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「教員採用試験の前倒しは必要」と阿部文科相は強調、追いかけているのは「受験者増」の数字だけなのか

前屋毅フリージャーナリスト
阿部文科相は教採前倒しを肯定するが・・・。(写真:つのだよしお/アフロ)

 阿部俊子文科相は11月5日の記者会見で、教員採用試験(教採)の前倒しについて「ほかの業種との人材確保競争の観点から選考実施時期の前倒しは必要であると考えている」と述べた。しかし必要だったのは、それとは違う発言だったのではないだろうか。

|大量辞退の原因は併願者が増えたこと

 高知県教育委員会が実施した今年(2024年)の小学校教採で合格した280人のうち、10月末までに204人もの大量辞退が発生していることが明らかになっている。その問題を記者会見で質問された阿部文科相は、「任命権者としての、いわゆる教師の人材確保に向けた工夫のひとつであると受けとめている」と高知県の前倒し実施を評価した。そして冒頭の発言のように、「必要である」と明言もしたのだ。前倒しを促している当事者としての反省はなかった。

 さらに、「ほかの業種への就職が多い教育学部以外の学部出身者が多く受験する中学校、高等学校の(教採)受験者を確保し、教師を職業選択の際の選択肢にしていただくために、早期化は必要な取り組みであると考えております」とも述べ、「(前倒しをすすめる)考えに変わりはございません」と念を押している。

 これまで教採の1次試験は7月に実施されるのが普通だったが、高知県は前倒しを先駆け的に実践してきた。それで人員を確保できたかといえば、そんなことはなかった。あまりにも不足したため、昨年は教育長が街頭に立って教員志望者を募るという事態まで起きた。今年の実施は昨年より早めたものの、合格者の7割もが辞退するという、昨年よりも悪い結果になってしまったのだ。

 大量辞退となったのは、合格者が高知県の実態に怖じ気づいて逃げだしたからではない。教採の実施時期を早めたことによって、併願者が増えたことに大きな原因がある。

 ほぼ同時期に実施されていた従来の教採では、併願は簡単ではなかった。それが高知のように早いところがでてくると、併願はしやすくなる。「滑り止め」とか「試し受験」での受験者が増えるわけだ。それで合格すれば、当然ながら「本命」を選ぶことになるので辞退することになる。

 高知だけではない。昨年は高知よりも早く、全国でいちばん最初に教採を実施した鳥取県でも、合格者の半数以上が辞退している。やはり併願者が多かったことが原因である。

|併願者を増やしても教員不足は解消しない

 教採の実施時期を早めたからといって、併願者を増やすだけで、教員を確保し、教員不足を解消することにはつながらない。それでも文科相は、「考えに変わりはございません」と強弁する。

 文科省にとって、併願者が増えるのは悪いことだけではないのかもしれない。併願者が増えることは、数字のうえでだけは受験者が増えることになる。その数字だけを切り出せば、「施策は成果をあげて教員志望者は増えている」と文科省が胸をはるのも不可能ではない。たとえば予算要求でも、「結果がでているのだから、もっと予算をよこせ」と言えるかもしれない。

 そうした「見せかけの成果としての数字」を、文科省は欲しがっているのかもしれない。だからこそ文科省は教採実施の標準日を2024年には従来の7月から6月16日とし、来年25年にはさらに前倒ししての5月11日として、各教育委員会に前倒しを促している。併願者を増やすことに躍起になっているとしかおもえない。

 しかし、教採の前倒しでは辞退者を増やすばかりで、肝心の教員不足は解消できない。そのことは、高知県の例だけでもはっきりしている。記者会見で阿部文科相が語るべきは、「必要である」との強弁ではなく、「再検討する」の一言だったのではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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