北朝鮮警察も手を焼く「乱れた列車」でのやりたい放題
恵山(ヘサン)発の2号列車、4号列車、穏城(オンソン)発の114号列車――いずれも終点は、北朝鮮の首都の玄関口、平壌駅である。中国との国境に面した都市と平壌を結ぶ重要な特急列車だが、これが「風紀びん乱」の温床となっている。
平壌のデイリーNK内部情報筋によると、社会安全省(警察庁)は、国内で起きるありとあらゆる「非社会主義行為の萌芽」は鉄道にあるとして、先月15日から列車に対する取り締まりを強化した。
北朝鮮の鉄道は以前から、駅前に密集する「待機宿泊」が実質的に風俗街化するなどして、当局から頻繁に手入れを受けていた。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち)
それに加え、最近は新たな問題も拡大している。韓流コンテンツを含めた「資本主義に汚染された」外国の映像が北朝鮮への流入ルートのほとんどは、中国からの流入であるが、このような行為そのものに加えて、それから派生するファッション、流行、韓国風の言葉遣いなど様々な「風紀の乱れ」が列車に乗って平壌にやって来るのだ。
最近になってなって件数がさらに増え、若者や学生の思想を変質させていると分析した、社会安全省は、その源を断つとして、列車の取り締まりに乗り出した。
具体的には、列車が平壌に入るはるか前の地点の停車駅で、打撃隊(取り締まり班)が列車に乗り込み、抜き打ちで乗客の荷物検査を行うというものだ。その結果、複数の列車の貨物車から違法な商売目的の物品、多数の不純録画物(韓ドラなど)が発見された。
最も摘発件数が多かったのは、平羅(ピョンラ)線の新成川(シンソンチョン)駅だった。平壌駅から100キロ地点にあり、上述の列車すべてが通過する駅だ。
なお、取り締まり班が列車を急襲して抜き打ち検査を行う手法は、目新しいものではなく、以前から行われている。
社会安全省は、平壌客貨車隊と平壌市鉄道安全部(鉄道警察)がグルになって、違法な物品の搬入を黙認、幇助したと見て、具体的な証拠探しに乗り出した。ワイロのやり取りがあったことはいうまでもないだろう。
ある日本人旅行者は、北朝鮮の列車内で目撃したワイロのやり取りを次のように証言している。
中国から北朝鮮に入ってすぐの新義州(シニジュ)駅で入国審査と税関検査が行われた。列車に乗り込んできた税関職員は、北朝鮮人乗客の大量の荷物をひっくり返して事細かく検査を行い、ある女性の番になったとき、彼女は税関職員を手招きしてトイレの方に連れて行き、高級時計を手渡した。税関職員は検査するふりをしただけで、何も没収しなかった。
このように、列車内でのワイロのやり取りは頻繁に行われているのが現実だが、客貨車隊、鉄道安全部共に「知らぬ存ぜぬ」で責任逃れに躍起になっているとのことだ。
社会安全省はまた、鉄道を利用した違法な物品の流通が広範囲で行われているとして、「同様の事件を防止するために、今後厳しい内部監督、定期的な監視を行うこと。違法な活動が摘発された場合には、厳重に対処、処罰すること」の承認を求める提議書を中央に提出した。書類は金正恩総書記の手元に届き、大々的な取り締まりキャンペーンが行われることになるかもしれない。
韓流コンテンツのソフトなどは、鉄道より規制のゆるい個人が経営するソビ車(バスやトラック)を使って運ばれることが多かったが、コロナ禍での移動制限の強化、本来禁止されている車両の個人所有の取り締まりなどで、以前と比べて数が減ってしまった。
そこで列車での運搬が行われているようだが、たとえ厳しい取り締まりを行ったとしても「その場限り」だ。鉄道関係者も鉄道警察も商人も、空気を読んで、取り締まりがゆるくなったと思ったら徐々に元のやり方に戻していき、完全に骨抜きにしてしまう。
韓流を上回る良質で面白い文化コンテンツを北朝鮮国内で生み出すことが唯一の解決方法だが、そもそも韓流のベースにある「個人の自由」は北朝鮮の現体制とは相容れないため、根本的に無理な話であろう。