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3年ぶりの鈴鹿8耐、注目の優勝争いはカワサキvsホンダ!〜鈴鹿8耐の楽しみ方(1)

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿8耐仕様のカワサキZX-10RR【写真:DRAFTING】

2年の休止を経て、オートバイ真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)が今年は3年ぶりに帰ってくる!2022年8月7日(日)が決勝レースとなる「鈴鹿8耐」で大会アナウンサーを務める筆者が今年の見どころをご紹介するコラム。その第1弾はズバリ優勝争いだ。

2019年のスタートシーン【写真:Honda Monilityland】
2019年のスタートシーン【写真:Honda Monilityland】

ヤマハワークスは不参加、カワサキvsホンダの対決!

日本最大級のオートバイレースイベントである「鈴鹿8耐」は日本のメーカーにとって特別なイベントだ。1980年代のバイクブームの時代からホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキのメーカー直属ワークスチームが年に1回限りの耐久レースに多くのリソースを注ぎ込み、覇権を争ってきた歴史がある。

2020年、2021年と新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け中止に追い込まれた「鈴鹿8耐」だが、3年ぶりに開催される第43回大会の優勝を争うのはやはりメーカーワークスチームになるだろう。しかし、今年はヤマハワークスが参戦しない。2019年はヤマハ、カワサキ、ホンダのワークス対決が注目を浴びたが、ヤマハは2020年の時点でワークスチームの不参加を発表していた。2015年から4連覇を果たしたヤマハワークスの不参加は残念である。

Kawasaki Racng TeamのZX-10RR 【写真:DRAFTING】
Kawasaki Racng TeamのZX-10RR 【写真:DRAFTING】

今年は2019年優勝のカワサキと8年ぶりの優勝を狙うホンダのワークスチームがガチ勝負をする構図になるだろう。ヤマハとスズキはシリーズ戦であるFIM世界耐久選手権(FIM EWC)を戦うチームを支援することになっているが、鈴鹿8耐にピンポイントで的を絞ったワークスマシンを投入するカワサキとホンダは他を寄せ付けない速さを見せると考えられる。

カワサキはWSBKチーム主体で戦う!

2019年の「鈴鹿8耐」を制したのはカワサキワークス「Kawasaki Racing Team」。結果としては1993年以来、実に26年ぶりの優勝を飾ったことにはなったのだが、実際にはレース終了直前にコース上にオイルが出て、Kawasaki Racing Teamのジョナサン・レイが転倒。レースは赤旗掲示でそのまま終了となり、イベント上はヤマハワークスの優勝という形で幕を閉じた。

2019年、ヤマハと激しく優勝を争ったカワサキ【写真;Honda Mobilityland】
2019年、ヤマハと激しく優勝を争ったカワサキ【写真;Honda Mobilityland】

しかし、それは幻だった。カワサキも抗議を出し、FIM EWCのルールが精査された結果、カワサキの優勝が判明したのはイベント終了後のことだった。観客の去った表彰台で優勝記念の撮影は行われたものの、チェッカーフラッグを受けぬままだったカワサキ。今年は情熱的なカワサキファンと喜びを分かち合うために必勝体制を敷く。

とにかくライダーラインナップがすごい。6度のスーパーバイク世界選手権チャンピオン、ジョナサン・レイに加え、2021年にカワサキに移籍したアレックス・ロウズ、そしてカワサキを勝てるチームに育て上げた立役者と言えるレオン・ハスラム。レイは2回、ロウズとハスラムは3回の鈴鹿8耐・優勝経験があるという実力者が揃ったドリームチームだ。

ジョナサン・レイ、監督のギム・ロダ、アレックス・ロウズ 【写真:カワサキモータースジャパン】
ジョナサン・レイ、監督のギム・ロダ、アレックス・ロウズ 【写真:カワサキモータースジャパン】

これで勝てないわけがないという体制なのだが、2019年と違い、今年はスーパーバイク世界選手権のメカニック、スタッフが主体のチーム構成になっており、普段はスプリントレースを戦う外国人クルーたちがピット作業を担当する。耐久レースに慣れた日本人メカニックが中心だった2019年とは大きく異なる体制なのだ。しかし、組織として何年にも渡ってスーパーバーバイク世界選手権で王座を獲得してきたメンバーとライダー達の信頼関係は非常に強固。非常にまとまっているという印象である。

そして、ワークスマシン「カワサキZX-10RR」はスーパーバイク世界選手権の最前線で鍛え上げられ、ポテンシャルの高さは実証済み。しかし、2019年の時は日本のTeam Greenが全日本ロードレースを舞台に作り上げた「ZX-10R」であり、「ZX-10RR」になった今年は全く新たなチャレンジになる。

さらに、ピレリのワンメイクタイヤを使うスーパーバイク世界選手権とは異なり、日本に特化した特殊な仕様のブリヂストンタイヤを装着してのレースになるため、データとしても未知数な部分が多い。レースウィーク中は、鈴鹿8耐で非常に重要な要素となる燃費を含めたデータ解析と迅速な対応が必要となり、表には出てこないカワサキ本体のエンジニア達の仕事が鍵になるだろう。3人共に8耐を複数回優勝している経験豊富なライダー達は最後には合わせ込んでくるはずだ。

もはや熟成の領域と言えるホンダ

体制を大きく変更してきたカワサキワークスの対抗馬となるホンダワークス「Team HRC」は非常に手堅い体制だ。何年も鈴鹿8耐の優勝から遠ざかり、燃費の良さで対抗するも速さではカワサキとヤマハに劣った2019年。そのリベンジとばかりにホンダはニューモデル「ホンダCBR1000RR-R」を登場させた。

ホンダワークス「Team HRC」のホンダCBR1000RR-R【写真:本田技研工業】
ホンダワークス「Team HRC」のホンダCBR1000RR-R【写真:本田技研工業】

そのワークスマシンはこの2年間、全日本ロードレースにも参戦せず表舞台には出てこなかったが、鈴鹿サーキットで頻繁に占有テストをする姿が目撃されていた。そう、この特別仕様のワークスマシンは足掛け2年以上に渡って開発が進められ、熟成が進められてきたのである。

圧倒的なパワーとコーナリング性能、そして驚くべき燃費性能を持つとも噂される「ホンダCBR1000RR-R」のワークスマシンを開発してきたのは、Moto2で優勝経験もある長島哲太(ながしま・てつた)。そこに3度の鈴鹿8耐優勝経験を持つ高橋巧(たかはし・たくみ)が加わる。この2人ならかなり手堅いと言えるだろう。しかし、ホンダはオーディションにより、3人目のライダーとしてスーパーバイク世界選手権に参戦中のスペイン人ライダー、イケル・レクオーナを投入することを発表した。

イケル・レクオーナ、長島哲太、高橋巧【写真:本田技研工業】
イケル・レクオーナ、長島哲太、高橋巧【写真:本田技研工業】

外国人の入国制限というハードルもあり、結果的にはリザーブライダーとなった水野涼(みずの・りょう)を起用する日本人トリオになるだろうと噂されていたホンダワークスのラインナップ。スーパーバイク世界選手権でルーキーながら3位表彰台を獲得したイケル・レクオーナに対する評価は高く、鈴鹿8耐で彼がどのように覚醒するか大いに注目だ。

マシンの完成度を考えれば、ホンダワークスが速さを持っていることは確実で、グリッドを決めるトップ10トライアル予選ではライダー達が驚きのタイムをマークするのではと期待が高まる。そして決勝レースでも一度トップに立てば、レースを圧倒的な速さでリードしていくことになるだろう。

ピット作業の早さに注目したいホンダワークス「Team HRC」【写真:DRAFTING】
ピット作業の早さに注目したいホンダワークス「Team HRC」【写真:DRAFTING】

ただ、「Team HRC」の日本人メカニック達にとっても3年ぶりの8耐だ。レース現場から離れていたことに対する不安がある。「大部分は2019年と同じメンバーだが、若手のスタッフも起用している」と語るのはTeam HRCの山野監督。彼らのタイヤ交換を含むピット作業は全ての有力チームがスマホをかまえて動画撮影をするほどスピーディであり、メカニックの仕事ぶりは大きな注目ポイントと言える。

海外のクルー主体のカワサキ、耐久の経験を持つ日本人主体のホンダ。非常に対照的なチーム構成のワークス対決はどちらに軍配が上がるのか。スタートから8時間、メーカーワークスの驚速ペースから目が離せないレースになるだろう。

3年ぶりの鈴鹿8耐は2022年8月7日(日)午前11時30分に決勝レースのスタートが切られる。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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