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第61回「ギャラクシー賞」入賞作品、NHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」とは?

碓井広義メディア文化評論家
布施検事を演じた森山未來さん(番組サイトより)

先日、第61回ギャラクシー賞の「入賞」作品を、主催の放送批評懇談会が公表しました。

テレビ部門の入賞作品には、計14本のドラマやドキュメンタリーが並んでいます。

その中から1本の「大賞」が選ばれ、5月31日に行われる贈賞式で発表される予定です。

今年3月に放送されたNHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」は、大賞の有力候補と思われる1本です。

日本がまだ占領下にあった1947年7月。行方が分からなくなっていた国鉄の下山定則総裁が、列車に轢かれた死体となって発見されます。

その後、犯人はもちろん、自殺か他殺かも特定されないまま捜査は打ち切られ、迷宮入りとなりました。いわゆる「下山事件」です。

〈戦後最大のミステリー〉に挑む

NHKスペシャルの「未解決事件」シリーズは、これまでに「グリコ・森永事件」や「地下鉄サリン事件」などを扱ってきました。

前回は「松本清張と帝銀事件」であり、最新作が〈戦後最大のミステリー〉と呼ばれてきた下山事件です。

この事件に関しては、松本清張「日本の黒い霧」をはじめ、近年の柴田哲孝「下山事件 最後の証言」や森達也「下山事件」などで様々な考察が行われてきました。

現時点で、番組としての新たな視点や知られざる事実を提示できるのか。そこが注目ポイントでした。

下山事件を担当した主任検事の名は布施健。

後に検事総長として「ロッキード事件」の捜査を指揮し、田中角栄元首相を逮捕したことで知られる人物です。

制作陣は、布施たちが残した700ページにおよぶ膨大な極秘資料を入手。これを4年かけて分析し、取材を進めてきたのです。

浮上してきたのは、ソ連のスパイを名乗り、下山暗殺への関与を告白した「李中煥」(り・ちゅうかん)という人物の存在。

やがて、李がGHQの秘密情報組織「キャノン機関」の密命を受けていた可能性が明らになっていきます。

検察をも翻弄した彼は、いわゆる「二重スパイ」だったのです。

さらに制作陣は、キャノン機関に所属していた人物をアメリカで発見します。李の写真を見せると、面識があったと証言しました。

またGHQの下部機関であるCIC(対敵情報部隊)にいた人物の遺族とも面談。本人が「あれは米軍の力による殺人だ」と語っていたことを聞き出します。

米ソ対立が深まる中、米国は有事の際に国鉄を軍事輸送に使うことを計画していました。下山亡き後の朝鮮戦争では、それが実施されます。

事件は、米国の「反共工作」の中で起きていたのです。

番組は、森山未來さんが布施検事を演じたドラマ編と、ドキュメンタリー編の二部構成。

両者は互いに補完し合いながら、現在の日本社会に繋がる「戦後の闇」に光を当てて見事でした。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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