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『虎に翼』初回で、「日本国憲法」が描かれていた意味とは?

碓井広義メディア文化評論家
『虎に翼』猪爪寅子を演じる伊藤沙莉さん(番組サイトより)

NHKの連続テレビ小説『虎に翼』。

第5週は、昭和11(1936)年の1月から10月にかけて行われた「共亜事件」の公判を軸に、物語が展開されました。

最終的に、猪爪寅子(伊藤沙莉)の父・直言(岡部たかし)を含む、16人の被告人全員が無罪。

寅子にとっては、父を心配すると同時に、「法律とは何なのか」を考え続けた日々でした。

この第5週が幕を閉じた5月3日は「憲法記念日」です。

「日本国憲法」は昭和21(1946)年11月3日に公布され、翌22(1947)年の5月3日に施行されました。

4月1日に放送された、このドラマの初回。その冒頭を思い起こします。

『虎に翼』と「日本国憲法」

画面には、川面(かわも)が映し出されました。水の流れに乗っているのは、小さな笹舟です。

川岸の流木に腰を下ろしている、一人の女性。寅子でした。

モンペ姿の寅子は、手にした新聞を見つめています。その紙面にあるのは、公布された「日本国憲法」の文字。

そして、「第14条」の文章を読む寅子の肩が、微かに震えます。泣いているのでした。

尾野真千子さんによる「語り」の声が、初めて視聴者の耳に聞こえてきます。

「昭和21年に公布された憲法の第14条にこうあります……」

画面は、寅子の父・直言が作っていたスクラップブック。

「初の女弁護士誕生へ・猪爪寅子さん」という、新聞記事の見出しが見えます。

さらに映像は敗戦後の東京の点描となり、語り手は第14条を朗読していきます。

「すべて国民は、

法の下に平等であって、

人種、信条、性別、

社会的身分又は門地により、

政治的、

経済的又は社会的関係において、

差別されない」

歩いて行くのは、ツイードのスーツ姿となった寅子です。

向かった先は、当時司法省の各課が間借りしていた、法曹会館。

再会するのが、後に最高裁長官となる桂場等一郎(松山ケンイチ)でした。

初回は、そこから昭和6年へとさかのぼって寅子のお見合いシーンとなり、昭和11年の「現在」に至る、というわけです。

このドラマが、日本国憲法と様々な「差別禁止」が明記された第14条から始まったこと。

そこに脚本の吉田恵里香さんをはじめ、制作陣の強い意思を感じます。

また第14条の前に置かれた、「個人の尊重・幸福追求権」を示す第13条。

さらに「家庭生活における個人の尊厳と両性の平等」という第24条。

こうした憲法の精神が『虎に翼』という物語を支えており、今後ますます重要な要素となっていくはずです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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