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フェザー級進出は2年後と明かした井上尚弥。今からチェックしておきたい強敵4人

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
WBO王者ラミレス。ドグボー戦(Mikey Williams/Top Rank)

スーパーフェザー級でラストファイト?

 今月上旬、東京都内で行われたトークイベントに出席したWBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者井上尚弥(大橋)は「フェザー級に行くのは2年ぐらい必要かなと。今年もう1試合やって、来年は3試合やりたいと思っているので、フェザー級は再来年ぐらい。32歳ですね。32歳からフェザー級の体をつくって、35歳ぐらいでラスト1試合をスーパーフェザー級に行ければと思っています。スーパーフェザー級で4団体統一なんかはまったく考えていないです」と展望を語った。

 個人的にひとまず安堵した。海外では複数階級制覇の段階で、すぐにウエートクラスを上げる傾向が見られる。統一王者スティーブン・フルトン(米)に8回TKO勝ちでスーパーバンタム級王者に就いた井上は今のところ同級が適正なクラスだと認識される。締結が有力視されるWBAスーパー・IBF世界スーパーバンタム級統一王者マーロン・タパレス(フィリピン)との4団体統一戦に勝利すれば一気にフェザー級進出かという予測もあっただけに井上の発言は私には好意的に感じられた。タパレスを破り比類なきチャンピオンに君臨しても井上にはまだ戦う価値がある相手が存在するからだ。

 井上が口にした「来年の3試合」の対戦相手とはおそらくタパレスに微妙な判定で2冠を失ったムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、元WBC世界バンタム級&スーパーバンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)、バンタム級までの軽量級で3階級制覇を達成した元王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)ではないだろうか。いずれも実力者たちで多士済済のラインナップと言いたいところだが、ネリとカシメロがいわくつきの選手であることはファンはよくご存じだろう。

 4団体統一王者に君臨した井上が彼らにスペクタクルな勝利を飾る姿は十分に想像できる。それがモンスター井上の力量と期待の表れである。スーパーバンタム級で確固たる地位を築き、126ポンド(フェザー級)へ進出するのが王道に違いない。海外ファンからは「それでは長すぎる」という声も聞かれるが無理なウエートアップは予期せぬ事態を招きかねない。繰り返すが井上がトークイベントで明かした言葉を尊重したい。

IBF王者は苦戦だった

 この記事を書こうと思ったのは15日(日本時間16日)米テキサス州コーパスクリスティで行われたIBF世界フェザー級タイトルマッチ、王者ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)vs.挑戦者ジョエト・ゴンサレス(米)の試合結果がきっかけだった。前回5月、英国北アイルランドでマイケル・コンラン(アイルランド)を右アッパーカットで倒し、5回KO勝ちで初防衛に成功したロペスが3度目の世界王座アタックとなるゴンサレスに3-0判定勝ちで2度目の防衛を果たした。スコアカードは118-110、117-111、116-112でロペスの勝利。

 しかしオッズがおよそ7-1で絶対有利を予想されたロペス(30歳)は辛勝に思えた。試合を米国へ中継したESPNの採点は115-113でゴンサレスの勝ち。同じくメキシコで中継したTVアステカ(放送は翌日16日)のスコアは114-114のドロー。私のスコアも115-113でゴンサレスだった。

 プロで4敗目を喫したゴンサレス(26勝15KO=29歳)はこれまで負けた相手がシャクール・スティーブンソン(米)、エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)、アイザック・ドグボー(ガーナ)そしてロペスとすべて世界王者か同経験者。一度もノックダウンを喫していないタフネスと激闘を売り物にするハートの強さを誇る。だから前回アウェーでセンセーショナルな勝利を収めたロペスにしてもストップ勝ちに持ち込むのは難しいと思えた。だが今回の出来は正直、期待外れだった。先月、ロペスはメキシコのボクシング専門メディア「イスキエルダッソ」(左強打の意味)に「フェザー級で井上の挑戦を待ち受ける」と広言した。だが今回の試合を見る限り、馬力はあるがモンスターに太刀打ちするのは難しいと思える。

ロペスvs.ゴンサレスのハイライト

フィゲロア、ラミレスは好敵手

 2年後、フェザー級が現在と様相を異にしていることは十分に想像できる。それでも現王者、ランキングボクサーで井上とファンの腰を浮かせる試合が期待できる選手がいる。彼らをピックアップしてみよう。

 最初に挙げたいのがWBCフェザー級暫定王者ブランドン・フィゲロア(米)。元WBC世界スーパーバンタム級王者(一時同級WBAレギュラー王座も保持)フィゲロア(24勝18KO1敗1分=26歳)は現在暫定王者ながらフェザー級ナンバーワンに据えるメディアもある。

 身長173センチの痩身の体型と184センチと長いリーチを誇るスイッチヒッター。当面は統一戦で敗れたフルトンとの再戦がオプションにある。体型からは想像がつかないアグレッシブな選手だけにフェザー級に留まり、ベルトを保持していれば井上との対決はファン垂涎のカードとなるに違いない。

 井上vs.フルトンのセミファイナルで五輪銅メダルの清水聡(大橋)を5回TKO勝ちで一蹴したWBO世界フェザー級王者ロベイシー・ラミレス(キューバ)はロンドン、リオデジャネイロ五輪連続金メダリスト。プロデビュー戦で無名選手にいきなり黒星と洗礼を浴びたが名将イスマエル・サラス・トレーナーに師事して生まれ変わった。

 サウスポーの技巧派パンチャーはこれまで13勝8KO1敗。豊富なアマチュアキャリアを誇りながら、まだ井上を同じ29歳と脂が乗っている。エリートアマがプロスタイルを吸収しているのが強み。清水戦の後、米マイアミに戻ったラミレスにインタビューする機会があったが、「私はいつもベストな選手と対戦したい。だから(井上を)待っている。ノープロブレム」と彼は言っている。

阿部麗也のロペス挑戦は大丈夫?

 上記のIBF王者ロペスに一度勝っているのが最新ランキングでWBC4位、IBF8位を占めるルーベン・ビジャ(米)だ。ロペスを3-0判定勝ちで下したのが19年5月。20年10月、ラスベガスでコロナ禍による無観客試合でWBOフェザー級王座をナバレッテと争い、2度ダウンを奪われて3-0判定負け。だがそれ以外の場面では現3階級制覇王者ナバレッテに技巧とスピードで対抗。敗れはしたが大いに株を上げる健闘を披露した。

 サウスポーのビジャはフィゲロアと同じ26歳。これまで21勝7KO1敗とパワー不足を指摘されるが、スキルとセンスでは井上に負けないものを持っている。フェザー級の“フルトン版”とも言え、かつパンチ力はフルトンを勝ると思われる。

 IBF1位は阿部麗也(KG大和)でロペスの指名挑戦者のポジションを確保している。しかし今回ロペスvs.ゴンサレスを中継したESPNは放送中、前座カードで勝利を飾ったビジャが次戦でロペスに挑戦する可能性をほのめかしていた。阿部陣営には予断を許さない展開になるかもしれない。

前座カードでブランドン・バルデス(左端)に勝ったビジャ(写真:Mikey Williams / Top Rank)
前座カードでブランドン・バルデス(左端)に勝ったビジャ(写真:Mikey Williams / Top Rank)

スター候補のアルゼンチン人

 もう一人紹介したいのがWBA4位ミルコ・クエジョ(アルゼンチン)。あと3日ほどで23歳になるクエジョはアマチュアで105戦を経験し東京五輪にアルゼンチン代表として出場。それ以前に20年11月、プロデビューし五輪までにプロで4試合消化していた。

 これまでプロで13勝11KO無敗のパンチャーは初回KOが6回、2回KO勝ちが3度と即決型の強打者。15日に行った最新試合(米テキサス州サンアントニオ)ではルディ・ガルシア(米)に10回判定勝ちに終わったが、端正なマスクの持ち主で今後の活躍次第で人気が沸騰する可能性を秘める。

即決決着が多いクエジョ(写真:TyC Sports)
即決決着が多いクエジョ(写真:TyC Sports)

 井上がフェザー級進出を決意した時、これらの逸材は果たしてどんなポジションを占めているか。脱落してしまう者も出てくるだろう。同時にモンスターのチャレンジは無限大の可能性を感じさせる。迎え撃つ彼らが武者震いしていることが彼の存在を浮き彫りにしている。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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