さず本来の自分で居られる、ホッとできるカフェのような場所を作ろう。そのような思いから「かも?」Cafe(当時の名称は備後地方の団体ということで「かも?」Cafeびんご)と名付け、縁があって集まった有志で立ち上げました。

今の「かも?」Cafeの活動の方針は大きく分けると2つの柱があります。1つが、毎月1度の交流会。もう1つが啓発活動です。

「かも?」Cafeの交流会はセクシュアリティを限定せず、「自分はセクマイだ」「セクマイかも?」と思う人であれば誰でも参加でき、支援者も参加可能です。これは、「いろいろなニーズはあるけれど、まずは、こういった場を無くさないことが大事」という思いでの方針です。活動の場に出てくる人数が少ない地方では、まずは「間口の広さ」が大事。そして「会を支えられる人のすそ野を広げる必要がある」と思っています。

「居場所つくり」から、「居場所を広げる啓発活動」へ

福山市長宛ての手紙
福山市長宛ての手紙

会の立ち上げ当初は、セクシュアリティに悩む当事者が集まれる場づくりとして、月に一度の定期交流会で茶話会や勉強会、「朝かも」「昼かも」と名付けたごはん会などを開催していました。

しかし活動を進めていく中で、当事者がホッとできる場を続けていくためには内向きの活動だけではなく、いわゆる「啓発活動」といった外に向けた活動が必要だと感じるようになります。理由は2つありました。

1つ目は人手不足です。都会と違い、地方では良くも悪くも人間関係が濃いので、思わぬところで他人に自分のセクシュアリティがわかってしまう危険性があり、そもそもこういった場に出てこられる人が限られます。まして、運営に携わる当事者はさらに少なくなります。特定のメンバーに負担が偏り続けると、その人に何かあった時、会の運営が成り立たなくなっていく可能性がありました。

そして2つ目は、当事者が抱える問題がセクシュアリティ以外にもさまざまにあり、その分野の専門家の助けや自治体の支援が必要だということです。セクシュアルマイノリティであることに加え、発達障害など他の問題もあり、どちらに行っても居心地の悪さを抱えて悩む人がいることなどに気づきました。

支援者との繋がりを作ろうと動く中で、高校の養護教諭の会など、若い当事者に接する機会が多く、問題の切実さに気づき前向きに応援してくれる支援者が一定層いる、ということがわかり勇気づけられました。また、セクシュアルマイノリティを取り巻く問題の深刻さに理解のある新聞記者の方々との出会いもあり、複数の紙面に記事が掲載され、少しずつ地元での認知が広がるようになりました。

大きな転機は、2015年6月。これまで当事者から個人的に相談を受け、関心を持っていた福山市議との出会いがあり、福山市議会で初めてセクシュアルマイノリティを取り巻く問題が取り上げられました。市長と教育長が前向きに進めていく旨の答弁をし事態が一気に動いていきます。

福山市議会初! LGBT問題についての質疑と答弁

それまでに「かも?」Cafeとして福山市長宛てに種々の要望を書いた「市長への手紙」や、パネル展示の企画を申し入れていたこともあり、福山市主催による福山市内の各所を巡回する啓発パネル展示が実現しました。

展示用のパネルは「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」のデータをもとに、「かも?」Cafeで制作したものを使用しています。このパネルは場所の大小に応じて展示できるようミニパネルの制作や、見てくれた人が持ち帰れるような参考資料などの増刷など、担当課の方が積極的に支援してくれました。パネル展示を通じて同じ地域に住む人間同士、顔を合わせて話をしていくことの大切さを感じました。

今後は法人化して「広島県」と銘打ったこともあり、広島市内でも毎月の交流会を開催していく予定です。

(つづく)

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一般社団法人広島県セクシュアルマイノリティ協会(通称「かも?」Cafe)

広島県福山市を発信源とした一般社団法人。県内のセクマイがほっとできる「居場所つくり」と「居場所を広げる」活動を支援者とともに展開中。交流会を毎月各一回福山と広島で開催。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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