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旧統一教会への第8次集団交渉「弟が生きてたら今月が誕生日」一緒に迎えたかった 宗教2世の無念な思い

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

6月26日、立憲民主党を中心にした統一教会対策ヒアリングが行われました。

全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士は「本日、旧統一教会に第8次集団交渉の申し入れを行い、被害者20名の代理人として約7億円弱の請求をいたしました。集団交渉は7次にわたっており、本日が第8次の請求(合計約53億3778万円)になります。この中に2世の方がおり、2名が慰謝料(1000万円)を教団に請求するという初めてのケースになります」と話します。

2世の苦しみを弁護団としてもきちんと法的に救済していくことが必要

2世の方が集団交渉に参加した理由について「1世の高額献金とか壺を買わされたという被害は深刻なわけですが、2世の被害は、生まれた時から始まるわけです。人生そのものを奪われたという深刻な被害が存在していることは間違いありませんので、その苦しみを弁護団としてもきちんと法的に救済していく必要がある」といいます。

今回、集団交渉に参加している一人のTさん(20代男性)の両親は、現役の旧統一教会の信者で、自分が希望する選択をすることができない人生を送ってきました。彼には同じような思いを抱えて生きてきた双子の弟がいましたが、今年4月に自死しています。

親と教会から信仰を強要させられてきた苦しみ

議員からの質問に答える形で、Tさんは宗教2世として辛かった思いを語ります。

「幼少期から教会の活動をさせられました。韓国の聖地・清平(ちょんぴょん)に行ったり、礼拝や修練会にも無理やり腕引っ張られて行ったり、嘘をついて連れて行かれたこともありました。平日に修練会などの大きなイベントもあり(学校を)休んで行かされることがありました」と親と教会から信仰を強要させられてきたことをあげます。

さらに「親が献金して貧困があったりして。精神的にずっと調子が悪かった。思春期ぐらいから統一教会の教育が厳しくなってくるので(心の不調が)ずっとありました。高校卒業後、進学の話も先生からあったんですけれども、親が断ったので断念しなければなりませんでした」と進学を諦めた辛い思いを口にします。

弟と誕生日を一緒に迎えられなくて残念な気持ちを吐露

こうした経験は、その後のTさんの人生にも暗い影を落とします。

「就職したんですけれども、メンタルを崩して退職して休職してまた仕事に戻ることを繰り返しました」そして同じように苦しんできた弟のことを思いながら「弟も同じような環境で育って、今年の4月に亡くなりました。もし生きてたら今月が誕生日だったんですけれども、一緒に迎えられなくて残念な気持ちでいっぱいです」と無念な心の内を話します。

さらにTさんは「お風呂になかなか入れてもらえなくて。汚い話なんですけど、学生の時は週に1~2回位でした。髪の毛も伸びっぱなしで、学校で必要なものも全然準備してもらえなかった。それにもかかわらず、献金が止まらないので、ずっと葛藤していました。(親は)家族のためにやっているというと思うんですけど、理解ができなかったですね。自分のお年玉も全部家族に渡していたので、もっと子どものことを考えてほしかった」と苦しい2世時代を振り返ります。

亡くなる前から相談も「間に合わなかったことがとても悔しい」

Tさんは、いかにして今回の集団交渉にたどり着いたのでしょうか。

河智了顕弁護士は「代理人弁護士としてTさんにつながるようになったのは、法テラスのワンストップ相談会への電話がきっかけでです。もし、この相談会がなかったら、今もTさんは一人で戦わなければならない状況に置かれていたと思います。このような相談の機会を継続して持つことができれば、多くの(苦しむ)2世の方の声が届き、その声が社会に反映されていくと思っております」といいます。

今回、Tさんが勇気を持って相談しようとした裏には、弟さんの存在があったようです。

「自分もそうですが、弟もうつ病でした。精神疾患を抱えていて(弟が)亡くなる前にも家で暴れたり、物に当たったりとか、家を出て行ってしばらく帰ってこないこともありました。自分は(心が限界でしたので)実家を出て一人暮らしをしていましたが、弟から連絡をもらっていて、この先、危ないかもしれないと思いました。それもあって(弟が)亡くなる前から相談していたんですけど、間に合わなかった」と悔しさをにじませます。

加害してきた側が設置した相談機関に相談しようと思うわけがない

ジャーナリストの鈴木エイト氏は「Tさんのご両親は1992年合同結婚式を行った3万双です。その時からカルトの問題が30年放置されたことによって、2世、3世に継承されてしまった」として「教団側も教会改革推進本部を2022年9月に発足して、信徒に対するサポートの強化、相談員を配置して祝福家庭を支援したり、信徒からの相談クレーム対応総合相談室を設置したりしていますが、Tさんのような方は、自分を加害してきた側が設置した教団の相談機関にそもそも相談しようと思うわけがないんです。外部の支援先が必要です。ここ1~2年、行政の方でも窓口を設置していただいて、かなり手厚い支援相談をしていただいている状況ですが、そこに届かない人もいます」と話します。

立憲民主党の山井和則議員も「統一教会は今、解散命令を目指して進んでいますが、どうしても献金の問題がメインになってしまいます。しかし今日お聞きしたTさんのような膨大な数の宗教2世、3世の方が地獄の苦しみを負い、弟さんのように自死されているケースは他にも多くあるのではないか。鈴木さんがおっしゃったように、統一教会問題の解決が30年も遅れたばかりに、お金の問題だけではなくて、本来だったら苦しまなくてよかった人たちを生み出してしまったことを強く感じる」と話します。

「信者であることを、誰にも話してはいけない」といわれていた

同党の早稲田夕季議員からの「学校の先生に相談を一言でもされたことがありましたか?」の問いに対して、Tさんは「教会の方から『信者であることは、学校の人も含めて誰にも話してはいけない』と教育されていて。『話したらいじめられるから』の理由をつけるんです。正当な理由っぽいですけど、相談させないためにいっているものと見た方が自然ですね。子どもだったので、純粋にその言葉を真に受けてしまって」と誰にも相談できなかった辛い気持ちを打ちあけます。

「相談させない環境」を作り、「(第三者からの)助言を得る機会を奪う」これは教団のこれまで行ってきた手法の一つです。

私も信者時代に「好事魔多し」(良い出来事には魔が入る)などの言葉を使って、霊感商法でモノを買った人や、教団の関連施設に通い始めた人に相談させないようにし向ける状況を見てきました。それを組織的な指導のもとで、子どもたちにも行ってきたことは、大きな問題だと思います。

相談は紙一重だったの言葉から見えてくる課題

Tさんがワンストップ相談会を知るきっかけは、法テラスの霊感商法等対応ダイヤルに電話をしたことでした。

「電話相談で断られた時に『別日にワンストップ相談会があるので、弁護士さんなど、様々な方とつながれるので電話してみてはどうですか』といわれて連絡しました。その電話でいわれなかったら参加することはなかったと思います」(Tさん)

同党の西村智奈美議員から「これまで、どのような相談をして断られてきたのか」を尋ねられて、Tさんは「(霊感商法等対応ダイヤルに)電話で相談したら『自分が献金されましたか』『具体的には被害を教えてください』と聞かれました。自分は『メンタル面の被害が大きいです』という話をしました。そこで精神保健福祉センターに相談してくださいという話になって、その時、ワンストップ相談会を紹介されて相談してみようと思い、今に至っていますので、紙一重の感じはありました」と話します。

電話でたらい回しになるのは、ダメだとの指摘

「Tさんのお話を伺い、精神保険福祉センターに紹介するのも悪くはないのかもしれませんが、ちょっと違うんじゃないかという感じがするんですが、どうなのでしょうか」(西村議員)

法務省担当者は「霊感商法等対応ダイヤルといたしましては、電話いただいた方からお悩みを聞き取りまして、お悩みに応じてご案内する形です。それが金銭的な問題であれば弁護団におつなぎします。精神保険福祉センターさんの方でこういった悩みであれば対応いただけるとお伺いしておりまして、ご紹介している」と答えます。

西村議員は「やっぱり電話でたらい回しの話になると、ダメだと思うんですよね。寄り添ってくれる人が見つけられるかどうかだと思うんです。今回は法テラスにつながって、河智先生が対応してくださり、非常に良かったと思うんですけれども、その辺りが気になりました」といいます。

おっしゃる通りだと思います。寄り添ってくれる人が見つけられるかが、2世の心の被害を解決する第一歩です。その道に至るためのサポートを切れ目なく行うことが大切です。

この相談電話が人生における最初で、最後の電話になるかもしれない

Tさんは「正直なところ、いろいろな報道があっても、親が教団の活動を続けている姿を見るのに限界がきてしまって家を出ました。(それによって)弟のことを一人にしてしまって、本当に申し訳なく思っています。正直なところ、この年になるまでずっと怖くて(相談)できなかった」と話し、河智弁護士に相談できたことを「紙一重」という言葉で表現をしています。

周りがサタン世界と教えられるなか、勇気をもって宗教2世の多くは相談の電話をしています。この相談電話が人生における最初で、最後の電話になるかもしれません。すでにそうした危機意識をもっての対応をしていただいているとは思いますが、今後より一層、苦しみから一人でも多くの人を救うという強い姿勢が求められています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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