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【提唱】2021年のサッカー新解釈「3Dフットボール」とは?

河治良幸スポーツジャーナリスト

サッカーというのは何×何メートルで行われる競技でしょうか。縦90m~120m、横45m~90m、国際基準で縦105m×横68mというが認識だと思います。

しかし、実際は縦105m×横68mに高さをかけて、ボールで言えば最大20メートルほど、人間の動きとしては最大3メートル(手が使えるGKはもう少し高くなりますが)ぐらいで展開されます。

ゾーンの考え方が当たり前になった現代サッカーにおいてコンパクトフィールドが主流になり、最近ではポジショナルプレーの原理をベースに縦105m×横68mを俯瞰的に見立てて”立ち位置”で相手から位置的優位を制することが勝負に大きく影響するという考えが主流になっています。

それに対比してボール周辺に圧力をかけながら、残りのスペースをリスクケアや運動量でカバーしていくという方法も取られますが、だいたいのチームはそれらを組み合わせて戦術的なデザインをしていくのが平面的な基本的な戦術プランだと思います。

その一方で立体的なプランに関しては”空中戦”という言葉で同期されてしまう傾向にあります。立体的な理論というのは何も空中のボールを巡って体をぶつけ合ったり、高さで相手を制するというだけではありません。

例えば手前のディフェンスを1つ越えて向かい側の味方にパスを通したい場合、横に外してグラウンダーのパスを通すのか、頭上を越える浮き球のボールで通すのかは選手の判断次第です。逆に、上に蹴ると見せかけて足下を通すというのも単なるグラウンダーパスではなく、立体的な駆け引きの結果と言えます。

そうした個人戦術における立体感覚というのはサッカー選手であれば大なり小なり持っていると思います。しかし、それをどこまでゲームプランに取り入れて、個人としてはもちろんチームとしても組み込むのかというトライはあまりされてきていないように思います。

もう少し大きな視点の話に移すと、反対側のサイドにいる味方に40メートル、50メートル級のパスを通したいという時に、どのぐらいの高さに上げると正確に通りやすく、その分、到達までに時間がかかってしまうのか。風の強弱や方向、デーゲームかないとゲームかでも変わってくるかもしれません。

よくロングボールと呼ばれるディフェンスから前線へのキックも、適当に裏のスペースへ蹴る場合と目標になるFWに狙って当てる場合、ディフェンスと背負った状態かフリーかでも状況は全然違ってきます。

逆に小さい選手を利用する考えもあります。先ほど上に出すと見せかけて下を通すパスと書きましたが、小柄で駆動力の高い選手というのはその時点で大型選手との下の戦いは有利になります。

それはドリブルやスペースへの飛び出しだけに見られがちですが、ちょうど受け手とディフェンスがいるところでショートバウンドするボールを出すことで、ディフェンス側が止める難易度は大きく上がります。

もちろん、そうしたプレーを成立させるにはその距離のボールを正確に蹴れる選手と受けられる選手が必要になります。それが不明確なまま実行すると”アバウト”になりますが、成功した場合の効果とリスクを計算に入れて実行すればそれは立派なゲームプランとなります。

浮き球を活用することはACLの集中開催でも見られたような荒れたピッチの中で、正確にボールを運ぶ1つの解決策にもなるように思います。浮き球を使うとリスクがあるようにイメージされるのはそうしたプレーがサッカーではイレギュラーであるからで、例えばビーチサッカーでは基本的なパスの1つです。

そうしたプレーが一般的になって行けば、日常の基本練習にも取り入れられて、よりローリスクで活用できるようになるかもしれません。リフティングというのも単なるボール遊びであり、あまり必要ないという声が強まったことがありましたが、浮き球を正確に止める、あるいは次の浮き球のパスにつなげるといった選択肢が当たり前になると、より実戦的なトレーニングの1つとして認識されるようになるかもしれません。

長いボールや空中のボールを使うとアバウトに思われてしまいがちなのは、ロングボールを蹴ることが自分たちのポゼッションを放棄することとほぼ同義に取られてしまうからで「縦105m×横68m×高さ」というのをチームとして明確にプランニングすることで、これまで何となく個人レベルで意識されていたものがチームで共有されるはずです。

セットプレーにおいては例えばFKで壁の上を破るのか、跳ばせて下を通すのか、横から巻くのかといった立体的な要素が駆け引きに用いられますが、流れの中でもあるものです。しかし、個人個人のイメージや持っているスキルに委ねられている領域が大きいように見受けられます。

サッカーにおいて起こる現象を見れば「3Dフットボール」自体は目新しいものでもなんでもありません。しかし、チームのゲームプランとして「縦105m×横68m×高さ」が明確になることで、サッカーという競技はその分だけ広がりを見せていくし、チームスタイルの可能性も広がっていくように思います。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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