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ロシア軍の囮無人機を混ぜた長距離ドローン攻撃について比較方法の変更

JSF軍事/生き物ライター
左:ウクライナ軍より露ガーベラ囮無人機、右:モルドバ警察より露パロディ囮無人機

 ロシア軍はウクライナへの長距離ドローン攻撃を行う際に自爆無人機に囮無人機を混ぜる戦法を取り始めています。それはおそらく7月頃から試験的に行われ始めて、8月後半から一斉投入が始まり、9月と10月の囮無人機の大量投入で確定しました。

関連記事:無人機1900機飛来も囮無人機が大量に混じっていると判明:ウクライナ迎撃戦闘2024年10月分の傾向

 これに伴い自爆無人機と囮無人機の判別が出来ないことで過去の記録との比較が困難になってしまいました。囮無人機は安いので大量投入が可能であり飛来数が突然に急増しましたが、囮無人機と混ざったことで自爆無人機の数が増えたかどうか分からなくなってしまったのです。

 そこで無人機の集計では「突破数」に着目して比較してみたいと思います。なおウクライナ空軍司令部の毎日の対空戦闘報告では9月以降に「報告時点で○機が滞空中」という対空戦闘続行中の報告があり、この滞空中の機体はこの集計方式では突破しなかったもの(撃墜ないし未到達)として扱います。撃墜率は飛来数から未到達と滞空中を除いた数字に対する撃墜数で計算しています。

【低速目標】敵性ドローン発射数の推移 

  • 2024年10月:1912飛来687未到達42滞空中1098撃墜85突破、迎撃率93%
  • 2024年09月:1331飛来170未到達7滞空中1107撃墜47突破、迎撃率96%
  • 2024年08月:781飛来72未到達654撃墜55突破、迎撃率92% 
  • 2024年07月:426飛来17未到達373撃墜36突破、迎撃率91% 
  • 2024年06月:328飛来309撃墜19突破、迎撃率94%
  • 2024年05月:355飛来347撃墜8突破、迎撃率98%
  • 2024年04月:287飛来258撃墜29突破、迎撃率90%
  • 2024年03月:596飛来511撃墜85突破、迎撃率86%
  • 2024年02月:361飛来276撃墜85突破、迎撃率76%
  • 2024年01月:334飛来271撃墜63突破、迎撃率81%
  • 2023年12月:598飛来490撃墜108突破、迎撃率82%
  • 2023年11月:380飛来303撃墜77突破、迎撃率80%
  • 2023年10月:285飛来229撃墜56突破、迎撃率80%
  • 2023年09月:503飛来396撃墜107突破、迎撃率79% 
  • 2023年08月:162飛来145撃墜17突破、迎撃率90%
  • 2023年07月:238飛来201撃墜37突破、迎撃率84%
  • 2023年06月:199飛来166撃墜33突破、迎撃率83%
  • 2023年05月:399飛来362撃墜37突破、迎撃率91%

※「未到達」の報告の正体がおそらく囮無人機だったと考えられる。7月(17未到達)から8月(72未到達)、9月(170未到達)、10月(687未到達)と急激に増加しており、しかも撃墜機の中にも囮無人機が含まれているので、もはや自爆無人機の正確な数は不明。

囮無人機が混じり出した2024年7月以降の突破数

  • 2024年10月:85突破1912飛来687未到達42滞空中1098撃墜、迎撃率93%
  • 2024年09月:47突破1331飛来170未到達7滞空中1107撃墜、迎撃率96%
  • 2024年08月:55突破781飛来72未到達654撃墜、迎撃率92%
  • 2024年07月:36突破426飛来17未到達373撃墜、迎撃率91%

※迎撃率が見かけ上は非常に高い数字で安定しているのは撃墜機の中にも落としやすい囮無人機が混ざっているため。ただしこの数字が高いならば迎撃ミサイルの枯渇の兆候はまだ出ていないと言える。

囮無人機が混じっていない2024年6月以前(14カ月分)

2023年05月~2024年6月:761突破5025飛来4264撃墜、迎撃率85%

  • 一カ月あたり平均:約54突破359飛来305撃墜、迎撃率85%

※2023年05月から集計してあるのはウクライナ首都キーウへのパトリオット防空システム配備後に対弾道ミサイル迎撃戦闘への投入開始したことからで、対ドローン迎撃戦闘では特に関連性は無い。

 2024年10月のロシア軍による長距離ドローン攻撃の1912飛来は、囮無人機が混じり出す以前の平均飛来数約359機の5倍以上の規模ですが、2024年10月の突破数は85機で、過去の平均突破数54機の1.57倍程度です。囮機を増やした発射数の増加の労力に見合うかは少し疑問ですが、それでも着実に増えており、もしもこの傾向が続くとウクライナ防空網にとって迎撃の負担が増して脅威になります。

 ただし囮無人機が投入し始めたとみられる2024年7月、8月、9月は総飛来数が急激に増え出したにもかかわらず突破数は別に増えていません。突破数が明らかに増えたのは10月からです。2024年7~10月の4カ月間では1カ月あたりの平均突破数は約56機と、囮無人機が混じっていない時期の平均数突破数54機とほぼ差がありません。つまり本当に囮無人機の効果が出ているのかはまだよく分かっておらず、比較の為にはもう少し長い期間の傾向の様子を見る必要があります。

 なお2024年11月は16日経過時点で長距離ドローン迎撃戦闘は以下のような数字となっています。

  • 11月16日時点:36突破1278飛来507未到達12滞空中723撃墜、迎撃率95%

 このままでは11月30日時点で飛来数は2400機弱になるペースで、突破数は70機弱となりそうです。つまり10月の1912飛来・85突破と比べると、500機近く飛来数が増えそうな予測ですが突破数は15機ほど減りそうな状況です。ただし11月の約半分が過ぎただけであり、後半で傾向が変わることも十分に有り得ます。

 仮に11月がこのままの傾向で行くと2400機飛来・70機突破になりますが、これは囮無人機が混じっていない時期(2024年6月以前)の一カ月間当たり平均359飛来54突破と比べると、16機突破を増やすのに2000機以上もの飛来数の増大を必要としてしまうことになります。囮無人機がいくら安いといっても2000機も投入すれば大変な金額となる筈で、自爆無人機の16機程度の突破数の増大では発射の労力に見合っているようにはあまり思えません。

 しかし、もしもロシア軍が膨大な数の囮無人機の投入で僅かでも自爆無人機の突破数が上がることに満足しているならば、あるいは膨大な数そのものでウクライナ防空網に負担を掛け続けて迎撃ミサイルを消耗させること自体に意味を見出しているならば、この戦法は続くでしょう。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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