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照ノ富士と阿炎の明暗を分けた瞬間 千秋楽は横綱の全勝優勝がかかる新時代の始まりへ

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

まさに、今場所の明暗を分ける取組にふさわしい一番だったといえるだろう。

大相撲九州場所14日目。全勝でひた走る横綱・照ノ富士と、1敗で追いかける平幕の阿炎が対戦。横綱が勝てば優勝、阿炎が勝てば千秋楽まで優勝争いがもつれる展開だった。

阿炎が善戦も、横綱相撲に倒れる

その一番前、大関・貴景勝が正代を危なげない相撲で破り、自身の優勝の可能性を残していた。阿炎が勝てば照ノ富士と1敗で並び、2敗の貴景勝にも可能性が出てくるというわけだ。

捕まえたい照ノ富士。阿炎は突き放して動きたい。今場所大注目の一番。勝負の行方ははたして――?

立ち合い。阿炎はやはり長い腕を思い切り伸ばして立った。すると、そのまま思い切った突きを繰り出し、横綱を土俵際まで追いやったではないか! 勝負あったかと思わせた刹那、横綱が俵で粘った。落ち着いて反撃に出た瞬間、阿炎は足がもつれて土俵上に倒れた。照ノ富士が押し倒しで勝利し、6度目の優勝をつかんだ瞬間だった。

照ノ富士、自身初の全勝優勝なるか

取組後、なんとも悔しそうな表情を浮かべた阿炎。まさに勝機はあった。結果では負けてしまったものの、今場所の明暗を分かつにふさわしい、実に見応えのある一番を演じてくれたと思う。「横綱の胸を借りるつもりで」、その言葉通りに思い切ってぶつかっていき、自分の相撲を全力で出し切った。その姿は、見る者の心を打った。本人は悔しさや反省材料があるだろうが、ここまで場所を盛り上げてくれたことをあわせて、本当にありがとうと伝えたい。

一方、初日から落ち着いた様子で、まさに「横綱相撲」を取り続け、千秋楽を待つことなく無傷で優勝をつかんだ横綱・照ノ富士。本当に、さすがとしか言いようがない。日々の結びが横綱の勝利で終わるというのは、こんなにも人の心を穏やかにするのかと、つくづく感銘を受けていた。年6場所制定着以降、新横綱場所からの連覇は、1962年初場所の大鵬以来59年ぶり2人目だという。もうひとつ、新たな偉業を成し遂げた。

今場所13日目には、筆者が構成・インタビューを務めた横綱の初の著書『奈落の底から見上げた明日』が全国一斉発売された。この本を一緒に制作してきた日々を思い返し、ことさら感慨深い気持ちでいまこの筆を執っていることは言うまでもない。とても近くで横綱の活躍を見させていただいてきていることを含めて、この見事な6度目の優勝を心から祝福し、感謝の気持ちをお伝えしたい。

1年納めの九州場所。優勝は決まったが、あともう1日残されている。照ノ富士は、千秋楽も勝って自身初の全勝優勝を成し遂げることができるか。最後は、また新たな記録と、新しい時代の始まりを見ることができるかもしれない。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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