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ようやく授業開始? 『ドラゴン桜』への「違和感」と「期待感」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

初回の驚き

日曜劇場『ドラゴン桜』(TBS系)の第1話を見たとき、正直言って、ちょっと驚きました。

主人公は同じですが、16年ぶりという長い空白を経ての続編。元々、見る側がすんなりと入っていけるかどうかの懸念はありました。

そして、注目の第1話。全体の雰囲気が「別物?」と思うほど異なっていて、びっくりしたのです。

一体、なぜなのか。

前作の舞台は、入学者の落ち込みで経営難にあえぐ、私立龍山高校でした。

弁護士の桜木建二(阿部寛)は債権者代理として乗り込み、再建案を提示し、自らそれを実施することになります。

その再建案とは、東大合格者を出して入学希望者を増やすというものでした。

原作は三田紀房さんの同名漫画です。その後『ドラゴン桜2』も描かれたので、今回の続編もそれがベースになると思っていました。

『半沢直樹』化した新作

しかし、始まってみると原作を大幅に変えています。

原作漫画の『ドラゴン桜2』は、時間経過はあったものの、すっかり東大合格者が激減した、龍山高校が舞台でした。

ドラマでは、この龍山高校ではなく、私立龍海学園です。

理事長の龍野久美子(江口のりこ)は、学力よりも「自由な校風」を重視することで、龍海学園を超低偏差値校にしてしまった張本人。

彼女の父親で前理事長の恭二郎(木場勝己)はそれをよしとせず、桜木に賭けたいと考えています。

思えば、前作には学校経営を巡る対立やドロドロした人間関係など、あまり登場しませんでした。

新作は、主導権をめぐって火花を散らす理事会といい、アップを多用した構図や怒鳴り合いといい、まるで『半沢直樹』を見るようです。

なぜ、ここまで変えてきたのか。

最大の要因は、前作が金曜午後10時の「金曜ドラマ」枠だったのに対し、今回は「日曜劇場」枠での放送だからです。

枠を移すと同時に、脚本家も制作陣も丸ごと入れ替わりました。中心に据えられたのは『半沢』の福沢克雄ディレクターです。

あくまでも生徒と教師の関係が軸であり、ユーモアも漂わせて牧歌的だった、金曜ドラマ時代の『ドラゴン桜』。

そこに、学校という企業内における権力闘争など、『半沢』的要素を導入したのが新作です。

同時に重さや暗さも加わり、いかにも日曜劇場らしいのですが、どこか『ドラゴン桜』らしくありません。

『シン・ドラゴン桜』という試み?

また第1話で、かなりの違和感を持ったのが、桜木が2人の不良生徒を追いかけるシーンでした。

バイクで逃走する彼らを、やはりバイクで追跡する桜木。公道だけでなく、校舎の中にまでバイクを乗り入れ、多くの生徒が歩く廊下や階段を爆走する桜木。

これを、何と4分半もの長さで見せたのです。

確かに、桜木は暴走族出身という設定ですが、こんな形の「アクション」は、果たして必要だったのか。

『半沢』の剣道とは意味が違いますから、ちょっと異様な感じがしました。

もしかしたら、福沢Dをはじめとする制作陣が試みようとしているのは、単なる『ドラゴン桜』の続編ではなく、桜木建二という「キャラクター」を使った、新たな物語の構築ではないでしょうか。

気分は、『シン・ゴジラ』ならぬ、『シン・ドラゴン桜』です。

その起爆剤的ファクターが、平手友梨奈(主演映画『響-HIBIKI-』で好演)が演じる、挫折したバドミントン少女・岩崎楓であり、不良たちを操る瀬戸輝(高橋海人)であり、さらにIT企業を率いる坂本智之(林遣都)たちなのかもしれません。

思えば、前作での見所として、個性あふれる講師陣が披露してくれた、ユニークな「勉強法」や「受験術」がありました。

しかも実際の受験でも有効なものだったりして、大いに楽しめたものです。

桜木は今回、物語の〝本線〟である受験に関して、どんな「秘策」を用意しているのか。

ようやく授業が始まるようなので、そのあたりも注目でしょう。

ただし、原作漫画で描かれている「ツール(道具)」と「手法」を、そのままなぞるだけではないことを、期待しています。

何しろ、日曜劇場的ケレン味が売りの『シン・ドラゴン桜』ですから。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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