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広島県の「教員の残業時間短縮に成功」は、ほんとうだったのか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

 働き方改革で成果をだしつつあるのか、それとも「数字のマジック」なのか。広島県教育委員会(県教委)にも訊いてみた。

|100時間の残業時間減少に成功

 広島県で教員の残業時間が短縮されている、みたいな記事を読んだことを思い出した。ネット検索してみると、3月25日付の『教育新聞』の記事だった。

 県立学校の教職員を対象にした県教委の調査で、「年間時間外在校時間の平均は366時間56分で、前年度の462時間40分と比べ100時間近く減少した」という。教員の多忙が注目されているなかで、時間外在校時間(つまり残業)の多さは特に問題視されている。しかも残業代がつかないのだから、過酷な働き方を強いられていることになる。

 念のため、この調査は県立高校の教職員が対象である。県立だから高校などが主体で、市町村立である小中学校の教職員はふくまれていない。

 ともあれ、年間で平均100時間近くの残業が減ったというのだから、正直、「すごい」という印象をもった。残業時間を短縮することもふくめた働き方改革を文科省をはじめ全国の各教育委員会が叫んでいるが、「掛け声ばかりで実態がともなわない」のも現実である。

 何かあれば、すぐに教員に仕事をふる体質は一向に変化の兆しがない。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)対策でも、教室の消毒を教員にやらせたのも、そうした体質のせいである。だから働き方改革の旗を掲げていても、教員の忙しさはいっこうに解消されていかない。

 そうしたなかで、「100時間短縮」という具体的な成果をあげたというのだから驚きでしかない。「100時間短縮」について広島県教委はホームページの報道資料として公表しているが、そこには「学校における働き方改革が着実に進んでいます!」とのタイトルがついている。

|もっと根本的な、具体的な策が必要か

 県教委に連絡してみたら、学校経営戦略推進課を紹介された。ここが、調査結果をまとめたセクションである。担当者は丁寧な応対で、次のように説明してくれた。

「各学校長に、時間管理や業務管理の徹底したマネジメントをお願いしてきました。そうしたなかで、時間外在校時間が特に長い教員については個別指導するようにしています。時間外在校時間については個人差が大きくて、長い人は80時間を超えているし、100時間超えという人さえいます。そうした人たちを指導して時間を減らしてもらったことで、平均での時間外在校時間を減らすことができました」

 なるほど、とおもう一方で、それだけで時間外在校時間の短縮は可能なのだろうかという疑問は残る。その個別指導について、もっと具体的に説明してもらう。

「極端な例になるかもしれませんが、時間外在校時間の長い人は部活の顧問をやりながらたいへんな3年生の担任で、さらに進路指導主任をやったりと忙しい仕事を抱えすぎている教員もいます。それを、余裕のある教員に分担してもらうことで仕事量を減らし、時間外在校時間を減らしてもらうのです」

 ただし、そうそう仕事に余裕のある教員がいるともおもえない。その方法だけでは、時間外在校時間を減らしていくのには限界がありそうだ。だが担当者は、「時間外在校時間の長い人と短い人には差があるので」と繰り返すだけ。

 その担当者に、「今度の短縮の結果は、新型コロナでの学校行事の中止や分散登校した結果で、『数字のマジックでしかない』という教員の指摘もあるのですが、どうなのでしょう」と質問してみた。実は県教委に連絡する前に広島の公立高校の教員に意見を聞いていたのだ。その高校教員は、「具体的な業務を減らすようなことはしていないので、通常に戻っている今年は時間外在校時間も元に戻る可能性があります」とも言った。それに対しての担当者の返事は、次のようなものだった。

「たしかに、行事の中止や簡素化などの影響はあります。県教委としては、行事の簡素化などを昨年の新型コロナ期だけのことにせず、簡素化して教育効果がある程度あるのなら継続するようにお願いしています」

 これにも限界があることは言うまでもない。今後の教員の時間外在校時間を大きく減らすことにつながっていくとは、おもえない。

 広島県の県立学校が教員の平均時間外労働時間が大幅に短縮することができたのは、県教委の取り組みもあるだろうが、「数字のマジック」部分も大きかったようだ。「数字のマジック」で終わらせないためには、より具体的な業務削減などが必要になる。それを実践して今年度も時間外労働時間の短縮を更新することができれば、広島は働き方改革の先進県になれるだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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