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佐村河内守氏記者会見から考える「ウソ」と「疑う技術」:私達はいつもだまされてきた

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(イメージ写真)

■佐村河内守氏「謝罪」記者会見

佐村河内 守(さむらごうち まもる)氏、ゴーストライター問題。佐村河内氏は「謝罪」と言っていますが、あまり謝罪には聞こえませんでしたね。会見の冒頭、次々と名前をあげてお詫びをしていますが、芝居じみて仰々しくはありましたが、謝罪の気持ちはあまり伝わりませんでした。

Yahoo!ニュース意識調査の「佐村河内氏の謝罪会見、どう思った?」(実施期間:2014年3月7日~3月17日)によれば、87.5パーセントが「誠意を感じなかった」と回答しています(3月9日現在)。

謝罪と言うよりも、言い訳と自己正当化ばかりの会見コメントだと感じました。質問をしている記者さん達も、イライラしていたようです。

■佐村河内氏、嘘とだましのテクニック

佐村河内 守氏は、「障害者」でした。ただ聴力がない(ぜんろう状態)というだけではなく、激しい耳鳴りがずっと続いていると語っていました。多くの薬を飲んでいました。強い光もだめでした。サングラスをしていました。杖もついていました。手にも痛みを感じていました。命をすり減らしながら仕事をしていました。

嘔吐と失禁を繰り返すので、週の半分はオムツをしていると、NHKスペシャルでは語っています。

彼は、クラシックの世界の人でした。非常にストイックで、気むずかしい人でした。楽譜を書く作業は、神聖なものとして、撮影を拒否していました。

これだけ苦しんでいる、これだけ赤裸々に自分を語っている、この「現代のベートーベン」を、非難したり、疑うことは、とても難しかったでしょう。

■佐村河内 守 氏のパーソナリティーと能力

佐村河内 守氏の詐欺的行為は、単なる金目当てとも思えません。今回の会見でも語っていますが、身銭を切って交響曲を作っています。彼自身は、自分の純粋な心といったことを語っていますが、おそらく、目立ちたい、自分が話題の中心でいたいといった思いがあったのではないでしょうか。

Yahoo!オーサーの水島宏明]さんは、「この人物の「自己プロデュース力」はやはり並々ならぬものだということだ」。「これほど自分が他人の目にどう映るかを計算しつくしたように「自分」を演じられる人間はかなり特殊だと言える」と述べています(佐村河内守氏が記者会見で語った「過剰演出」。各テレビ局に検証を求める)。

それを心理学的に言えば、印象操作と自己呈示(セルフ・プレゼンテーション)の名人と言えるでしょう。セルフモニタリング能力(自分や自分のまわり状況を判断して行動を決める能力)が高いとも言えるでしょう。

外向的で公的自己意識(周囲から自分の外見がどう見られているかの意識)も高いパーソナリティであることも、巧みなウソつきになれた理由でしょう。

ただし、今回は根本的にウソだとばれてしまいましたので、これまでテレビ番組で見せていたストイックな態度も、今から見ればまるでコントのようにさえ見えます。

今回の記者会見にも、多くの人はだまされませんでした。

■演技性パーソナリティー障害

ウソをつきやすいパーソナリティー障害(性格の大きなゆがみ)の一つが、演技性パーソナリティー障害です。

演技性パーソナリティー障害には、次のような特徴があります。

・自分が注目の的になっていない状況では楽しくない。

・浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。

・自分への関心を引くために絶えず身体的外見を用いる。

・過度に印象的だが内容の詳細がない話し方をする。

・自己演技化、芝居がかった態度、誇張した情緒表現。

・対人関係を実際以上に親密なものとみなす。

今回のケースでは、このようなことが見られたでしょうか。

■私達はいつもだまされてきた

◇評論家とファンをだました天才バイオリニスト

20世紀前半を代表する天才バイオリニストであるクライスラー。彼は、自分のいくつもの作曲作品を、“昔の作曲家の作品"と偽って紹介していました。これは、詐欺的な行為と言うよりも、評論家達に対する反発だったようです。

専門家である評論家達は、彼の嘘を見破れませんでした。後に本人が真相をばらしたときには、大騒ぎになったそうです。ただし、彼の才能は本物でしたので、今回のような騒動にはなりませんでした。

◇テレビ局と国民をだました霊能力者

1988年、オーストラリア中のマスコミがだまされる事件がありました。アメリカから来た著名なチャネラー(霊能力者)という触れ込みだったのですが、真っ赤な嘘でした。これは、オカルトの嘘をあばくジェームズ・ランディがしかけたことでした。マスメディアも、庶民も、簡単にだまされることが示されました。

◇私達はだまされやすい

今回の佐村河内守氏ゴーストライター騒動に関しては、マスメディアも反省すべきことがたくさんあるでしょう。ただ、現代の日本のマスコミだけがだめなのだとは思いません。

マスコミも、私達も、巧みなウソつきの手にかかるとだまされてしまうのです(それで良い訳ではありませんが)。

■疑う技術

を直接見破ることはほとんどできません。裏付けを取ったり、前の発言との矛盾を突くなど、嘘と戦うためには疑ってかかるしかありません。

藤沢晃治先生は、著書「疑う技術」の中で、情報を疑うことは自分で考えるということだと語っています。また、メディアリテラシーとは、報道を差し引く技術だとも語っています。

だまされる人は、能力が低い、「情弱」(情報に疎い情報弱者)の人々ではありません。むしろ能力が高く、多くの情報を集める人々が、しばしば見事にだまされるのです。

情報に敏感な人がネットでデマを流したり、情報に長けている人が、真っ先に全ろうの作曲家「現代のベートーベン」を賞賛したように。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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