Yahoo!ニュース

3年ぶりの鈴鹿8耐で注目すべきプライベートチーム!〜鈴鹿8耐の楽しみ方(2)

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿8耐(写真は2019年)【写真:Honda MONILITYLAND】

オートバイ真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)が今年は3年ぶりに開催!2022年8月7日(日)が決勝レースとなる「鈴鹿8耐」で大会アナウンサーを務める筆者が今年の見どころをご紹介するコラム。その第2弾は展開次第では優勝の可能性もあるプライベートチームに注目したい。

3年ぶりの鈴鹿8耐、注目の優勝争いはカワサキvsホンダ!〜鈴鹿8耐の楽しみ方(1)

ワークスに次ぐ勢力は国内勢か?

2022年の鈴鹿8耐の主役はカワサキワークス「Kawasaki Racing Team」(ジョナサン・レイ/アレックス・ロウズ/レオン・ハスラム)、ホンダワークス「Team HRC」(長島哲太/高橋巧/イケル・レクオーナ)の2大メーカーワークスチームになるだろう。これはワークスマシンの飛び抜けたポテンシャルとライダーの実力からしても揺るぎないものと言える。

ホンダのワークスマシン、ホンダCBR1000RR-R【写真:本田技研工業】
ホンダのワークスマシン、ホンダCBR1000RR-R【写真:本田技研工業】

ただ、ワークスチームが一騎打ちを展開し、8時間に渡ってずっと主役の座に居るとは限らない。夏のレースならではと言える天候の急変、周回遅れとの接触、予期せぬマシントラブルやミステイクで一瞬にして主役の座から転げ落ちてしまうのが耐久レースの難しさだ。

ワークスマシンほどのポテンシャルはないが、着実に走り、虎視眈々と表彰台を狙っていくのがプライベートチームの戦い方になるが、今年はその層が厚いと考えられる。全日本ロードレースが主戦場の国内チームは鈴鹿を知り尽くしており、しかも3年ぶりの鈴鹿8耐という大舞台であるだけに非常に士気が高い。

速さで言えば、ホンダCBR1000RR-Rを使うホンダ系プライベートチームが優勢だろう。ワークスの「Team HRC」のポテンシャルには及ばないものの、ストレートスピードの速さが武器のホンダ勢は優位にレースを進めると考えられる。中でも事前テストで好調さをアピールしたのは伊藤真一監督率いる「Astemo Honda Dream SI Racing」(渡辺一馬/作本輝介/羽田大河)だ。耐久レースのノウハウを豊富に持っていること、さらにエースの渡辺一馬はFIM世界耐久選手権で培った経験があり、非常に大きな武器になるだろう。

かつての優勝チーム、HARC-PROが母体の「SDG Honda Racing」(名越哲平/浦本修充/榎戸育寛)も侮れない存在だ。今季は名越が冬のテストで負傷し、怪我の影響が心配されているものの、現在はスペインでレース活動をしている浦本が古巣復帰という形でアシストする。また今年、全日本ロードレースJSB1000クラスにデビューし、印象的な走りを見せる榎戸育寛のパフォーマンスにも期待したい。

SDG Honda Racing 【写真:本田技研工業】
SDG Honda Racing 【写真:本田技研工業】

さらにホンダ勢では2003年のウイナーである「Honda Dream RT 桜井ホンダ」(濱原颯道/日浦大治朗/國井勇輝)は高身長のトリオでバランスが取れており、好レースを展開する可能性が高い。国内勢、特にホンダ系チームは表彰台の一角を取りに来るだろう。

世界耐久チームは大人しく?いや伏兵はいる

FIM世界耐久選手権の1戦である鈴鹿8耐の本当の主役となるのが同シリーズにレギュラー参戦するチームだ。今季年間チャンピオンを争う「Yoshimura SERT MOTUL」(渡辺一樹/グレッグ・ブラック/シルヴァン・ギュントーリ)と「F.C.C. TSR Honda France」(ジョシュ・フック/マイク・ディメリオ/ジーノ・レイ)は速さでも侮れない存在と言えるだろう。

FIM世界耐久選手権レギュラー参戦のF.C.C. TSR Honda France【写真:本田技研工業】
FIM世界耐久選手権レギュラー参戦のF.C.C. TSR Honda France【写真:本田技研工業】

しかしながら、彼らは鈴鹿8耐の後にフランスで最終戦・ボルドール24時間を控えている。最終戦は24時間レースで獲得ポイントが多いだけでなく、8時間、16時間のボーナスポイントに加えて、フィニッシュ順位のポイントが1.5倍になるため、今回の鈴鹿8耐で得られるポイント数よりも多くのポイントを得ることができる。両チームとも母国レースだけに鈴鹿8耐にかける思いは強いが、まずは完走ありきのレースにならざるを得ず、決して無理はしないはずだ。

ただ、スズキのワークスとも言える待遇を受ける「Yoshimura SERT MOTUL」は今季限りでスズキがワークスサポートから離れることを発表したため、鈴鹿8耐でカワサキワークス、ホンダワークスに迫る速さを見せつける最後のチャンスとも言える。しかし、レギュラーライダーのザビエル・シメオンが新型コロナに感染したことで欠場に。リザーブとして控えていたグレッグ・ブラックの起用を決めるなどレース前から波乱含みだ。

Yoshimura SERT MOTUL 【写真:DRAFTING】
Yoshimura SERT MOTUL 【写真:DRAFTING】

そんな両者とは違い、お構いなしに速さを見せつけそうなのはヤマハの海外トップチーム「YART YAMAHA」(カレル・ハニカ/マービン・フリッツ/ニッコロ・カネパ)。彼らのヤマハYZF-R1はワークス仕様にかなり近いポテンシャルを持つと言われており、事前テストでも2分6秒台をマークした。速さは明らかである。

また、海外チームでは前戦・スパ24時間レースで優勝した「BMW MOTORRAD WORLD ENDYRANCE TEAM」(マーカス・レイテルベルガー/イルヤ・ミハルチク/ジェレミー・グアルノーニ)、フランス人ライダーを揃える「WEBIKE SRC KAWASAKI FRANCE」(ランディ・ド・プニエ/エティエンヌ・マッソン/フローリアン・マリノ)が事前テストに不参加だったため、彼らがレースウィーク本番でどこまで戦えるか実力は未知数。ヨーロッパ仕様のUKダンロップのタイヤを履く両チームはデータ不足が否めず、苦戦することが考えられる。

もう一つの戦い、SSTクラスの争い

コロナ禍の渡航制限、ウクライナ戦争の影響による航空運賃のコスト増などを受け、全45チームの出場という例年に比べて出場台数が減少した今年の鈴鹿8耐。いつもに比べるとコース上は空いているため、レースはかなりクリーンな展開になることも予想される。実際に事前テストでのアクシデントは少なく、各チームは順調にデータ収集を行うことができた。

そんな中、レースのもう一つの注目ポイントは市販車により近い仕様のマシンで争うSST(スーパーストック)クラスの争いだ。優勝候補は原田哲也監督率いるヤマハの「NCXX RACING with RIDERS CLUB」(伊藤勇樹/南本宗一郎/井手翔太)、そしてカワサキの「Kawasaki Plaza Racing Team」(岩戸亮介/岡谷雄太/清末尚樹)を挙げたい。どちらも各メーカーの未来を担う若手がトリオを形成するチームで、粒揃いのラインナップと言えるからだ。

NCXX RACING with RIDERS CLUB【写真:DRAFTING】
NCXX RACING with RIDERS CLUB【写真:DRAFTING】

SSTクラスは総合優勝を争うEWCクラスと違い、タイヤ交換を素早く行うことができるクイックホイールチェンジシステムが使えないため、タイヤ交換に非常に時間がかかり、交換時のミスによるタイムロスも起こりやすい。そのため2スティント、3スティント続けて同じタイヤで走ることも多く、ライダーたちの体力、集中力も試されることになる。レースを通じて長い時間ドッグファイトを繰り広げる可能性もあり、最後まで目が離せない争いになるだろう。

3年ぶりに開催される「鈴鹿8耐」。コロナ禍で初めて開催される世界選手権レースとなるだけに、ファンの注目度も高い。ジョナサン・レイら世界トップクラスのライダーやメーカーワークスの参戦など、世界と日本のライダー&チームが同じ舞台で戦うという「鈴鹿8耐」ならではの要素が絡み合い、面白いレースになることを期待したい。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事