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癒着は官とメディアの間にこそ存在するのではないか

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

週刊朝日に掲載された前・文科事務次官、前川喜平氏の独占手記が話題を呼んでいるようです。

独占 前川喜平氏「首相の盟友に絡む話を柳瀬氏が耳に入れていないなど絶対に嘘」〈週刊朝日〉

ただ、氏と朝日側が(故意かうっかりかは分かりませんが)触れていない情報もあるため、不肖ながら筆者が補完しておきたいと思います。それらを踏まえればきっと別の視点が浮かんでくることでしょう。

天下りポストを用意してくれた大学は良い大学?

まず、氏の手記中でも触れられている「国家戦略特区の前例に当たる千葉県成田市の医学部新設」というのは、2017年に医学部を開校した国際医療福祉大のことです。同じ国家戦略特区の枠組みで応募した学校法人が一つだけという点も加計学園とよく似ていますが、実は一点だけ違いがあります。それは「理事長や教授ポストに6人もの官僚が天下りしている」という点です。

さらに言えば、天下りしているのは官僚だけではありません。朝日新聞社の前社長を含む複数の幹部も、教授ポストに再就職しているのです。※

以上の情報を踏まえれば、前川氏の独占手記から受ける印象は180度変わることでしょう。

・09年、今治市、愛媛県が構造改革特区として加計学園運営母体の獣医学部新設案を申請、(それまで自民党政権には却下されていたものの)民主党鳩山政権が初めて「実現に向けて検討」と方針転換

・獣医師会に忖度し、文科省は8年間放置し続ける

・一方、6つも天下りポストを用意してくれた国際医療福祉大については15年公募開始17年スピード開校

・2017年、前川氏、天下り発覚で退任に追い込まれる

・天下りポストを用意しなかった加計学園を朝日新聞と組んで問題提起、週刊朝日にも独占手記

氏の独占手記だけを読んだ人であれば、こういう印象を受けたかもしれません。

「総理が自分の知人に有利に行政を歪めた」

でも、上記の流れを踏まえれば、きっとこういう印象に変わるはず。

「既得権のために長年にわたり行政を歪めてきたのは文科省。その事実を同じく天下りポストをあてがわれている大手メディアは一切報じていない」

大手メディアがことごとく沈黙する不気味さ

官僚と新聞社には、強固な終身雇用・年功序列制度が維持されているという共通点があります。そして、それらを維持する上で、組織外の再就職ポストは必要不可欠なものです。仮に、一部の高級官僚と大手メディア幹部が同じ利権を共有し、報道するニュースも都合によって選別するような歪んだ価値観が存在しているとすれば、ことは重大です。

ちなみに筆者は加計学園が完全に白だと断言するつもりはなく、何か新しい証拠でも出てくればしっかり対応すべきだと考えます。ただ、証言どころか現に6人もの官僚が在籍し、朝日新聞社の幹部も再就職している医大がどういう経緯でスピード開校できたのか、そしてなぜ朝日をはじめとした全国紙は一向に取り上げないのか、そちらの方がより根が深い問題だと考えます。

同じ税金を使って追及するのなら、そうした問題こそ国会で取り上げていただきたい、というのが一国民としての思いです。

※公平を期すために指摘しておくと、公開情報からは少なくとも読売新聞からも2名、日経新聞からも1名の幹部が再就職していることが確認できます。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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