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サポカー限定免許の施行開始で確認しておきたい、衝突回避軽減ブレーキの効用と限界。

安藤眞自動車ジャーナリスト(元開発者)
(提供:イメージマート)

 2022年5月13日から、「サポカー限定免許」と呼ばれる制度が開始されました(どのようなものかについては警察庁のサイトに詳しく解説されているので、そちらを参照ください)。語感からは「運転技能が衰えた高齢者でも衝突回避軽減ブレーキ等の安全装備が付いているクルマなら運転を許可する免許」のように思えますが、実際は①自己申告であり、②対象は普通車のみ(軽自動車や中大型車はサポカーでなくても運転可能)なので、どの程度、実効性があるかはわかりませんし、ここ数年に発売された新型車なら、たいていは国土交通省の認定する”サポカー”の基準を満たした装置がついていますから、そういうクルマにお乗りなら、あえて自己申告してまで免許に制約条件を付帯する必要はないのではないかと思います。

衝突回避軽減ブレーキの作動条件は、意外と限られている!

 さて、今回、みなさんに知っておいていただきたいのは、「サポカーに装備される衝突回避軽減ブレーキの作動には制約も多い」ということ。平易に言えば「衝突回避軽減ブレーキは、いつでも確実に作動するとは限らない」ということです。以下に、日産の取扱説明書から抜粋したものを張りますので、まずは読んでみて下さい。

日産自動車の取扱説明書から。
日産自動車の取扱説明書から。

 手を上げている歩行者や、ベビーカーを押している歩行者は認識できないことがあるとは、意外に思うかも知れません。しかし、画像認識は”パターンマッチング”と言って、撮影した画像が典型的な人の形をしているかどうかをコンピュータ内のひな形と重ね合わせて判断していますから、そこから外れる形をしていると、人として判別できないのです。

 制約条件は多岐に渡りますので、すべては載せきれませんが、もうひとつ掲載しておきましょう。今度は主に、環境条件による制約ですが、いちばん最後の項目にも、ぜひ注目して下さい。

日産自動車の取扱説明書から。最後の項目には要注目です。
日産自動車の取扱説明書から。最後の項目には要注目です。

 カメラ方式の場合、苦手な環境は人間の目と同じですから、強い逆光や反射光、濃霧や豪雨・豪雪で視界が悪いと、認識精度が低下してしまいます。レーダーを使用するものでも、細い車止めポールや金網など、レーダー波の反射が弱いものは、検出精度が低下します。

 このように、衝突回避軽減ブレーキは万能ではありません。ご自身のクルマの取扱説明書をよく読んで、装置の限界を把握し、くれぐれも過信しないように、安全運転に努めて下さい。

「ドライバーオーバーライド」という機能も、ぜひ知っておきましょう。

 もうひとつ、知っておいていただきたいのは、衝突被害軽減ブレーキの多くには、「ドライバーオーバーライド」という機能がついていることです。クルマはドライバーが責任を持って運転すべきものですから、運転支援システムが作動した際でも、ドライバーの操作が行われれば、システムの作動が解除され、ドライバーの操作が優先されるという機能です。

 以下にトヨタ・プリウスの取扱説明書を掲載します。赤のカコミは僕が付けたものですが、たとえば、衝突回避軽減ブレーキが作動した際、警報音に驚いてアクセルとブレーキを踏み間違えると、ドライバーオーバーライド機能が作動して、急加速する可能性もある、ということです。

トヨタ・プリウスの取扱説明書から。
トヨタ・プリウスの取扱説明書から。

 メーカーによっては取扱説明書に記載が無い場合もありますが、安全装置の基本仕様は国土交通省の技術指針で共有しますから、現状ではすべてのメーカーが同様の対応をしていると考えて良いでしょう(念のため書いておきますが、プリウスが特別、ということではありません)。

 現実問題として、衝突の危機が迫ったときに、アクセルを踏んで回避できるほど高いスキルを持ったドライバーがどれくらいいるのかを考えると、アクセル操作をした場合にはオーバーライドを働かせないか、オーバーライドの作動/非作動をドライバーが設定変更できるようにしておくなどの対応を、今後考えていく必要があるのかも知れません。

自動車ジャーナリスト(元開発者)

国内自動車メーカー設計部門に約5年間勤務した後、地域タブロイド新聞でジャーナリスト活動を開始。同時に自動車雑誌にも寄稿を始め、難しい技術を分かりやすく解説した記事が好評となる。環境技術には1990年代から取り組み、ディーゼルNOx法改正を審議した第151通常国会では参考人として意見陳述を行ったほか、ドイツ車メーカーの環境報告書日本語版の翻訳査読なども担当。道路行政に関しても、国会に質問主意書を提出するなど、積極的に関わっている。自動車技術会会員。

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