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「ザ・グレイティスト」モハメド・アリの息子が黒人たちの暴動に警鐘

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
2016年6月3日に74年の生涯を閉じたザ・グレイティスト(写真:ロイター/アフロ)

 2016年6月3日に永眠した"ザ・グレイティスト"モハメド・アリ。息子であるモハメド・アリ・ジュニアが、今日も続く黒人たちの抗議デモに苦言を呈した。

 

 ボクシング史上、最高の輝きを放ったアリには9人の子供がいる。ジュニアは最初の妻との間に生まれた第4子であり、イスラム教信者だ。

 フロリダ州に住む47歳のアリ・ジュニアは「ジョージ・フロイドの死をきっかけに始まった暴動は狂っているし、悪魔の所業。もっと平和な抗議活動だって出来るよ。きっと父も、あんな行為には賛同しないさ」と話す。

 確かに暴徒化した連中が、同胞である筈の黒人が経営する店を襲撃して商品を強奪したり、何の関係もない通りすがりの車の窓ガラスを叩き割ったりする姿は目に余る。

 「イスラム教徒からすれば、ああいう行動こそが差別だと感じる。黒人の命、白人の命、中国人の命も大切……とかいうことじゃなく、すべての人の命がかけがえのないものなんだ。神は人種じゃなく、人類のすべてを愛して下さっている。殺人なんて、述べるまでもなく愚かな行動だよ。

 ジョージ・フロイドの命を奪ったミネアポリスの白人警官の行為は悪だ。判断を誤っている。でも、フロイドが逮捕されたこと、警官に抵抗したことも事実。全ての警官がダメなんじゃない。歪んでいるのは一握りだよ。僕自身が妙な警官と出会ったことは無く、いつも友好的に付き合っている」

 

 ご存知のようにザ・グレイティストは反戦・反米を唱え、ベトナム戦争への徴兵を拒否した。稀代のカリスマチャンピオンは、確固たる信念を持っていた。

 「Black lives matter」を叫ぶ人々は、今一度、アリの足跡に触れるべきかもしれないhttps://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20180601-00085069/https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20180606-00085071/

 アリとボクシングとの出会いには、白人警官が大きく関与している。ザ・グレイティストが、モハメド・アリと改名するずっと前のことだ。本名であるカシアス・クレイだった12歳の頃、弟と共に故郷(ケンタッキー州ルイビル)で催されたお祭りに出掛け、ザ・グレイティストは愛用していた自転車を盗まれる。

 「僕の自転車を見付けて!」と被害届を出しに行った警察ビルの地下にボクシングジムがあった。「犯人を叩きのめしてやる!!」と息巻くクレイ少年に、白人警官がボクシングの手解きをしたのだ。そこから、伝説がスタートする。

 アリ・ジュニアの言葉からは、これ以上ない名声を得た男の息子として生きる苦悩も見えた。

 ザ・グレイティストはローマ五輪で金メダリストとなったが、相も変わらず黒人の扱われ方が変わらないと憤慨し、白人専用のレストランで入店を拒まれた後、獲得したばかりのメダルをオハイオリバーに投げ捨てている。また、ベトナム戦争への召集を拒否した際には「何故、自分を含めた黒人たちが、数万マイル離れた遠いベトナムで、罪もない有色人種を殺さねばならないのだ? そんな必要はない」と発言した。

 もし、アリが生きていたら、ジョージ・フロイドの死を、そして現在進行形の黒人たちの暴動をどのように見詰めるだろうか?

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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