「賞味期限切れ」備蓄食料を農水省が寄付 国として初の試み、その意義とは?
農林水産省は、2020年12月18日、備蓄していた食料を、食料支援の団体らに寄付した。2019年に引き続きの備蓄食料の寄付だが、今回新たに取り組んだのは、賞味期限が過ぎた缶詰なども捨てることなく活用し、食品ロス削減につなげた点だ。
賞味期限を過ぎた備蓄食料も寄付
2020年12月18日に寄付した備蓄食料の提供品目と賞味期限、提供先は次の通り。一番上の「やわらかご飯」は賞味期限内だが、カロリーメイトは2日後に賞味期限を迎える。また、フルーツの缶詰は寄付の2ヶ月以上前に賞味期限が切れている。しかし、賞味期限はおいしく食べられる「目安」であり、品質が切れる期限ではないので問題ない。
拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(p85)に書いたが、東京農業大学客員教授で食品の保存に詳しい徳江千代子先生によれば、賞味期限が過ぎても食べられるものの例として缶詰が挙げられる。徳江先生によれば、「私が調べた中で一番長いものでは15年というのがありました。ただし、調味液が非常に濃いものとか、シラップ漬けが濃いもの」とのこと。
企業に承諾を得た上で寄付
今回の寄付について教えてくださった、農林水産省大臣官房の参事官、秋葉一彦さんによれば、賞味期限が過ぎたものの寄付については、事前に製造企業に説明し、承諾を得られたもののみ実施しているとのこと。
今回、寄付された備蓄食品は、いずれも寄付を快諾してくださった企業の製品だが、一方で、寄付を逡巡する企業もいるそうだ。
「農林水産省(国)が出してくれるのがすごく重要」
2019年に引き続き、農林水産省の備蓄食品を受け取るために、福島県から車でやってきたNPO法人FUKUSHIMAいのちの水の代表理事、坪井永人さんは、「農水省が出してくれるということがすごく重要」だと、次のように語った。
(このコロナ禍で)私が東京へ行くことを、メンバーが止めました。うちの会の後ろに、毎月2,000人から3,000人の子どもがいるんです。小学校や中学校より、うちの会の方が、子どもに接する数が大きいんです。それがあるものですから、外部の人間は事務所に入れないように、今回のコロナに対処しています。ものすごく気を遣っています。1月には、あぶないということで、配布を中止しました。そんなことで、会員が「本当に東京に行って大丈夫なのか」という思いがありました。
それでも私はあえて来たんです。それはなぜかというと、農水省が(国が)備蓄品を放出するということがすごく重要だからです。各企業はそれぞれ(食品の寄付を)やっていますけども、国がやることによって、それ(寄付)が本当にいいことなんだ、正しいことなんだと、日本の企業全体が思うようになる。
今まで企業が寄付をやっていたのは企業の社会的責任(CSR)ですけど、どうしても、企業利益というのがある。ですけど、公がやることで、これは非常に社会的に大切なんだという認識が、おそらく企業の中に育つ。私は、それはすごく重要だと思っています。そのことをぜひやってもらいたい。私たちもそのことに参加をして、貢献性のある、マッチングシステムができるお手伝いをしたい。そのために来ました。本日はありがとうございました。子どもたちがとても喜ぶと思います。
賞味期限は「おいしいめやす」
先日、筆者が審査員を務めた、消費者庁の賞味期限愛称コンテストで大臣賞に選ばれたのが「おいしいめやす」だった。
下のグラフのうち、赤い線は、気をつけるべき「消費期限」だ。弁当や総菜、調理パンや刺身、生クリームのケーキなど、日持ちが5日以内のものに使われる。
それ以外の加工食品に関しては黄色い線で、賞味期限が表示される場合、1未満の数字を掛け算して算出される。すなわち、10ヶ月おいしく食べられるカップ麺であれば、0.8の安全係数を掛け算すると「8ヶ月」が賞味期限になる。グラフの点線(賞味期限)を過ぎても、品質が急激に劣化することはないのがわかる。国は0.8以上の安全係数を推奨しているが、現実には分析センターや企業の裁量にゆだねられており、0.5や0.6、0.7を使っているケースもある。つまり、おいしく食べられる「目安」ですら、短めに設定されているということだ。
加工食品の中でも、缶詰は真空調理されるので、外から穴が開けられるなどがなければ、理論上は菌が入りようがない。缶それ自体の品質保持期限が3年間なので、賞味期限はそれにあわせて3年間となっているが、実際は、前述の通り、10年以上おいしく食べられる場合も多い。
今回、賞味期限を「おいしいめやす」と捉え、過ぎても飲食可能な備蓄食料を国が寄付した意義は大きい。イギリスは、このコロナ禍で、賞味期限を過ぎてもこれくらいの期間は飲食可能というガイドラインを発表した。
日本も、少しずつ、食品ロスを減らす取り組みが進んできている。2019年は、これまで廃棄していた備蓄食料を農林水産省が初めて寄付し、2020年には賞味期限が過ぎた備蓄食料を農林水産省が初めて寄付した。2021年も、農林水産省の新たな取り組みが期待される。
参考情報
農林水産省初の試み、賞味期限が迫った備蓄食品を捨てずに寄付、食品ロス削減に繋げる