ベネズエラ出身の驚愕16弦ギタリスト:フェリックス・マーティンが日本デビュー
南米ベネズエラ出身、16弦エレクトリック・ギターを駆使する新鋭ギタリスト、フェリックス・マーティンがアルバム『カラカス』で2019年6月、日本デビューを果たす。
ベネズエラ音楽のルーツとプログレッシヴ・メタルを融合させた斬新なスタイルで注目されるフェリックスの音楽性は鮮烈なインパクトを持っており、同時に故郷へのありったけの想いが込められている。
「アニマルズ・アズ・リーダーズやCHON、ポリフィア...これから俺たちが新しいギター・ミュージックを創っていくんだ」と宣言する新世代ギタリストの旗手であるフェリックスが、新時代の扉の向こうにあるものを垣間見させてくれた。
<ベネズエラには豊潤な音楽文化がある>
●『カラカス』はベネズエラ音楽への入門編としても楽しむことが出来ますね。アルバムには収録されていませんが、日本でも「コーヒールンバ/ Moliendo cafe」「村娘/ Campesina」など、ベネズエラのフォルクローレ曲は親しまれています。
そう言われると嬉しいし、『カラカス』を作ったことをさらに誇りに感じるね。ベネズエラには豊潤な音楽文化がある。でも、プログレッシヴ・ロックやメタルを聴いている人にはあまり知られていないんだ。彼らにもっとこの国の音楽を知って欲しかった。アルバムに収められている曲の多くは俺が聴いて育った音楽だし、13歳から14歳の頃、これらの曲をギターでアレンジしながら、タッピングを練習したんだ。俺は1989年にベネズエラのバルキシメトという小さな田舎町で生まれ育った。インターネットも通じていなかったし、バンドTシャツも売っていなかった。ポール・ギルバートやジョー・サトリアーニ、スティーヴ・ヴァイを聴いてプロのギタリストを志したけど、なかなか情報が入ってこなかったんだ。それで毎日、テレビやラジオから流れるベネズエラ音楽をギターで弾いていた。その後、アメリカのバークリー音楽大学に進学したことで、しばらく伝統的なベネズエラ音楽からは距離を置いてきたけど、このアルバムでは自分のルーツを再訪してみたかったんだ。
●ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に対する抗議デモに参加したことがアルバムへのインスピレーションになったそうですが、公に反体制を主張することで、活動に支障はありませんか?
ベネズエラの社会問題には心を痛めている。独裁政治や経済危機に対する自分の気持ちがアーティスティックなインスピレーションになったことも事実だ。今、俺はロサンゼルス在住だけど、2017年のデモには参加した。その日、150人の死者が出た。それからアメリカを活動拠点としてきたし、ベネズエラとは距離があったんだ。でも自分のハートには常にベネズエラがあることを、音楽を通じて表したかった。それが『カラカス』だった。マドゥロ政権に対して批判的であることで、逮捕されたりする可能性はある。ただ、去年(2018年)ベネズエラに戻ったときも、問題はなかったよ。むしろ、飛行機チケット代がすごく値上がりしていることに驚いた。
●時代も地域も離れていますが、チリのヴィクトル・ハラが1973年、反体制であることで処刑されたという事件もありました。
ヴィクトル・ハラは素晴らしいシンガー・ソングライターだし、尊敬している。ただ、彼の事件はもう50年近く前だし、現代のベネズエラには当てはまらない。...少なくとも、ベネズエラがそこまで堕落していないことを願っているよ。
<アルバムの半分の曲はベネズエラ人だったら誰でも知っている>
●『カラカス』でプレイしている楽曲は、ベネズエラの人々に馴染みのある伝承曲なのですか?
アルバムの全12曲中、6曲はベネズエラ人だったら誰でも知っているだろうね。楽曲そのものではなく、曲のスタイルが知られているものも多い。「Quitapesares」は俺が育った地域でポピュラーなスタイルの名前だよ。「La Vaca Mariposa(ザ・バタフライ・カウ)」もとてもポピュラーな曲で、いろんなヴァージョンがある。母牛と子牛の会話で、 シリアスなメッセージを込めたフォーク・ソングだけど、子供向けにアレンジされたヴァージョンもあるんだ。「Alma Llanera(ソウル・オブ・ザ・プレインズ)」はベネズエラ人なら誰でも知っているし、「Querencia」や「Caballo Viejo(オールド・ホース)」はスーパー・ポピュラーだ。「Tonada De Luna Llena(フル・ムーン・チューン)」もよく知られている。
●それらの楽曲を、どのようにアレンジしましたか?
まずメロディとコーラスを身体に馴染ませて何度も繰り返し、時間をかけて練習する。身体に馴染んだら、アレンジを考え始めるんだ。パーカッションを入れたり、シュレッド・ギターを取り入れたりね。「Pajarillo(リトル・バード)」はリズムが多彩な、難易度が高いスタイルだから独自のアレンジを施したし、「La Grey Zuliana」はアコースティックで弾いた。
●アルバム収録曲で、最も古くからプレイしてきた曲は?
「El Diablo Suelto(ザ・デヴィル・オン・ザ・ルース)」は十代の頃から弾いてきた。この曲はクラシック・ギタリストのジョン・ウィリアムスが弾いたことで、欧米でもよく知られているんだ。『El Diablo Suelto- Guitar Music of Venezuela』(2003)という、素晴らしいアルバムに収録されている。そのアルバムには「Alma Llanera(ソウル・オブ・ザ・プレインズ)」も入っているんだ。それから「Apure En Un Viaje(アプーレ・オン・ア・トリップ)」も少年時代から弾いてきた曲だよ。
<同世代のギタリストはみんな友達だ>
●前作『Mechanical Nations』(2017)ではエンジェル・ヴィヴァルディがゲスト参加したり、5月にはサラ・ロングフィールドとUSツアーを行ったりしますが、同世代のギタリストではどんな人と交流していますか?
みんな友達だよ。俺はロサンゼルス在住だから、いろんなミュージシャンのライヴを見に行って、バックステージに挨拶に行ったりする。NAMMショーに行けば顔を合わせて、話をするし、別の地域に住んでいても、SNSでフレンズになったりね。ニック・ジョンストンとは友達だよ。彼はトラディショナルなスタイルでありながら、彼だけの個性を持っている。メキシコ出身のホセ・マカリオはストランドバーグのギターを弾いていて、スラッピングが凄いんだ。彼とはメキシコをツアーしたけど、ユニークなスタイルを持っている。俺が親しいのは、20代後半〜30代前半ぐらいのミュージシャンが多いかな。同世代で好きな音楽や話題が共通しているんだ。
●一緒にアメリカを回るサラ・ロングフィールドのアルバム『ディスパリティ』(2019)は聴きましたか?どう感じましたか?
アルバムはまだ聴いていないけど、彼女がネットで公開している音源は幾つも聴いているよ。彼女のプレイにはモダン・メタルの要素もあって、ユニークだと思う。彼女とのツアーにはグアテマラ出身のヘドラス・ラモスも同行するんだ。彼は数年前“ギター・アイドル”コンテストに優勝していて、ロサンゼルスに住んでいる友人なんだ。
●現在、メインで弾いているギターは?
キーゼル(Kiesel)の16弦カスタム・ギターだよ。キーゼルは鳴りが最高だし、純正ピックアップの出来も良い。丈夫で壊れないし、手離せないギターだ。以前は“ゴライアス”や“マストドン”などカスタム・メイドの16弦/14弦ギターを弾いていたけど、今ではキーゼルをエンドースしているし、他のギターは弾いていない。アコースティックはJ.P.ラプラントの14弦を弾いた。8弦と6弦を合体させたもので、手に入れたのは2年前だけど、レコーディングに使ったのは今回が初めてなんだ。スペシャルな瞬間を待っていたんだよ。
●16弦ギターを両手タッピングするというスタイルが個性的ですね。
16弦ギターといっても、1本のネックに2つの指板があるんだ。ある意味、ツイン・ネックに似ている。だから、それほど珍しくもないよ。裏から見れば、1本のネックだけどね。チューニングもレギュラー・チューニングだし、決してギミックではなく、俺の中では理に適ったスタイルなんだ。ひとつの指板に16弦を張るギターは弾いたことがない。ものすごく広い指板になってしまうだろうしね。
●今後、やってみたい音楽スタイルはありますか?
『カラカス』ではベネズエラの音楽に専念したけど、次のアルバムでは南米全土のフォーク・ミュージックに拡げたい。メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、チリなど、南米には素晴らしい音楽がある。アルゼンチンのアストル・ピアソラは天才だし、チリのヴィクトル・ハラの曲にもチャレンジしたいんだ。メキシコの「ラ・ヨローナ」もぜひプレイするつもりだ。それにキューバ産のサルサもよく聴いている。ベネズエラだとバス乗り場に常に大音量のサルサが流れているよ。南米大陸は広大だけど、音楽で繋がれているんだ。それを北米やヨーロッパ、日本の音楽リスナーに伝えていきたい。
【HMVインタビュー記事】