「花咲舞」はもちろん、『虎に翼』の「寅子」や「よね」も黙ってない!
「強い群像劇」であること
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』。主人公は、法律を学ぶ猪爪寅子(いのつめともこ、伊藤沙莉)です。
これまで、昭和6年のお見合い事件。昭和7年の明律大学女子部への入学。2年生になった昭和8年の「法廷劇」騒動などが描かれてきました。
その特徴を挙げるなら、朝ドラでは珍しい「強い群像劇」になっていることでしょう。
ヒロインである寅子だけでなく、共に学ぶ女子学生たちの人物像もきちんと造形しています。
華族の令嬢である桜川涼子(桜井ユキ)は、語学に秀でているだけでなく、行動やファッションが雑誌などで伝えられる有名人。
最年長の同期生で、既婚者の大庭梅子(平岩紙)には弁護士の夫と3人の息子がいます。
朝鮮半島からの留学生、崔香淑(ハ・ヨンス)は日本語が堪能。兄の勧めで進学しました。
そして、短髪・男装で異彩を放つ同級生がいます。いつも何かに怒っているかのような表情と、遠慮会釈もない言動で不穏な空気を漂わせる、山田よね(土居志央梨)。
単なる「周囲の人」ではない彼女たちの存在が、物語に広がりと奥行きを与えています。
「戦前社会」の中の女性
第3週では、よね自身が、その生い立ちから現在までの軌跡を寅子たちに語りました。戦前社会の中で、女性であることからくる生きづらさを人一倍背負ってきたことが明かされたのです。
それは、よねがこれまでに発した言葉の中に凝縮されていました。
「女は常に虐げられて、ばかにされている。その怒りを忘れないために、あたしはここ(裁判の傍聴)に来てる」
さらに、「そもそも男と女、同じ土俵に立ててすらいないんだ!」
当時の女性には参政権がありませんでした。家督(家族の代表者としての地位)も基本的には継げません。遺産も相続できません。
姦通罪(配偶者が別の異性と性交渉をもつことで成立する罪)も女性だけに適用されます。一方、夫は家の外に「囲い者」の女性が何人いようと、問題視されません。
この時代の民法では、女性は戸主である父親や夫の庇護下に置かれる存在であり、社会的には、はるかに不平等な立場だったのです。
寅子やよねも黙ってない
よねは、「あたしは本気で弁護士になって世の中を変えたいんだよ!」と訴えます。
「あたしには(涼子のように)お付きの子もいない。日傘や荷物を持たせたりしない。(梅子のように)おにぎりを人に施す余裕も、(香淑のように)働かなくても留学させてくれる家族もいない。大学も仕事も一日も休まず必死に食らいついてる。だから、余裕があって恵まれたやつらに腹が立つんだよ」
憤りを抑えられない、よねは・・・
「この社会は女を無知で愚かなままにしておこうとする。恵まれたおめでたいアンタらも大概だが、戦いもせず現状に甘んじるやつらはもっと愚かだ」
すると、寅子が「それは絶対に違う!」と反論します。
「いくらよねさんが戦ってきて立派でも、戦わない女性たちや戦えない女性たちを愚かなんて言葉でくくって終わらせちゃ駄目。それを責めるのは、もっと駄目!」
脚本家・吉田恵里香さんによるセリフが見事でした。
「戦わない女性たち」や「戦えない女性たち」をも巻き込んでいく姿勢こそ、モデルである三淵嘉子の思想であり、主人公・寅子の基本理念でもあるからです。このドラマのテーマが浮上してきます。
『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)の初回。花咲舞(今田美桜)は、常に女性を見下す銀行支店長に怒っていましたが、90年前の寅子やよねも黙っていません。