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スマホがなかったら、愛はもっと育ってるんじゃなかろうか説

渥美志保映画ライター

今回は「今月の絶対面白い映画」の中から――じゃないんですが、そこに入れそこねてしまったタイ映画『すれ違いのダイアリーズ』を【激押し】でご紹介します。

これ、タイの田舎町の「水上学校」を舞台に、1冊の日記を巡って繋がる男女の物語なのですが、今まで見てきたタイ映画の中で一番好きな作品です。タイ映画ってなかなかイメージしにくいかと思いますが、すれ違い系ラブストーリーとして秀逸の脚本、笑いと切なさ満載の展開、映像の美しさ、子供たちの可愛さ、どれをとっても抜群です。

SMAPの香取慎吾にちょっと似た感じの主演の男の子もすこぶる可愛い!公開日は今月の当たり日で、ジョージ・クルーニーの『ヘイル!シーザー』とかもありますが!それを押しのけて、あえてのこの作品、いってみたいと思いまっす!

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まずは物語。恋人に尻を叩かれて始めた就職活動で、未経験なのになぜか教師の職をゲットしたソーン。元レスリング選手だから体育教師?かと思いきや、学校側は誰も行きたがらないど田舎の分校に行ってくれる人を探していて、「何でもやります!」というソーンは飛んで火にいる夏の虫だったわけです。tでもって早速送り込まれたのが湖にポツンと浮かぶ水上学校。はい、こちら。

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電気もガスも水道もなく、交通手段は周辺住人が出してくれるボートだけ、屋根はスッカスカで便所はボットン、虫やらヘビやらわしゃわしゃ出る場所です。ここで学年も違う4人の生徒を相手にソーンの初授業が始まりますが、もちろん教師は未経験、何ひとつわからないままとりあえず先生ぶってみたりするものの、結局様々な失敗をやらかし、子供たちからは完全にバカにされ、立つ瀬全くなし。自分のダメダメぶりに落ち込んでばかりのある日、ソーンは黒板の上に前任者エーン(女性)先生が忘れて行った日記帳を発見するのです~。

映画は、同じ水上学校で過ごす二人の別々の時間を、比べながら描いてゆきます。

この水上学校、先生が住み込むのは当然ですが、子供たちを月曜の朝から金曜夕方まで預かり、勉強を教えながら生活を共にしている場所です。だから巻き起こるトラブルも、例えば水のタンクにヤモリが詰まったとか、ボットン便所の下に死体が流れ着いたとか、台風で学校が大破する(!)とか、普通の学校モノとは全然違います。そうした思わぬ事態に、無我夢中で気丈に対処する「しっかり者のエーン先生ver.」と、彼女の日記を参考にしているのに常にオモシロな結果に終わる「ダメダメな空回りソーン先生ver.」で描いていく前半は、笑いの連続です。

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特にソーン先生役を演じるアイドル、ビーくんが、なんとも愛嬌があって憎めません。学校に出たヘビを退治する場面なんか傑作で、子供たちからの初めての声援に奮起して大勝利――のあとのアホな展開がほんとに爆笑で、このダメ先生を愛さずにはいられません。

やがてソーンと生徒たち、エーンと生徒たち、その楽しい日々が水上学校の中でファンタジックに重なってゆきます。子供たちへの愛情や教育への情熱、一人ぼっちで学校を運営する不安と孤独、そして「ネバーギブアップ」という言葉――日記の内容に教えられ、共感し、時に自分の気持ちを書き込みながら成長するソーンの中に、やがてエーンへの思いが募ってゆきます。

そうした中で並行して描かれるエーンの「今」が、彼女が水上学校から去った事情や、今何をしているのかを明かしてゆきます。エーンは本当にいい先生で、子供たちにもすごく愛されているのですが、情熱があるからこそ大きな失望も抱えてしまう人。優秀で真面目な女性にすごく多いタイプで、「エーン、負けないで。そっちに逃げないで」と思いながら見るのですが、彼女のそういう失望を、学校を引き継いだ明るさと一生懸命さだけが取り柄のソーンが、不器用ながらに解決していったりする。日記を通じて繋がる二人は、実は互いを補完し合うことのできるいいコンビなんです。

ところがこの二人、とことんすれ違いまくるんですね~。これがこの映画の脚本のめっちゃ上手いところであり、めっちゃ面白いところです。その昔、ヒロミGOも歌っていましたが、会えない時間が愛育てるわけて、後半は、あああ~!もうちょっとなのに!というヤキモキする場面が連続し、すべての観客が「どうか二人を出会わせてあげて!」と願うに違いありません。知らない人と、互いを知り合う前に出会える、手軽に連絡がとれる、顔もすぐ見られる現代では、なかなか成立しないこういう設定を、こんなにも説得力のある物語にして、見るものをドキドキさせるのに成功した奇跡のような作品だと思います。

風景がホントにきれいです~。
風景がホントにきれいです~。

100人中100人が愛してしまうに違いない物語の他にも、魅力がいっぱいの作品です。特にタイの風景の美しさはうっとりするほど。水上学校のテラスで日記を書くエーンの向こうで青く暮れてゆく湖の風景、湖の岸に連なる霧に包まれた山々の稜線、「ロイクラトン祭り」で上空にふわりと飛んでゆくいくつもの灯篭――もう行きたい行きたい!タイに行きたい!と思ってしまうに違いありません。

タイで大ヒットを記録し、国際映画祭でも多くの観客の支持を獲得した作品。皆さんの「タイ映画デビュー」に、是非是非是非、見て頂きたい作品です。子供たちもメチャメチャ可愛いですよ~。

『すれ違いのダイアリーズ』

5月14日(土)公開

公式サイト

(C)2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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