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異様な職員室で苦悩、125項目ものハラスメント 教員間パワハラなぜ3年間も放置?

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

 2月21日、神戸市教育員会は、昨年動画配信で小学校教員間いじめとして報道された事案の報告書を発表しました。45ページにわたる報告書のうち、後半の10ページはハラスメントとして認定された125項目の内容で埋め尽くされていたことが強く印象に残り、その行為に愕然としました。子供同士のいじめかと疑うほど幼稚な内容であったからです。どこに問題があったのか、再発防止のためにどうしたらよいのでしょうか。

125項目もの「ハラスメント」を認定

 調査委員会は、3名の弁護士と補助調査員3名の弁護士による体制で、2019年10月17日から2020年2月21日まで開催。被害教員1名に5回、他の被害教員3名にのべ7回、加害教員4名に15回、管理職にのべ9回ヒヤリングを実施し、教職員44名全員にアンケートをした上で、さらに教職員32名にのべ34回のヒヤリング。調査対象となった期間は、被害教員が当該小学校に在籍していた平成29年から31年までの3年間で、この間のハラスメントとして認定したのが125項目という膨大な数になっています。

 昨年の報道では「いじめ」とされていましたが、調査委員会は加害教員4名がいずれも被害教員よりも「年長者かつ先輩」で指導的立場であることから「優越的な関係を背景とした言動」であるとし、ハラスメントとして認定しました。

 報告書におけるハラスメントの定義は、「特定の人に向けられた(通常、反復的又は執拗な)同人をいらだたせ、不安を感じさせ又はかなりの苦痛を生じさせる、かつ正当な目的を有しない言葉、行為又は行動」とし、いじめ的言動、犯罪行為、性的言動をも含んだ広い概念としています。何やら難しく複雑に見えますが、125項目のハラスメント内容を読むとこのように定義せざるを得なかったことがよくわかります。

なぜ、職員室は異様な雰囲気になったのか

 ハラスメントに至った原因・背景については、加害教員らの個人的資質に加え、当該小学校の歴代管理職らの対応、姿勢、それを放置した市教委・学校の制度・体制上の問題の3つをあげています。さらに詳しく見ていきましょう。

 加害教員4名のうちA.B.C教員はいずれも男性で30代、D教員は女性で40代。4名に共通するのは、弱い者をいじることで笑いをとるという「典型的ないじめの心理」であったとし、A教員が主体的にした行動に対し、B教員は注意していたものの「次第に鈍麻し、タガが外れ」、C教員は「やりすぎと思ったことがあるが注意できなかったと供述し」、「職員室の雰囲気から若い教員が軽く見られ、少々なら茶化してもよいという空気を感じ」、結果として自らもハラスメントをするに至ってしまったと報告されています。そして、4人目となるD教員は、女性で40代。3名の教員とは立場が異なり、かなりのベテランになる先輩。行動がエスカレートした「激辛カレー会」(9月10日)にも同席しながら、「ふざけあいの延長だったという認識」でした。

 これら加害者4名の聞き取りから、「たまたま偶然に、かかる関係性に鈍感な者が4名揃ってしまったのか」と調査委員は疑問を持ち、その背景に2つの側面から迫ります。管理職らの責任として3年間の歴代校長3名についてヒヤリングして得た所感を報告しています。

 平成29年度の校長は、「職員室の課題を知ろうとしない、教頭に任せているだけ」といった評価が他の教員からなされ、今回の事態について「全く信じられない、と他人事のように結論づけている」。平成30年度の校長は、統率力があり、頭が切れると評価される一方、第三者の前で独り言のように暴言を吐くため、「威圧的、高圧的だと考えられていた・・・・・職員室において、加害教員らの異様な言動を違和感なく発生させたともいえ、間接的とはいえ、原因の一端を構成すると考える」とまとめています。そして31年度の校長。昨年10月に記者会見を行った現校長について次のように報告しています。「校長室から職員室へ業務場所を移したり、職場の風土改善に取り組んだり、相応の努力をしている」としつつも、被害教員から相談を受けた後に加害教員への報復的言動を禁止する措置をとらなかった対応が失敗だったとしています。その結果、加害教員らの言動は悪化してしまったからです。「現校長においては威圧的言動は皆無だが、逆に加害教員らをコントロールできていないと受け止められており、その中で次第に職員室内の風紀が緩み、加害教員らのハラスメントを助長したとも評価できる。また、配慮不足により報復的言動を阻止することができなかった」としています。

 もう一つの背景として、制度・体制について述べています。当該小学校独自の問題としつつもどこの小学校でも起こりうる問題として指摘していることから教訓になると考えられます。当該小学校の教員は、小学校と市教委から、適切かつ実効性のあるハラスメント教育をほとんど受けていなかった制度上の不備をあげています。特に、加害教員らは、「いじめに関する基本的な事項すら知らない教員もいた。人権感覚の欠如もさることながら、加害教員らにおけるいじめにたいする認識の低さも際立っているというほかない」としています。また、被害教員が通報できる実効的に機能する相談先がなかった制度上の不備について言及しています。令和元年8月に策定された市教委ハラスメント対策基本方針には、相談先として、教職員相談室、職員の総合相談窓口、内部通報・相談窓口の記載があるが、具体的な連絡先が掲載されていないことから「実際に相談する側に配慮した記述は一切なく、一見して不備があるというほかなく、およそ実効的な相談ができるとは思えない」。最後に教員の構造的問題として多忙感を指摘しています。自分のことで手一杯で他のことに干渉したくない、教員がみなストレスをためていて、はけ口を求めていたと述べる意見も紹介されていました。

 この報告書を繰り返し読み、かつ私自身が行ってきた教員研修センター5年間5000人の教員への研修、教育委員としての経験を踏まえて感じた事は、3年間も放置されたことへの疑問でした。研修でもおかしな感覚の先生は確かにいましたが、ごく少数でした。教育現場で問題は確かに頻繁に発生しますが、数か月で収束させます。3年も引きずることは珍しく神戸市全体が機能不全を起こしているように見えます。調査委員会も長年にわたったことが最大の疑問だったと述べています。

 今回の問題は、研修が行き届かないこと、暴言を吐く管理職がいること、ハラスメントをしてしまう教員がいること、相談を受けた管理職の対応が不適切であったこと、教員が多忙すぎること、教員の相談窓口がないこと、これら複数の要因が全て重なってしまったことにあります。どれか1つでも機能していれば、どこかで止めることができた、あるいは少なくとも3年間も放置されることはなかった。結局のところ、このハラスメントを止めたのは、ネットで出回った無理やり激辛カレーを食べさせる衝撃的な動画でした。これは許せない、ひどい、といった思いを視聴者が共有したことでした。報告書の教員の証言で興味深いものがありました。「本小学校にずっといると善悪の判断が分からなくなってくる」。この報告書は教員の苦悩を明らかにしたともいえます。多くの人が学校の抱える問題を共有し、議論し、改善する行動には躊躇なく踏み出す必要があります。

神戸市立小学校における教員間ハラスメント事案に関わる調査報告書

https://www.city.kobe.lg.jp/documents/31810/chousahoukokusyonogaiyou.pdf

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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