介護帰省にストレス……「帰省をあきらめてください」に安堵する中年子らの事情
コロナによって帰省のしづらい状況が続いています。帰省できず残念がる人がいる一方、「角を立てず」に帰省を取り止められたと喜ぶ人もいます。事情はさまざま……。そんななか、コロナ禍を逆手に、介護帰省の負担軽減に成功した人も。
「内心、ラッキー」
ミチコさん(40代、パート、東京在住)は会社員の夫(50代)と大学生の娘との3人家族です。ミチコさんの夫は山陰地方出身で、80代の義父母が2人で暮らしています。
3年ほど前から義父の体調が芳しくなく、介護保険のサービスを利用しています。夫はひとりっ子で、父親に介護が必要になってからは隔月に週末を利用して帰省するようになりました。
「私も夫に同行していました。でも、居心地悪くて。遠方だし、行けば泊まりになるでしょ。悪い人たちじゃないんだけれど、難しいところがあって。それに、私ばかりせかせか家事や義父のことを手伝い、夫はテレビ見てたりして、釈然としない気持ちもありました」とミチコさん。
介護帰省の同行にストレスを感じ始めたころ、コロナ禍に。義母から、「東京の子が帰ってきたら、ご近所に顔向けできない」と言われて、帰省はなくなりました。「内心ラッキーと思いました」とミチコさん。
夫は1人で行って苦労を理解
その後も、感染の落ち着いたタイミングを見計らい、夫1人で1度帰省しましたが、ミチコさんは行きませんでした。
ただ、義父母は早々にワクチン接種を終えたので、「夏には介護帰省の同行再開か」と覚悟していたそうです。ところが、感染爆発……。結局、お盆も、ワクチンの2回接種が終わっていた夫だけが帰省。
「おかげで私が向こうの実家に行かないことが常態化したっていうか……。私が行かないと、あれこれ夫がやっているようです。帰ってきて、義母や義父のことでグチのオンパレード。難しさを体感しているみたい。グチは聞いてあげます」
ミチコさんは夫に対し、「コロナが収束しても、1人で帰省してね」と言ってみたそうです。すると、夫は「そうだね、あの人らのことは君の手に負えないかも」との返事が。コロナによって、思いがけず、ミチコさんは義父母宅への介護帰省から抜け出すことができそうです。「私は夫のグチを聞き、夫の健康管理に力をいれます」とにっこり微笑むのでした。
「僕が帰るとご近所から嫌がられるだろ」
帰省できないことを逆手にとって、「うまく介護体制を築けた!」と喜ぶ男性もいます。タクヤさん(60代、会社員、神奈川在住)です。
東北地方の実家では、母親(80代)が1人暮らしです。足腰の具合が悪く、ずっと前から「ヘルパーさんに来てもらおう」と勧めていましたが、母親は「他人が家に来たら、疲れるだけ」と一蹴。仕方なく、タクヤさんが新幹線で月2回通い、生活をサポートしてきました。
昨年、コロナ禍となったタイミングで、タクヤさんは母親に対し「僕が帰ると、ご近所から嫌がられるだろ。介護保険のサービスを使うしかないよ」と言ったところ、母親は渋々ながら、ホームヘルプサービスの利用を了承。
さらに、ケアマネジャーの勧めで、デイサービスにも週に2回通うようになりました。「僕としては帰省しなくなって、お金も時間も助かった。身体も楽になった。こっちだって歳だから」と笑みを浮かべます。
コロナ禍を介護サービス利用のチャンスに
コロナによって帰省がままならず、心配なのは地方出身者の共通課題。でも、嘆いていても、個人の力ではどうにもなりません。
帰省する人は感染対策を万全に、帰省したくない人は上手に口実に。
いずれにしても、子の帰省が難しいということは、介護サービス利用に消極的な親に対し利用を勧める絶好のチャンスです。「家族は帰省できないんだから、サービスを使うしかない!」とちょっと強めにプッシュしてみてはいかがでしょう。
介護保険の認定を受けているのにサービス利用を拒んでいる親なら、担当のケアマネジャーに電話して、「ケアマネさんからも、親にサービス利用を勧めてください」と後押しの依頼を。
介護保険を使っていない親のことが気がかりなら、親の地元の地域包括支援センターに電話してみましょう。「親のことが心配だけで、帰省できないんです」と言えば、ようすをのぞきに行ってくれると思います。そして、必要に応じて、「申請代行」という方法で介護保険の申請を代わりに行ってくれるはずです。嬉しいことに無料です。
地域包括支援センターとは、高齢者の生活や介護のこと全般について相談にのってくれる窓口で、概ね中学校区に1か所設置されている公的な機関。所在がわからない場合は、親の地元の役所に電話して、親の住所を言えば教えてくれます。
コロナを逆手にとって、親を地元の専門職とつなげ、親も子も安心できる環境整備の実現をめざしたいものです。