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ネコの「トイレ」は飼い主ではなくネコのためにある

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 外へ出さないネコは飼い主の屋内で排泄する必要があるが、ネコは屋外で排泄する際、好む場所や砂、土があり、屋内でも同じ環境を好む傾向がある。ネコを飼う場合、最初に購入するのが餌とネコのトイレだ。

トイレの数とサイズ

 排泄物で室内を汚すネコは、トイレ環境に何らかの不満があることがほとんどで、もちろんネコに罪はなく、こうした問題行動の原因はあくまで飼い主にある。米国の獣医師協会が定めたガイドラインには、飼っているネコの頭数に応じたトイレの数、ネコの個体に合ったトイレのサイズなどが細かく定められている。

 このガイドラインによれば、単独飼いのネコでも2つのトイレを別々の場所に置いたほうがいいようだ。多頭飼いの場合、少なくともネコの数プラス1個のトイレが推奨されるとし、ネコの性格によってはもっと多くのトイレが必要なケースもあるとしている。また、トイレのサイズは大きいほどいいが(※1)、トイレの長辺がネコの鼻先から尻尾の付け根までの長さの1.5倍以上の長さであることを推奨している。

とても大切なネコ砂

 ネコは清潔好きなので、ネコ用のトイレも常に清潔に保つべきだが、ペット用品にはネコのトイレ用の容器、排泄物を隠す習性のあるネコが掘りやすい砂状の製品がある。ほとんどのネコ砂製品は、砂が散らからない、固まる、トイレに流せる、消臭効果がある、オーガニックなど、飼い主にとってのメリットばかりがうたわれているが、こうした特徴がネコにとっても魅力的とは限らない。

 本来、ネコを飼い始めた最初の段階で、複数の異なったトイレとネコ砂を用意し、彼彼女がどれを好むのか、観察すべきだ。そのネコにとっては、ネコ砂につけられた芳香剤を不快に感じるかもしれないし、固まった尿を嫌っているかもしれない。

 粒状粘土(吸水性・吸着性に富んだベントナイト)、粒子状シリカゲル、木性ペレットの3種類のネコ砂を比較した研究によれば、ネコは粒状粘土と粒子状シリカゲルをより好んだ。また、個体ごとでは粒状粘土と粒子状シリカゲルの両方より、どちらか一方を選び続ける傾向があった(※2)。

 ネコ砂の深さにも好みの違いがあり、少なくとも3cm程度の深さが必要で、好む深さは7.5cmから10cm程度とされている。また、足に怪我をしたり、病気になったネコは、トイレの好みが変化する場合があるという。

 トイレの管理は飼い主の責任だ。最低1日1回は排泄物を取り除き、砂を補充する必要がある。トイレ全体の掃除は、1週間から2週間ごとにきれいに洗い、砂は全て入れ替える。泌尿器などの病気にかかったネコは、よりひんぱんに掃除しなければならないケースもある。また、洗う際には、アンモニアなどが含まれた化学洗浄剤を避けるほうがいい。

問題行動は飼い主の責任

 また、トイレを置く場所にも注意が必要で、ネコが普段過ごす場所から適度な距離があり、ネコがアクセスしやすく、イヌなど他のペットが邪魔をしていたりせず、洗濯機など大きな音を立てる家電製品の近くでない場所を選ぶべきだ。トイレの真ん中にしゃがんで排泄しているようなら、そのネコはトイレに満足していると考えられる。

 ネコはイヌほどマーキング(尿を自分の印として残す行動)しないが、飼い主と離ればなれになったり、環境変化で不安が生じるとトイレ以外の場所で排尿するネコもいる。よく遊んでやり、ネコ・タワーなどをそろえてやり、トイレの数と場所、砂などに注意するなど、環境を整えてやることでマーキングがやむ場合もあるようだが、それでも続くなら獣医師に相談したほうがいいだろう(※3)。

 いずれにせよ、ネコのトイレは飼い主の利便性のためにあるのではなく、あくまでネコが快適に生きていくために必要なものであり、その環境を整えるのは飼い主の責任と考えることが重要だ。

※1:Norma C. Guy, et al., "Litterbox size preference in domestic cats (Felis catus)" Journal of Veterinary Behavior, Vol.9, Issue2, 78-82, March-April, 2014

※2:Virginie Villeneuve-Beugnet, Federic Beugnet, "Field assessment of cats' litter box substrate preferences" Journal of Veterinary Behavior, Vol.25, 65-70, May-June, 2018

※3:Terry Marie Curtis, "Behavior Problem or Problem Behavior?" Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice, Vol.50, Issue4, 707-718, July, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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