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人から騒音を注意された時、逆に食って掛かる攻撃的な性格の人は一体何%ぐらいいるのか

橋本典久騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授
(写真:アフロ)

 騒音トラブルは増加傾向にあり、減少の気配は見えない。毎年、騒音が原因で60~70件の殺人事件が発生し(推定値)、傷害事件は千数百件にのぼると考えられている。たかが騒音で、なぜこれだけの事件が発生するのか、その理由の一つが、人から騒音の苦情を受けた時の対応である。

 誰しも自分の行動に対する非難を受ければ気分が良いはずはないが、その思いを押さえて相手に謝る人もいれば、逆に相手に食って掛かる人もいる。騒音トラブルの防止のために最も大事なことが初期対応である。初期対応の状況が相手の印象を決定づけ、その後、発生し続ける騒音によりその印象がより劣悪なものにと変貌してゆく。そして怒りが敵意へと変化するともう後戻りはできなくなり、何らかの誘発要因行動により騒音トラブルが騒音事件に変化するのである。

 では、相手から騒音の苦情を受けた時、その相手に食って掛かるような反応をする人というのは一体どのくらいいるのか、これはトラブル防止を考える上で重要な情報であり、これを心理学的手法で調査した結果を示す。

騒音苦情反応を調べる方法とは

 過去の騒音事件の発生経緯を見てみると、騒音苦情に対する“売り言葉に、買い言葉”的な対応が事件の直接的、間接的原因となっている場合が多く見られる。人から自分の騒音への苦情を受けた時の反応、すなわち騒音苦情反応を調べる方法にP-Fスタディというものがある。P-Fスタディ(Picture-Frustration study)とは、心理学におけるパーソナリティ研究や臨床診断での心理テストとして用いられる方法であり、心理学者のローゼンツアイク(S.Rosenzweig)によって考案されたものである。

 下図に示すような、相手から非難や叱責を受けている場面(超自我阻害場面:superego-blocking situation)の略画(刺激図版)を示して、その場面の人物がどのように答えると思うかを回答してもらうものである。通常の質問では自分の素直な気持ちを押し隠して回答するという傾向が見られるが、P-Fスタディは、略画を使うことにより回答者の自己防衛的な態度をゆるめて、自己の素直な反応を略画に投影させるという手法の心理テスト(projective test)である。読者の人も、この略画をプリントアウトして、友達や伴侶の性格を一度確認してみてもよいかもしれない。

(筆者研究室で作成)
(筆者研究室で作成)

騒音苦情反応の3つの型

 人から騒音に関する苦情を言われた時の反応は3つに分けられる。一つは「受容型反応」であり、相手の苦情を受け入れて素直にそれに従う反応である。上の図で言えば、「はい分かりました。すみません」、「気が付かずにすみません。すぐ切ります」などの反応である。

 2つめの反応は「拒否型反応」である。何か理由を付けて相手の苦情に従わない反応であり、「直ぐに戻ってきますから」などの例である。

 3つめが「反発型反応」であり、苦情を言われた相手に食って掛かったり、きつい言葉を返すなどの攻撃的な反応で応じるものである。すなわち、「こっちの勝手だろ!」、「そんなにうるさくもないのに文句をいうな!」、「お前んところもいつもうるさくしてるじゃないか!」、などである。

 調査の主目的は、騒音苦情に対して反発型反応を示す人はどれくらいの比率で存在するかということである。もちろん、それが騒音トラブルの発生の一つの要因になるからである。また、補助的な調査項目として、苦情反応に都会と地方など地域性があるかなども調べられるように、調査方法を考えた。

 上記の目的に合わせ、調査では9種類の略画を用意した。騒音に関する略画は下図に示す3枚を含めて計4枚であり、騒音トラブルの原因として多く見られるもの、行政等への騒音苦情の多いものを場面化した。その他、調査目的をカムフラージュするため、騒音苦情以外の内容についても5枚追加して、計9枚の略画を用いて調査を実施した。

(筆者研究室で作成)
(筆者研究室で作成)

反発型反応の人は何%ぐらいいるか

 調査の結果において、騒音苦情に対して反発型の反応を示した人の比率は、全体平均で何と16%、約6人に1人が反発型という結果であった。これは大変に大きな数値であり、日本全国で成人が6000万人いるとすると、そのうちの1000万人が騒音トラブルに巻き込まれやすい性格だということになる。これでは、騒音トラブルが多発することも首肯できる。なお、心身医学の領域で用いられる性格類型概念に、タイプA性格とタイプB性格というのがあり、タイプA性格が心理学的に敵対性レベルの高い人(反発型反応の人)に分類される。種々の調査によれば、このタイプA性格の比率は、全体の約20%程度であると云われており、今回の結果はほぼこれに対応する。

 更に、個人別に集計した結果では、騒音の略画4枚ともに反発型の反応を示した人の比率は0.5%であった。少ないように感じるかもしれないが、上記と同じように人口で表すと約30万人になり、決して少ない数ではない。毎年、東京警視庁に寄せられる騒音苦情は10万件近くになるが、苦情を言われる側と言う側の違いはあるが、数値のオーダーは一致しており、妥当な数値と考えられる。なお、4枚の騒音苦情の略画に対して3枚で反発型反応があった人は3.5%、1枚と2枚の人は各々20%程度であった。状況によっては、トラブルに巻き込まれる可能性のある人はかなりの数にのぼることを示している。

 逆に、他人からの騒音苦情に対しても温和に対応する受容型の人の割合は全体で約60%であり、多くの人が冷静に対応できることが示された。特に、地方郡部での結果においては、地方都市や大都市地域と較べて反発型の比率がかなり小さく、約1/3の値となっていた。他人からの苦情に対して、田舎の方が温和な対応をとる人が多いことが窺われるが、これは地域コミュニティが現在も比較的良い形で維持されていることも一つの理由であると考えられる。なお、拒否型の割合は残りの24%であった。

騒音苦情への初期対応で賢い対応を!

 自分の出す音について他人から苦情を言われた時、思わず反発的な態度をとってしまう人が6人に1人もいるのである。更には、注意した人間が反発型の反応をされた時にどのように反応するのか、輪をかけて攻撃的な対応をする人の比率も結構高いのではないかと気にかかる。多分、1/6の比率では済まないのではないかと思う。正に〝売り言葉に買い言葉〟の応酬が繰り広げられることになる。

 騒音トラブルでは、苦情を言われた時の初期対応が大変大事だと常々言っているが、この数の多さを考えればやはり騒音トラブルが減少してゆくことはないであろう。時代とともに地域のコミュニティも消滅し、人間関係は希薄になり続けており、騒音トラブルの社会環境は悪化の一途を辿っている。今一度、自分の性格を確認し、くれぐれも騒音トラブルに巻き込まれないよう賢い対応が出来るように常日頃から準備を心がけて頂きたいと思う。

騒音問題総合研究所代表、八戸工業大学名誉教授

福井県生まれ。東京工業大学・建築学科を末席で卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。近隣トラブル解決センターの設立を目指して活動中。

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