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勝てば優勝の照ノ富士に立ちはだかる遠藤。貴景勝撃破の裏には何があったのか

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:長田洋平/アフロスポーツ

大関・貴景勝が痛い黒星

13日目の結びの一番。大関・貴景勝と、前頭8枚目の遠藤は、それぞれ2敗・3敗で、1敗でトップの照ノ富士を追う展開だった。絶対に負けられない貴景勝と、絶対に勝ちたい遠藤。その心境の違いが、土俵際に表れたような一番だった。

立ち合い。両者頭で当たり、踏み込んだのは貴景勝。そのまま一気に突き押しで攻め込む――が、土俵際で遠藤が体をひらりと右にかわし、大関を思い切り土俵下に突き落とした。喜び勇んで出ていった大関だったが、最後の一瞬で遠藤の巧さが光る結果となった。

強さと巧さを兼ね備えた照ノ富士の一番

その2番前の取組では、トップを走る大関・照ノ富士が、逸ノ城の挑戦を受けた。照ノ富士が一度目の大関だったときから、ちょうど5年ぶりとなった両者の対決。逸ノ城もすでに勝ち越しを決めて好調だったこともあり、どのような展開になるか期待がかかっていた。

胸で立ち合った両者。照ノ富士はなかなか左の上手が取れないが、右を深く差したまま、左を絞って上手を取った。途中、逸ノ城が左の上手を取りにいこうとした瞬間も、すかさず腕を返してそれを阻止してから、頭をつけて万全の体勢で寄り切り。強さに加え、技術力の高さにも感嘆させられる見事な一番だった。

付け人への餞――高まる遠藤への期待

こうして、1敗の照ノ富士に2差をつけられて追う展開となった遠藤と貴景勝。14日目は、見事貴景勝を破った遠藤が、照ノ富士の胸を借りる。

取組後のインタビュールームで、珍しく笑顔を見せたクールな遠藤。「今日はどうしても勝ちたかったので」「わかる人にはわかると思うんで、本当に勝ててよかったです」。この日、長く付け人を務めた三段目の大翔龍が土俵に区切りをつけていた。テレビの前では多くを語らなかった遠藤だったが、おそらく彼への餞だったのだろうと推察される。

付け人を思いやる、優しい心をもつ遠藤。この流れに乗って、自らの手で照ノ富士に土をつけ、自身の優勝の可能性を広げられるか――。ファンの期待も高まるばかりだ。

一方、照ノ富士が勝てば、その時点で優勝が決まる。千秋楽を待たずに優勝が決まるのは、令和元年九州場所14日目で白鵬が優勝して以来。近く綱を張るだろうと期待される照ノ富士が、その足掛かりを作れるか。

今場所の山場が、まもなくやってくる。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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