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純粋なチャレンジャーとして格上に挑むことが困難となった試合(天皇杯3回戦:柏レイソル2-1筑波大学)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
明治大学とFC町田ゼルビアに競り勝ち、3回戦進出を果たした茨城県代表の筑波大学。

 プロ・アマ問わず、日本サッカー界のナンバーワンを決めるトーナメント大会、天皇杯 JFA 第104回全国日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)は、3回戦に突入。7月10日、悪天候で中止となった1試合(JAPANサッカーカレッジvsレノファ山口FC)を除く15試合が各地で行われた。

 今回取材したのは、三協フロンテア柏スタジアムで開催された、柏レイソル(J1)vs筑波大学(茨城県)。筑波大は2回戦で、J1首位に立つFC町田ゼルビアをPK戦の末に破ったものの、その後の「炎上騒動」に巻き込まれてしまった。ようやく雑音が収まったタイミングで迎える、ベスト16に向けた戦い。今回の相手は、J1で現在11位の柏レイソルだ。

柏は監督やコーチを含め6人が筑波大出身。筑波大にも柏ユース出身者が少なくなく、まさに「兄弟対決」。
柏は監督やコーチを含め6人が筑波大出身。筑波大にも柏ユース出身者が少なくなく、まさに「兄弟対決」。

筑波大の小井土正亮監督は柏の元テクニカルスタッフ。指揮を執る戸田伊吹ヘッドコーチも柏ユース出身。
筑波大の小井土正亮監督は柏の元テクニカルスタッフ。指揮を執る戸田伊吹ヘッドコーチも柏ユース出身。

筑波大は前半から格上相手に臆することなくプレー。柏はシュートの態勢に持ち込めない時間帯が続く。
筑波大は前半から格上相手に臆することなくプレー。柏はシュートの態勢に持ち込めない時間帯が続く。

しかし16分、山本桜大のスルーパスを受けた木下康介が、そのまま前進。右足でネットを揺らして柏が先制。
しかし16分、山本桜大のスルーパスを受けた木下康介が、そのまま前進。右足でネットを揺らして柏が先制。

柏の前半のシュートはこの1本のみ。1点ビハインドとなった筑波大は、下を向くことなくゴールを目指す。
柏の前半のシュートはこの1本のみ。1点ビハインドとなった筑波大は、下を向くことなくゴールを目指す。

後半は柏が主導権を握り続けた。沈黙を強いられた筑波大は80分、高山優のCKが劇的な瞬間を演出する。
後半は柏が主導権を握り続けた。沈黙を強いられた筑波大は80分、高山優のCKが劇的な瞬間を演出する。

相手のオウンゴールで同点に追いついた筑波大。2回戦につづく劇的な展開に、控え選手も歓喜の輪の中へ。
相手のオウンゴールで同点に追いついた筑波大。2回戦につづく劇的な展開に、控え選手も歓喜の輪の中へ。

J1クラブ相手に2試合連続で延長戦に持ち込んだ筑波大。しかし100分、CKから細谷真大に頭で決められる。
J1クラブ相手に2試合連続で延長戦に持ち込んだ筑波大。しかし100分、CKから細谷真大に頭で決められる。

残り20分、筑波大は死力を尽くして追いつこうとするも、柏の試合巧者ぶりになすすべなくタイムアップ。
残り20分、筑波大は死力を尽くして追いつこうとするも、柏の試合巧者ぶりになすすべなくタイムアップ。

2−1で4回戦に進出した柏だが、前回大会は決勝で涙を飲んでいる。あの舞台にたどり着くまで、あと3勝。
2−1で4回戦に進出した柏だが、前回大会は決勝で涙を飲んでいる。あの舞台にたどり着くまで、あと3勝。

試合後、スタンドに向けて深々と一礼する筑波大の選手とスタッフ。柏のサポーターからも温かい拍手が。
試合後、スタンドに向けて深々と一礼する筑波大の選手とスタッフ。柏のサポーターからも温かい拍手が。

 試合後の会見で、まず「遅い時間まで皆さんお疲れさまでした」と報道陣を労っていた筑波大の小井土監督。チームとして「本気で勝ちに行った」ことを強調しながら、こう続けた。

「すべてを出し切れたのも、柏レイソルさんが本気で戦ってくれたからだし、前回の町田ゼルビアさんも本気で向かってくれたから、そういうギリギリの勝負をさせてもらいました。やっぱり天皇杯という大会は学生にとって、アマチュアにとって、本当に大きな意義があると思います」

 筑波大では、実質的な指揮はヘッドコーチに任されているが、全体のチームマネジメントは小井土監督の役割。おそらくこの試合では、先の町田戦に続いて相手に負傷者が出てしまう懸念が常に頭にあったと察する。

 この試合で、筑波大に与えられたカードは5枚。内訳は反スポーツが3枚、ラフが2枚である。決して褒められた数字ではないが、味方に退場者を出さず、相手に負傷者も出なかったことに、小井土監督は人知れず安堵していたのではないか。

 1試合で4人の負傷者が出たことについては、町田に同情するほかない。けれども、そのことに負担を感じながら再びJ1勢と戦うことになった筑波大もまた、大いに同情されるべきである。

 アマチュアである彼らにとり、純粋なチャレンジャーとして格上に挑むことが困難となった天皇杯3回戦。都道府県代表で最多34回となる筑波大だが、今回の天皇杯の記憶はどのように刻まれるのであろうか。

 最後に、8月21日に開催される4回戦(ラウンド16)の組み合わせを記しておく。

V・ファーレン長崎vs横浜F・マリノス@トラスタ
サンフレッチェ広島vs愛媛FC@ニンスタ
ガンバ大阪vs湘南ベルマーレ@パナスタ
ヴァンフォーレ甲府vs鹿島アントラーズ@JITス
柏レイソルvsヴィッセル神戸@三協F柏
京都サンガF.C.vs大分トリニータ@レゾド
ジェフユナイテッド千葉vs北海道コンサドーレ札幌@フクアリ

 なお、3回戦の残り1試合は7月17日に行われ、勝者のホームスタジアム(デンカS or みらスタ)でサガン鳥栖と対戦する。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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