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「モンスターズ・インクはホワイト企業」日本の法律の観点から弁護士が解説

まいしろエンタメ分析家
(写真:ロイター/アフロ)

8月5日、金曜ロードショーでディズニー/ピクサー映画『モンスターズ・インク』が放送される。

子どもの悲鳴を集めてエネルギーにする会社、モンスターズ・インクで、『怖がらせ屋』のエースを勤めるサリーと相棒のマイクを描いた本作。

彼らがモンスターズ・インクに紛れ込んだ人間の子ども、ブーを見つけるところから物語は動き出すが、この「モンスターズ・インク」という会社を、日本の法律から見てみるとどうなるのだろうか?

今回は、サブカル好きの弁護士・村田浩一さんに「モンスターズ・インクを日本の法律で裁くとどうなるのか?」をお聞きした。

※記事内に映画のネタバレを含みます。また、モンスター・シティに日本法が適用される前提でのインタビューとなります。

画像は筆者作成(以下特記なき限り同)
画像は筆者作成(以下特記なき限り同)

今年6月に出版された『退職勧奨・希望退職募集・PIPの話法と書式』(青林書院)の編著を担当するなど、労働問題に詳しい。

モンスターを訴えるのは正直かなり難しい

ーー今回は、映画『モンスターズ・インク』のコンプライアンス意識についてお聞きしたいと思っています。まず、全体の印象はいかがでしょうか。

モンスターモンスターズ・インクは、労働者として見るとかなりホワイトな会社ですよね。

ただ、それとは別に会社としての問題は多いです。

ーーそもそも「怖がらせ屋」というビジネスは法的に問題ないのでしょうか?

それが、軽犯罪法や迷惑防止条例などを見てみましたが、意外とあてはまるものはないんですよ。

あるとすると、住人の意思に反して住居に立ち入っている「住居侵入」だけですね。

ーー現行の法律だと、意外とモンスターは野放し状態なんですね。

野放し状態のモンスター。
野放し状態のモンスター。写真:ロイター/アフロ

もちろん、ケガをさせれば過失致傷罪になりますし、民事で損害賠償を訴訟するということはありえます。

ただ、損害賠償もそこまで大きな金額にはできないと思います。

ーー根本的な問題なんですが、法律でモンスターは訴えられるんでしょうか?

難しいですね。人以外のものは、権利義務の主体にはなりません。

ーーサリーを始めとしたモンスターズ・インクのモンスターは、かなり知能指数が高そうですが、それでも訴えられないんですね。

そうですね。ただ、モンスターを訴えることはできないものの「モンスターズ・インク」という会社を訴えることはできます。

普通は会社と代表者を訴えますが、代表者もモンスターなので、この場合は会社だけを訴えることになりますね。

ーー裁判ってこうやって起こすんですね......!

ただ、モンスターズ・インクを訴えたとしても、どこの裁判所で裁判をするのかという問題は残ります。

通常なら、「怖がらせられた部屋」の近くの裁判所で裁判をするのですが、モンスターにどう伝えるのか、伝えたところでが来てくれるのか疑問ではあります。

ーーやっぱり人ではないモンスターと法律で闘うのは難しいことなんですね!

モンスターズ・インクはホワイトだが遵法意識は低い

ーーモンスターズ・インクの会社の仕組みについてもお聞きしたいです。

映画を観て気になったのは、モンスターズ・インクの危機管理は「問題が起きた後」のことが多いということです。

モンスターズインクでは、子どもはモンスターにとって危険なものだと考えていますよね。

実際は、モンスターが子どもに触らずにすむような事前の対策がもっと必要だと思います。

ーーモンスターは、ありのままの姿で子ども部屋に怖がらせに来ていますが、労働法的にはもっと対策した方がいいんですね。

そうですね。「モンスターが子どもに触ると危ない」ということであれば、全身を守る防護服を着せる方が適切だと思います。

ーーマイクやサリーはヘルメットだけはかぶっていますが、あれでは不十分なんですね。

そうですね。

ただ、「利益がでなくても労働災害は防ぐ」というのが会社の原則なので、毎回問題が起きるたびに消毒部隊が出てきて対応しているのはいいことですね。

ーーモンスターズ・インクの仕事は危ない作業が多いですが、こういった身の危険がある仕事の場合、入社前に社員に説明する義務などはあるのでしょうか?

会社は、契約を結ぶまえに業務の内容、期間、報酬などの労働条件を明示しないといけません。

ただ、入社前に危険についての安全教育をする必要はありません。なので、子どもの危なさは入ってから説明すれば大丈夫です。

ーーということは、「仕事の内容だけ聞いて入社したら、実はすごく危ない仕事だった」というのは法的に問題ないのでしょうか?

その通りです。実際の業務の前に説明しないといけませんが、入社前でなくても大丈夫です。

ーーなるほど。モンスターの世界について学ぶと現実世界の労働法が見えてきますね......!

映画には描かれていないがラストの展開はけっこう大変

ーーサリーの行動についてもお聞きしたいのですが、サリーはモンスターズ・インクに子どもが侵入してきたにもかかわらず、会社に報告していません。

モンスターズ・インクは、会社として「子どもを危険」だと考えているので、サリーは速やかに会社に報告した方がよかったと思います。

ーー法的には問題ないのでしょうか?

モンスター・シティに日本法があったとしたら、「動物愛護管理法」が適用されるかもしれませんね。

トラやクマのように人の生命・身体・財産に害をあたえる恐れがある動物は、保管してはいけません。

子どもはモンスターに害をあたえる恐れがあるので、勝手にかくまったりすると法に問われます。

ーーサリーの相棒であるマイクは、巻き込まれる形でサリーの協力をしてしまいます。

マイクは、サリーを止めようとしているので完全な共犯ではないですが、会社には報告していません。適切な対応ではないでしょうね。

ということで、とばっちりではありますが、法には問われると思います。

ーーマイクがちょっとかわいそうになってきました。さらにふたりは、社内プロジェクトを知ってしまったことで会社を追われてしまいますが、これは正当性があるのでしょうか?

パワハラにあたると思います。ただ、解雇自体は適切な可能性もあります。

これは議論のしがいがある問題ですね。

社長が行なっていた社内プロジェクトは法に触れる可能性があるので、公益通報者保護法で(サリーやマイクが)守られる可能性があります。

しかし、(公益通報者保護法の)要件を満たさなかったり、不正な方法で社内の情報を知った場合は、解雇されることがありますね。

ーーサリーとマイクはたまたま社内の情報を知ってしまっただけで、知ろうとしたわけではないですが、それでも解雇になるのでしょうか?

第三者にその情報を言ってしまうと解雇になることがあります。

ーー子どもが侵入したことは、モンスター・シティのテレビで放送されます。第三者に伝えたことになるでしょうか?

うーん......。

ーー難しいですか?

なんとか大丈夫でしょう。情報そのものではなく、関連する情報を伝えただけなので問題ないと思います。

ーーなるほど、よかったです!映画のラストでは、サリーが社長に就任します。

実際の株式会社では、株主総会をひらいて取締役を選び、社長に就任することになると思います。

株主への通知もあるので、1ヶ月ほどはかかると思います。

あとは、会社の目的を「怖がらせ屋」から「笑わせ屋」に変えるために定款の変更も必要ですね。51%の人が出席する株主総会を開き、3分の2の賛成を得る必要があります。

ーー映画では気づいたら話が進んでいましたが、実はけっこう時間が経っていたんですね!モンスターズ・インクを通して現実世界の様々な法律について知れてよかったです。本日はありがとうございました。

エンタメ分析家

エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。よく書いているのはエキサイトニュース、デイリーポータルZなど。アート作品のマッスルを延々と解説する初書籍『アート筋トレでスリム美体に!』が発売中。漫画・アニメ・ゲームなどについても書きますが、音楽と映画が特に好き!

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