シリア北東のハサカ県で、米国、トルコ、ロシア、クルド民族主義勢力、そして困窮する生活に抗議するデモ
シリアの北東部に位置するハサカ県で、米国、トルコ、ロシア、クルド民族主義勢力、そして困窮する生活に抗議するデモが散発している。
同地は、ハサカ市、カーミシュリー市、M4高速道路(アレッポ市とハサカ県ヤアルビーヤ町を結ぶ区間)沿線、国境地帯が政府と北・東シリア自治局(クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体)によって共同(分割)統治される一方、それ以外の農村地帯は概ね北・東シリア自治局の支配下にある。
外国軍も入り組んだかたちで駐留している。政府支配地にはロシア軍が駐留し、国境地帯でトルコ軍との合同パトロールを実施している。また、トルコは2019年10月以降、ラアス・アイン市一帯地域を占領下に置いている。米主導の有志連合もルマイラーン油田一帯、カスラク村、シャッダーディー市などに違法な基地を設置し駐留している。
こうした複雑な支配のありようがさまざまなデモを発生させている。
トルコのドローン攻撃に抗議するデモ
アレッポ県では6月23日、トルコ軍の無人航空機(ドローン)が北・東シリア自治局とシリア政府の共同統治下のアイン・アラブ(コバネ)市近郊のハルナジュ村の上空に飛来し、北・東シリア自治局傘下のスィタール女性大会の会合が行われていた民家を爆撃、中にいた女性3人を含む5人が死亡した。
これに抗議するデモが北・東シリア自治局支配地域各所で発生した。英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、6月24日にはアイン・アラブ市で抗議デモが行われていたが、27日になるとハサカ県に波及、ハサカ市内にある有志連合の本部前で、スィタール女性大会が国際社会の沈黙に抗議するデモを行った。
トルコ軍とTFSAに抗議するデモ
シリア人権監視団やシリア・アラブ通信(SANA)によると、トルコ占領下のラアス・アイン市で6月25日、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)に対するデモが行われ、住民数百人が参加、農地への放火、略奪、強制退去など、市民への犯罪行為、トルコ軍の占領支配に対して抗議の声が上げられた。デモに参加したのはラアス・アイン市近郊のアルーク村の住民で、ほとんどが女性だった。
彼女らはラアス・アイン市の内務治安部隊(いわゆる自由警察)本部前に集まり、国民軍に所属するムウタスィム旅団のメンバーが25日朝に地元の病院で看護師を殴打した事件に抗議したという。
シーザー法に反対するデモ
SANAによると、政府の支配下にあるカーミシュリー市近郊のタッル・アウダ村では6月26日、住民が、米国とトルコによる占領や米国のカイザー・シリア市民保護法に異議を唱えるデモを行った。
デモは6月29日にもカーミシュリー市近郊に位置するブワイル・ブーアースィー村で、また30日にもハームー村で行われた。
シリア民主軍と米軍に抗議するデモ
シリア人権監視団によると、有志連合が駐留する北・東シリア自治局の支配下のシャッダーディー市で、人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍と有志連合の支配に抗議するデモが行われ、住民らが道路でタイヤを燃し、市の入り口を封鎖するなどした。
また、SANAやシリア人権監視団によると、ハサカ市で6月27日、政府の複数の施設がシリア民主軍によって接収された。
接収されたのは、グワイラーン地区にあるシリア穀物公社ハサカ県支部、ヌシューワ地区にあるハサカ電力公社、スポーツ・シティ、大学寮の一部、シリア情報協会、産業観光環境局、交通課、住民台帳局、シリア商業銀行支店で、職員は退去を命じられ、シリア民主軍は施設を施錠、立ち入りを禁止した。
これに対する抗議運動が28日から始められた。
シリア穀物公社ハサカ県支部とハサカ電力公社の職員が接収に抗議、職場の開放を訴えたのである。
抗議の座り込みは、6月29日、30日にも行われた。
一方、北・東シリア自治局と政府の共同統治下のタッル・ハミース市、アームーダー市では6月30日、電気や水の不足に伴う生活難に抗議するデモが行われた。
ロシア軍受け入れ拒否
PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)やシリア人権監視団によると、ロシア軍部隊がジュワーディーヤ(ジャッル・アーガー)村近郊のダイルナー・アーガー村に進駐しようとしたが、村人がこれを拒否した。
ロシア軍部隊は装甲車や輸送車など数十輌からなり、カーミシュリー市(カーミシュリー国際空港)に設置されている基地を出発し、ジュワーディーヤ村一帯の国境でパトロールを実施後にダイルナー・アーガー村に入ろうとしたが、村人の反対に遭ったため、村の近くに野営所を設営した。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)