Yahoo!ニュース

16強入りも、勝てば官軍だけではこの国のサッカーは永遠に進歩しない

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

見たくないものを見てしまったポーランド戦

 まだグループリーグ突破を決めたわけでもないにもかかわらず、3戦目でスタメン6人を変更。その西野監督の大胆な采配にも驚いたが、さらに驚愕させられたのは、後半残り十数分という段階で下した決断だった。

 日本がポーランドに1点をリードされた後、他会場のセネガル対コロンビアで、コロンビアが先制したという情報を入手した西野監督は長谷部をピッチに送り、現状維持を選択。後方でボールを回して時間を費やし、他会場のセネガルがゴールを決めずに試合を終えることをただ祈るのみという、ハイリスクかつ後ろ向きな采配をやってのけたのである。

「このピッチ上で万が一のことが起こらないよう、他力(本願)の選択を選んだ」とは、試合後の西野監督のコメントだ。

 確かに0-1で敗れはしたものの、結果としてグループ2位通過を果たしたのだから、その賭けに勝ったのは紛れもない事実。勝てば官軍の論理に立てば、必ずしも間違った選択とは言えない。

 しかし、賛否両論はあって然るべきだ。この采配をして「勝負師」、「名監督」と周りがそれを称えるだけでは、この国のサッカーは永遠に進歩しない。

 

 個人的には、普通にサッカーをしてでもゲームを終わらせる程度のことができなければ、とても“強いチーム”とは言えないと思うのだ。見たくないものを見てしまった、というのが率直な感想であり、グループリーグ突破を素直に喜べない原因でもある。

 

 さらに言えば、0-1で敗戦を喫したこの試合の内容自体が、その気持ちに拍車をかける。

 

 まず、試合開始から試合終了まで、攻撃も守備も行き当たりばったり感が満載だったこと。相手が10人のコロンビア戦と、早い時間帯で先制した後に相手が集中力を欠いたセネガル戦でははっきりと見えなかった部分が、しっかりオーガナイズされたサッカーをするポーランド戦で、ようやく浮彫になった印象だ。

 

 大枠だけを決め、選手の判断に任せるサッカーだけでは、必ずどこかでボロが出る。まともな相手と対峙した時、自ら勝負を仕掛けることも、相手の攻撃をしっかり受け止めることもできなくなる。

 日本の試合がやけにスローテンポで、インテンシティを欠き、他のW杯の試合とは異なる次元のサッカーに見えるのは、それが理由だと思われる。要するに、チームとしての戦術、サッカーが確立されていないから、よく言えばオーソドックス、悪く言えば曖昧なサッカーに終始してしまう。

 選手が大幅に入れ替わっても、ベースとなる戦術がブレていなければ、2点以上を奪う必要性のないポーランドに対して、普通に戦って試合を終わらせるくらいのことはできるはず。それができる確信がないから、西野監督はハイリスクな“奇策”を選択することを強いられたのではないか。

 もちろん大会直前に緊急就任した指揮官が率いる急造チームという背景もあるだろう。しかし、だとしたら今回のチームを無条件で称賛するだけでは、今後の日本サッカーの発展につながらないことだけは確かだと言える。

 勝った者が強い。確かに、それは勝負の世界では正しい。しかし、胸を張ってそれを言えないのが、今回のグループリーグ突破だと思う。

 次のラウンド16の対戦相手はベルギーだ。とにかく、ここまで吹き続けている“神風”が止まないことを願うしかない。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】川島永嗣=6.5点

前半32分にグロシツキのヘディングシュートを、ラインぎりぎりのところでビッグセーブ。後半には槙野のO.G.かと思われたシーンでも好セーブ。過去2試合とは違う顔を見せた。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

得意の攻撃面での貢献が少なかった。序盤はクルザワと、前半途中からはジエリンスキと対峙し、相手に自由にはさせなかった。失点の場面ではマークを見誤ってしまった。

【右CB】吉田麻也=6.0点

後半に迎えた大ピンチの場面では、レヴァンドフスキに最後まで身体を寄せてシュートミスを誘った。その他の守備でも危なげないプレーを見せた。

【左CB】槙野智章=5.0点

気持ちが空回りしたプレーが目立っていた。昌子と比較するとビルドアップの部分で大きな差があり、改善の余地あり。守備面でも安定感がなかった。

【左SB】長友佑都=5.5点

疲れもあったのか、ミスも多くキックの精度が低かった。ハードワークは相変わらずのレベルにあったが、攻撃面で効果的なプレーが少なかった。

【右MF】酒井高徳=5.5点

不慣れなポジションでプレーしたにもかかわらず、大きなミスは少なかった。攻撃面でのアクセントになれず、特に酒井宏樹との縦の関係に課題を残した。

【右ボランチ】山口蛍=5.0点

守備面では貢献できたものの、その一方で柴崎がボールを持った時のサポートを含め、攻撃の起点になるようなプレーはほとんどなかった。サッカーが停滞した原因のひとつ。

【左ボランチ】柴崎岳=5.5点

低い位置からのビルドアップを試みるも、相手がしっかりと守備ブロックを作っていたため、スペースが見つからず。攻撃の起点となることができなかった。

【左MF】宇佐美貴史(65分途中出場)=5.0点

ドリブル突破やカットインからのシュートが求められたが、効果的なプレーが少なすぎた。守備面の貢献度も原口と比べると少なく、スタメン起用の期待に応えられなかった。

【FW】岡崎慎司(47分途中交代)=5.0点

献身的に前線を動き回って相手にプレッシャーをかけたが、FWとしてプレーしているだけにシュートやフィニッシュにつながるプレーがほしかった。後半立ち上がりに負傷交代。

【FW】武藤嘉紀(82分途中交代)=5.0点

積極的にシュートを狙う姿勢は評価できる。ただし、本来の能力を十分に発揮できずに途中交代を強いられてしまった。不完全燃焼で終わったため、次戦のスタメンは厳しいか。

【FW】大迫勇也(47分途中出場)=5.5点

岡崎の負傷によって、緊急出場。相変わらずポストプレーで安定したさばきを見せた。ただ、それ以外のプレーでは迫力とスピード感を欠いていた。

【MF】乾貴士(65分途中出場)=5.5点

先制点を与えた直後に攻撃を活性化させるために途中出場。しかし、プレーの精度を欠き、過去2試合のような効果的なプレーが影を潜めた。

【MF】長谷部誠(82分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。ベンチからの指示をピッチ上の選手に伝える役目を担った。

≪2018ワールドカップ関連記事一覧≫

【ポルトガル対スペイン】 スペクタクル度の高い“五つ星“の試合になった理由

【ドイツ対メキシコ】 前回大会王者ドイツの前に立ちはだかる悪いジンクスとは?

【コロンビア対日本】 グループ突破のためにもコロンビア戦の勝利の中で見えた問題を直視すべき

【日本代表】 コロンビア戦勝利は安全運転の賜物。セネガル戦に必要な「修正力」とは?

【日本対セネガル】 結果に脱帽。セネガルを迷宮入りさせたスローテンポとローインテンシティ

【フランス代表】 “勝利の方程式”でアルゼンチン戦に挑むフランスは、その効果を示せるか?

【ブラジル代表】 チッチ采配で覚醒した今大会のブラジルにあてはまるポジティブなジンクス

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事