観光学の観点から見た「鬼滅の刃」の刀鍛冶の里の魅力とは? 専門家に聞いてみた
観光学の観点から見た「鬼滅の刃」の刀鍛冶の里の魅力とは? 専門家に聞いてみた
大好評のうちに放送を終えたアニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶編』。
主人公・炭治郎が、闘いに使う鬼殺の刀・日輪刀を作る刀鍛冶たちの里を訪れるところから始まった本シリーズ。甘露寺蜜璃や時透無一郎といった人気のキャラクターが生き生きと動く様に感動したファンも多かったことだろう。
今回は、そんな刀鍛冶の里の魅力について、東洋大学国際観光学部の須賀忠芳さんに観光学の観点から語ってもらった。
須賀 忠芳
1991年に筑波大学第一学群人文学類(日本史専攻)を卒業した後、18年間の高校教員を経て、2009年に東洋大学国際地域学部国際観光学科(現、国際観光学部国際観光学科)准教授、2015年、同教授。博士(教育学)。観光からみた歴史研究、歴史教育、観光文化資源を活かした地域振興のあり方について、研究を進めている。この間、「戦国鍋TV」「戦国炒飯TV」の監修を務めた。
■刀鍛冶は山奥ではなく町中でやる仕事だった
ーー刀鍛冶の里を見て、第一印象はいかがでしたか?
まず3階建てなのがすごいですよね!
この時代の村で、この高さの建物があるのはすごく立派ですよ。
ーー見た目だけでいくと、温泉街らしい街に見えます。
どちらかといえば逆で、温泉街はこういった昔の街をイメージして作っているんですね。
あとは、強いていうと島根・雲南市のタタラ場に雰囲気が似ているように思います。
ーーなるほど、おもしろいですね! 刀鍛冶の里は刀を作るための村ですが、現実でも「刀を作るための村」というのは存在したのでしょうか?
どうでしょうか。刀鍛冶はもともと人里離れた村ではなく、大阪・堺市のような人通りがある町中で栄えた仕事なんですよ。
(技術を隠すよりも)買う人が多いところで作る方が大事だったんだろうと思います。
原材料の鉄を山の方から持って来ることはありますが、こういった山村で作るのは珍しかったと思いますよ。
ーー「刀を作る村」というのは現実には存在しなかったんですね......!刀以外の武器も町中で作られていたんでしょうか?
そうですね。たとえば、刀鍛冶で栄えた街はその後、鉄砲を作るようになるんです。
刀と鉄砲は違うように見えるんですけど、細かい加工の方法がけっこう似ているんですよ。もともとが刀鍛冶なので、彼らは鉄砲も町中で作ることが多かったようです。
ーー大変おもしろいです!
■武器よりも隠されていた「有田焼」の作り方
ーー刀鍛冶の里は、人里離れた場所にある隠された里ですが、「隠された里」というのは現実にも存在したのでしょうか?
「武器を作る里を隠す」というのはあまりないのですが、「国レベルで技術を隠す」ということはありました。
有名なのは有田焼です。当時、焼き物というのは門外不出の技術なので、関所で厳重に守られました。
里に入る人は調べられ、技術を持ち出そうとすればすぐに処刑になりました。ただ、そこまで守っても、最終的にはバレて広まってしまうのですが......(笑)
鬼滅の刃に出てくる刀鍛冶の里は、有田焼より厳重に守られていると感じますね。
ーーまとまった人数が住む里を山奥に隠すというのは現実でも可能なのでしょうか?
うーん。昔はいまよりも山が身近な存在だったので、完全に隠すのはちょっと難しいかもしれませんね。
「その土地の人しか知らない場所」「あまり知られていない場所」というのは作れたと思いますが、誰にも見つからない里を作るのは昔は大変だったと思います。
ーー山に入ることが少なくなった現代の方が、隠れ里や秘境は作りやすいのでしょうか?
作りやすいかどうかは難しいですが、少なくとも現代と昔では秘境の場所が違うと思いますね。
現代では車で行きにくい場所が秘境とされますが、昔はそういう場所も徒歩で通りやすければ定番ルートにされていました。
そう考えると、そもそも「秘境」という考え方が現代に生まれたものなのかもしれませんね。
ーー作中では、鬼に見つかったときすぐに移動できるよう「空里」という予備の里を準備しているという話もありました。
里が盗賊やクマに襲われたとき、なんとかして移転することはありました。
空里のお話は、そういう歴史が元になっているのかもしれませんね。
ーーおもしろいですね!最後に、刀好きの方におすすめの観光地があれば教えてください。
有名なのは大阪・堺、島根・雲南市などですね。あとは刀より鉄砲が有名になっていますが滋賀・長浜市の国友などもおすすめです。
刀鍛冶が城下町で栄えていたこともあって、アクセスがよいことが多いので、そういう意味でも行ってみるとよいと思います。
ーー本日はありがとうございました!