いたいけな一条天皇と定子、道長を巡る女たちの情念、この激しい濃度差よ「光る君へ」第13回 相関図付き
新たなターンへ
大河ドラマ「光る君へ」(NHK 脚本:大石静) 第13回「進むべき道」(演出:中泉慧)はまひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)が別々の道を歩みはじめ、4年の月日が流れた。
第12回までが第1部として13回から第2部が始まった印象で、道隆の娘・定子(高畑充希)など、新たな登場人物も増えて、人間関係がますます絡み合い、濃密になっていく。
12回で一部ずつになるとしたら4部構成できれいにまとまりそうだがどうだろう。
第13回の見どころ
その1:女たちの情念がこわい
その2:兼家の老いが不安
その3:まひろ、民に文字を教える
今回はこのなかから、女たちの情念がこわいをさらに3つに分けて読み解きたい。大石静さんの描く人間たちの粘っこさが凄まじくて、物語の展開もおもしろいが、相対する人間関係の熱っぽさがおもしろい。
(*ネタバレがありますのでドラマをご覧になってからお読みください)
■定子と詮子
990年、一条天皇(柊木陽太)が元服し、藤原兼家(段田安則)は政権トップの座を揺るぎないものとした。道隆(井浦新)の家は子供もすくすく成長して、定子が一条天皇に入内する。中関白家絶頂期がはじまった。
政略結婚ではあるが、定子と一条天皇の仲睦まじさには裏心は感じられない。
「お上の好きなものを私も大好きになります」という定子に、「母上、椿餅、松虫」と答える一条天皇。虫が苦手と答える定子に、道隆が民を虫けらのように扱っているからだろうかと思ったのは考えすぎだろうか。道隆も権力を持ってなんだか変わってしまったような気がする。
定子と一条天皇の後半の隠れん坊も良かった。
定子の唐衣のなかに隠れる一条天皇は、へんな気持ちはないのだろうけれど、どこか淫靡な気配も感じさせる。
だからか、皇太后・詮子(吉田羊)は仲睦まじいふたりにやや複雑そうな表情。息子に厳しいのは、息子の母ゆえの嫉妬であろうか。詮子は夫婦の幸福を味わっていないので羨ましく思ってしまうのもしょうがないのかなという気もするが。
「また遊ぶ?」と聞いて去っていく一条天皇があどけなくて、やっぱり子供時代は子供がやったほうがいいなあと感じた。
定子は14歳で、一条天皇は11歳。でもそこは、お姉さん感があったほうがいいので高畑充希でよかったように思った。
■明子
道長には倫子(黒木華)との娘・彰子が生まれていた。目に入れても痛くないというような感じでかわいがっている。道長が彰子に向ける笑顔がほかの誰にも見せたことのないような笑顔であった。
明子(瀧内公美)にも子ができた。彼女は笑顔がないが「道長様の子を宿したことが嬉しゅうございます」と薄く微笑むのがこわい。
第12回で、彼女が道長と結婚した理由が明かされている。父を失脚させた藤原家に恨みをもっていたからだ。
彼女の恨みは根深く、調子のよくない兼家を見舞いに行き、もらった扇を使って呪詛をはじめる。当の兼家は、彼女の父が藤原家のせいで亡くなったことすら認識していなかった。
「源氏物語」には六条御息所が夕顔を呪い殺したエピソードがあるが、呪いや占いが果たして有効なのか。
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)がこの時代、呪術部門のエキスパートであるが、兼家が寿命を占ってくれというとあっさりかわし、跡継ぎについて聞いてもかわしてしまう。これは本当はわかっていてもあえて言わないのかもしれない(占いじゃなくてもだいたい予想はつくことだろう)。このような冷めた感覚と、呪いにも及ぶ情念が並行して描かれているところが面白さのひとつでもある。
■まひろと倫子と道長
まひろはまだひとり身。家は貧しいので、どこかのお屋敷に働きに出たいと思っているが、なかなか就職先が見つからない。
まひろが困っていると知った倫子が雇おうと呼び出すが、まひろは就職先はもう決まったと嘘を言って断る。
「今度、殿(道長)にも会ってくださいね」と何の気なしに言う倫子。会えるわけない。これがまひろが倫子のもとで働かない理由である。
倫子は、道長がとってあった漢詩を見つけ、「これ女の文字ですよね」とまひろに尋ねる。
どきりとするまひろ。でも、倫子が疑っていたのは明子であった。セーフ。
あちら(明子)とは文のやりとりがあったが自分とはなく、「いきなり庚申待の夜に訊ねてみえたの、突然」と言う倫子。当時は文のやりとりが当たり前なので、それがなかったことを不安に思うのか、それとも特別に思ってのろけているのかわからないが、「庚申待の夜」はまひろと道長の別れの日で、「あの日だ」とまひろはすぐ気づく。あの切ない日、道長はこの土御門邸に来ていたのかと思うと、古傷が痛むであろう。
倫子の言動のすべてがマウントのようなそうでないような。途中で彰子がやってくるのもマウントにも見えてしまう。案の定、まひろは、道長と倫子の娘を見て、ダメージを被った気がする。
とぼとぼと帰る廊下、はらはらと花びらが散る。
ばったり出会うまひろと道長。
このときの道長の目つきがすごくて、この続きが待ち切れない。
さて、解説しないとしたが、その3:まひろ、民に文字を教える をちょっとだけ。
まひろが町に買物に出たとき、文字が読めないばかりに子供を売るという証文を交わしてしまった貧しい母親に遭遇し、文字を人々に教えようと決意する。
まひろと乙丸(矢部太郎)が文字に関する演劇を行う場所は、かつて散楽の人たちが練習していた神社の前だった。4年経っても、直秀(毎熊克哉)の心が息づいているような気がする。
まひろと道長は遠く離れてしまったようではあるが、まひろは民のために文字を教え、道長は「民なくてはわれわれの暮らしはありません」と民を守ろうとしている。ふたりの思いが同じであり、4年の間に育っている。
あまりに混沌としているので相関図が4つに分割
大河ドラマ「光る君へ」(NHK)
【総合】日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分【BS・BSP4K】日曜 午後6時00分 【BSP4K】日曜 午後0時15分
【作】大石静
【音楽】冬野ユミ
【語り】伊東敏恵アナウンサー
【主演】吉高由里子
【スタッフ】
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介