フードドライブって何?家庭の食品ロスを減らして必要な人へ繋ぐ、低コストで出来る「地産地消」の社会貢献
家庭で余っている食べ物はないだろうか。お中元やお歳暮で頂いたものの「うちでは食べないよね」というもの。安売りやまとめ買いで買い過ぎてしまったもの。備蓄していたが、使わなかったもの。冠婚葬祭で頂いた茶葉や菓子、海外旅行のお土産で頂いたもの、など。
そのような食料を、捨てないで持ち寄り、食べ物に困っている人や福祉施設などに寄付する取り組みを「フードドライブ」と呼ぶ。
「フードドライブって車?運転?」
「ドライブ」という名前がついているので、初めて聞いた人からは「車?」「運転するんですか?」と聞かれることがある。"drive(ドライブ)”という単語には"organized effort or campaign to achieve"、すなわち「募集のための宣伝」や「運動」という意味がある。
1960年代にフードドライブが盛んになった米国では、食品以外にも「Paper Drive(古紙回収)」や「Book Drive(本の寄付)」、「Toy Drive(おもちゃの寄付)」「Clothing Drive(衣類の寄付)」「Uniform Drive(着なくなった制服の寄付)」「Blood Drive(献血)」など、いろんな「ドライブ」がある。
日本でも、さまざまな組織がフードドライブを行っているので、いくつかの事例を紹介してみたい。
フィットネスクラブで「フードドライブ」
女性専用のフィットネスクラブ「カーブス」。米国のカーブスでは1999年からフードドライブを行っている。日本のカーブスでも、2007年11月に初めてフードドライブを実施した。その後、お歳暮やお年賀が集まりやすい、年明けの1月15日を「フードドライブの日」に制定した。
2018年1月から2月にかけても全国のカーブス1,800店舗で実施しており、251トンの食品を集めて過去最大704の施設に届けた。
スーパーマーケットで「フードドライブ」
海外では、スーパーマーケットの出入り口でフードドライブを行うことが多い。米国やイギリス、フランスなどの欧米諸国や、韓国でもフードドライブが実施されている。イタリアでは、買い物をするとき、「ツナ缶5個買って寄付してください」といったチラシが配られ、お客が買い物ついでに買って、出口でフードドライブボックスに寄付する・・・という流れがあったそうだ。イタリア在住の方に伺った。
日本でも、最近、大手小売店でフードドライブがじわじわ浸透してきた。以前より、山梨県や茨城県、静岡県など、地元に根付いたスーパーマーケットが、フードドライブを実施してきている。
たとえば、静岡県のしずてつストアは、入り口入ってすぐのところにドラム缶を使ったフードドライブの箱を置き、買い物客に告知して食料品を集めてフードバンクに寄付している。
自治体で常設化が進む「フードドライブ」
フィットネスクラブやスーパーマーケットなどの民間企業だけでなく、自治体でもフードドライブを主催することが増えて来た。以前は、土日の環境イベントの時に単発的に行うだけだったのが、近年では常設化も少しずつ進んで来ている。
過去30年間にわたり収録された、およそ150誌紙の記事を検索できるG-Search(ジーサーチ)で「フードドライブ 常設」のキーワードで検索してみた。G-Searchは、全国紙や地方紙などの新聞や専門誌、海外紙などの記事も提供している。
そうすると、一番早い時期に出て来たのが、新潟県長岡市だ。2015年から、新潟県内の社会福祉協議会や生協で、月に10日間常設する、という内容が見つかった。
食品企業からの寄贈が難しいため、個人からの寄贈を受ける「フードドライブ」に力点を置いている。
その次に出てくるのが静岡県湖西市だ。
単一の食品が大量に集まりやすい、企業からの寄付と違い、「フードドライブ」だと、家庭から、多種多様な食品が集まりやすいことが説明されている。と同時に、集まる食品にたんぱく質の豊富な食品が少なく、栄養バランスの偏りも指摘されている。
地元のフードバンクが先導しての「フードドライブ」
全国各地のフードバンクが、地元の自治体や大学などと連携する例もある。フードバンクとは、食べられるのに商品として流通できない食品を引き取り、必要なところへ届ける活動、もしくはそのような活動を行う団体を指す。
2016年夏時点では、山梨県南アルプス市のフードバンク山梨が、地元の大学や高校17校と連携している。2016年11月には、フードバンクとくしま(徳島市)が福島県と連携し、県庁にフードドライブのかごを常設化した。他、茨城県、岩手県、静岡県についても、同様の取り組みが広がっている。岩手県では2017年11月29日に盛岡市が常設を発表した。
東京都23区内でも、軒並み、自治体がホームページで常設化を発表している。
2018年6月11日 東京都文京区(2018年4月1日より常設化)
常設ではなく期間を定めての実施だが、東京都練馬区の告知チラシもわかりやすい。
地域のJAが行う「フードドライブ」
全国に拠点を持つJAでも、フードドライブが行われている。
大学生が行う「フードドライブ」
大学生が、人がたくさん集まる大学祭などで行うフードドライブも増えている。2018年7月2〜6日、東洋大学経済学部国際経済学部では、佐野聖香准教授が中心となってフードドライブを行った。学生36名・教職員25名が協力し合計 374 点の食品を集めた。
全国の郵便配達員組合が行う「フードドライブ」
米国では、全国の郵便配達員の組合が、1993年から毎年5月に行う、国ぐるみのフードドライブがある。それが「Stamp Out Hunger(貧困撲滅)」だ。郵便局なので、切手(Stamp)と撲滅(Stamp Out)を掛け言葉にしている。
毎年5月の第二土曜日に行われるこの取り組みは、事前に、各家庭に、スーパーの袋のようなものと告知ポストカードが配布される。
家庭で余っている食品を袋に入れ、回収当日の5月第二土曜日に玄関先に置いておく。すると、郵便配達の人が、本業のついでに回収してくれる。集まった食品は、子どもを中心に、必要な人に配布される。
この取り組みのいいところは、6月に夏休みを迎え、給食が食べられなくなる子どもたちの助けとなっているところだ。取り組みがテスト的にスタートした1991年当初は、4月のイースターの余りがなくなる時期だから・・という理由だったようで、特に夏休みを意識したようではないが、結果的には、夏休みで食べ物がなくなる子どもたちの食料品になっている。
フードドライブのメリットとは
フードドライブのメリットにはどのようなものがあるだろうか。
1)食品ロスや貧困などの社会的課題に対する知識や認識のない人に、気づきを与える啓発の意味がある
2)実際に家庭で食べている、多種多様な食品を集めることができる
3)長期間、大量の食品を貯めておくための倉庫が必要なフードバンクと違い、経費や負担があまりかからない
4)いわゆる「地産地消」でもったいない食品を活かすことができる。遠くへ運ぶための運送費や環境負荷が少ない
5)自治体、民間企業、大学、NPO、地域の団体など、どのような組織体でも実践可能
では、デメリットにはどのようなものがあるか。
1)個人からの寄付ということで、企業からの寄付に比べて安全性に不安がある
2)多品種少量の食品が集まるので、大人数の対象者に同じような食品を均等に分けるのが難しい
3)栄養バランスがとれるものが集まるとは限らない
デメリットをどう改善できるか
では、デメリットの点を、できる限り、よい方向に傾けるには、どのような考え方があるだろうか。
1)に関しては、2年ほど前、実際に省庁の方から寄せられた意見だが、混入リスクは企業の製造工場もゼロではないはずだ。未開封のもののみ対象としているので、ある程度のリスクは回避できると思う。
2)に関しては、たとえば、不足している食品を特定して集める、という手段もある。筆者がフードバンクに勤めていた時、コメが不足していたため、主催するシンポジウムの参加費を無料とし、「コメ1合持って来てください」と呼びかけたことがあった。宮城県仙台市では、コメを10kg持って来てくださった参加者がいらっしゃった。
映画でパルムドール(最高賞)を受賞した、イギリスのフードバンクを描いた『わたしは、ダニエルブレイク』の上映館では、缶詰に特化してのフードドライブが行われた。缶詰は3年間の賞味期限があるので、保管中に品質が劣化するなどの不安要素がない。
3)に関しては、確かにその通り。フードバンクでも、そのことは指摘されている。
今回、東洋大学で行ったフードドライブでは、菓子類が全体の半数近くを占めるほど、多く集まった。菓子類は、児童養護施設やお子さんにとても喜ばれる。実際、子どもは大人のように一日3食で必要な栄養素を摂取できないため、「おやつは第四の食事」とも言われる。
反面、一人で暮らしていてビタミン・ミネラルなどの微量栄養素が足りない方には、菓子だけでは不足だ。やはり三大栄養素(炭水化物・タンパク質・脂質)を基本とし、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素、そして食物繊維を摂取して欲しい。
環境に負荷をかけにくい、地産地消の「フードドライブ」
2018年6月22日付の東京新聞で、東京都大田区が、区役所本庁舎でフードドライブを始めたという記事があった。大田区内では、未開封の食べられる食品が、年間約3,700トンも、燃やすごみとして廃棄されているのだそうだ。これは、可燃ごみ全体の約2.9%、清掃車約2,000台分に相当するという。
最も印象に残ったのは、区内で集めて区内で配分することにより、食品を送る際に発生する二酸化炭素の排出を軽減できる、ということだった。
これは、いわば、もったいない食品の「地産地消」の活かし方で、とてもよいと思う。生産だけでなく、もったいないものも、遠くへ運べば運ぶほど二酸化炭素が発生するし、運送料がかかる。でも、地域で集めて地域で使えば、環境負荷が減り、運送料もほぼかからない。
多種多様なメンバーから成る、食品ロス削減検討チーム川口の「フードドライブ」
筆者は2015年7月から、埼玉県川口市で、市議会議員や県庁職員、商店街振興組合理事長、民間企業の社員など有志を集めて「食品ロス削減検討チーム川口」を主宰している。年に2回ほどフードドライブを実施しており、たとえば下の写真のようなものが集まった。
商店街の店舗なども拠点になってもらい、1ヶ月間かけて行なった。
割と多種多様な食品が集まったのではないかと思う。
これらは、市内で8センターある、地域の学習支援施設の子どもたちに届けられた。
フードドライブを実施する日(あるいは期間を決めての最終日)を施設にお知らせしておくので、集めたらすぐ、取りにきてもらうから、倉庫代はかからない。
フードドライブは、地産地消の「おすそ分け」とも言える。
ぜひ、できるところから、小さく始めてみてはどうだろう。
参考資料:
2018年7月2日から6日に実施された東洋大学のフードドライブ