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ロシア軍が3カ月ぶりに大規模ミサイル攻撃、ウクライナ軍が86%を撃墜するも被害発生

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍司令部より2024年11月17日迎撃戦闘撃墜戦果

 11月17日、ロシア軍はウクライナに対して大規模な長距離ドローン・ミサイル攻撃を仕掛けました。各種ドローン90機とミサイル120発の合計210目標が飛来し、144目標を撃墜、また43目標が未到達(推定:囮機)となり、未到達を除いた迎撃率は86%です。ウクライナ防空部隊は出来る限りの戦いをしましたが、23目標の突破を許し、火力発電所に被害が生じています。

 これほどの大量のミサイルを中心とする大規模攻撃は8月26日の攻撃以来で、約3カ月ぶりです。Kh-101巡航ミサイルの大量投入もこの日以来です。正確にはKh-101巡航ミサイルは9月4日(6発)と11月13日(2発)の小規模使用があり、完全な発射空白期間は約2カ月間でした。ロシア軍は暫く使わず貯め込んでいたミサイルの再投入を開始したのです。

 8月後半からドローンの飛来数が急激に増え始めて、10月は約2000機ものドローン飛来がありましたが、増えたその大半(おそらく7割前後)は安価な囮機と発覚しており、自爆機の突破数はさほど増えていないことが分かっています。関連記事

 ロシア軍は長距離ドローン攻撃で大量の囮機を混ぜるという新たな戦法を実行してきましたが成果があまり上がっておらず、再び大規模な長距離ミサイル攻撃で重要目標を打撃しようと画策しています。おそらく、暫く使わずに貯め込んでおいたミサイルの備蓄だけで同規模の攻撃をあと数回は行えるでしょう。これに今行っている生産分のミサイルが追加されていきます。

2024年11月7日迎撃戦闘:ウクライナ空軍司令部

  • 3M22ツィルコン極超音速巡航ミサイル×1飛来1撃墜
  • Kh-47M2キンジャール空中発射弾道ミサイル×8飛来7撃墜
  • Kh-101/カリブル巡航ミサイル×101飛来85撃墜
  • イスカンデルM弾道ミサイル×1飛来0撃墜
  • Kh-22巡航ミサイル/Kh-31P対レーダーミサイル×4飛来4撃墜
  • Kh-59/Kh-69空対地ミサイル×5飛来5撃墜
  • 敵性無人機(囮機含む)×90飛来42撃墜43未到達(うち2機ロシア迷走)

※迎撃戦闘の混乱の中で飛行特性が似ている長距離亜音速巡航ミサイルのKh-101とカリブルの正確な識別ができず、纏めて集計されている。

※Kh-22巡航ミサイルとKh-31P対レーダーミサイルも同じ超音速巡航ミサイルなので識別ができず、纏めて集計されている。

※3M22ツィルコン極超音速巡航ミサイルは対地対艦兼用。

※Kh-22は本来は対艦専用のミサイルを無理矢理に対地攻撃に転用。

ウクライナ空軍司令部より2024年11月17日迎撃戦闘撃墜戦果
ウクライナ空軍司令部より2024年11月17日迎撃戦闘撃墜戦果

投入された航空機および艦艇

  • Tu-160戦略爆撃機×7機(Kh-101)
  • Tu-95MS戦略爆撃機×16機(Kh-101)
  • Tu-22M3長距離攻撃機×2機(Kh-22)
  • Su-34戦闘爆撃機×5機(Kh-59/Kh-69またはKh-31P)
  • Su-27戦闘機×4機(Kh-59/Kh-69またはKh-31P)
  • MiG-31K戦闘機×10機(Kh-47M2キンジャール)
  • 巡航ミサイル発射母艦×4隻(カリブル)

※Tu-160爆撃機の投入は久しぶり。

※Su-27戦闘機はSu-30SMないしSu-35。

※巡航ミサイル発射母艦はフリゲートないしコルベット。

※ツィルコン、イスカンデルM、無人機は地上発射機から。

 以下は2024年11月17日大規模攻撃の傾向の分析です。

【高速ミサイル】14飛来12撃墜・迎撃率86%

  • 3M22ツィルコン極超音速巡航ミサイル×1飛来1撃墜
  • Kh-47M2キンジャール空中発射弾道ミサイル×8飛来7撃墜
  • イスカンデルM弾道ミサイル×1飛来0撃墜
  • Kh-22巡航ミサイル/Kh-31P対レーダーミサイル×4飛来4撃墜

※超音速・極超音速を発揮する迎撃困難な高速ミサイルのほとんどを撃墜するという特筆すべき戦果。これはパトリオット防空システムの配備数が増えたことが大きい。弾道ミサイルのような高速目標に対処できるのはウクライナ軍ではパトリオットとSAMP/Tだけであり、これまでは未配備地域が狙われると対処が不可能だった。

【低速ミサイル】106飛来90撃墜・迎撃率85%

  • Kh-101/カリブル巡航ミサイル×101飛来85撃墜
  • Kh-59/Kh-69空対地ミサイル×5飛来5撃墜

※亜音速巡航ミサイルに対する迎撃率85%は防空部隊としては最善を尽くした結果と言えるが、敵の発射数が多く16発の撃ち漏らしが発生してしまい、民間電力インフラに被害が発生してしまった。

【低速ドローン】90飛来42撃墜43未到達・迎撃率89%

  • 敵性無人機(囮機含む)×90飛来42撃墜43未到達(うち2機ロシア迷走)

※未到達の43機の多くは囮機と見られる上に、撃墜した中にも囮機が混じっている。飛来した90機のドローンのうち囮機は確実に半分以上、おそらく6~8割が囮機である可能性がある。ただし5機の突破を許したものの、それが囮機の効果だったのかは不明。

ロシア囮無人機「パロディ」

ウクライナ国家非常事態庁より、キーウ貯水池からロシア軍囮無人機を回収
ウクライナ国家非常事態庁より、キーウ貯水池からロシア軍囮無人機を回収

ウクライナ国家非常事態庁より、キーウ貯水池からロシア軍囮無人機を回収
ウクライナ国家非常事態庁より、キーウ貯水池からロシア軍囮無人機を回収

 

 2024年11月17日、ウクライナ国家非常事態庁の潜水士がキーウ貯水池からロシア囮無人機「パロディ」を回収。機体に大きな損傷は無く、燃料切れで墜落したもの。出典:ウクライナ国家非常事態庁

関連記事:囮無人機「パロディ」を長距離攻撃時に大量投入しているロシア軍(2024年11月11日)

女性兵士によるMANPADS(携行地対空ミサイル)での撃墜戦果

 ウクライナ軍女性兵士ナタリヤ・ハラバルチュク(Наталія Грабарчук)がMANPADS(携行地対空ミサイル)でロシア巡航ミサイルを初めて撃墜。元幼稚園教師。出典:ウクライナ空軍西部航空管区「ザーヒド」

ウクライナ空軍西部航空管区「ザーヒド」より女性兵士ナタリヤ・ハラバルチュク
ウクライナ空軍西部航空管区「ザーヒド」より女性兵士ナタリヤ・ハラバルチュク

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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