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【ドラマ10年館】ちょうど10年前、2014年5月は「池井戸ドラマ」の同時多発

碓井広義メディア文化評論家
今年のツツジ(筆者撮影)

「十年一昔(じゅうねんひとむかし)」という言葉があるように、10年は一つの区切りとなる時間です。

短いようでいて、それなりに長い10年。忘れていることも、ずいぶん多いのではないでしょうか。

たとえば、10年前の今月、どんなドラマをやっていたのか。

この【ドラマ10年館】では、記憶に残る作品を振り返ってみたいと思います。

杏主演『花咲舞が黙ってない』

10年前の2014年5月。

『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)と日曜劇場『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)という、2本の池井戸潤原作のドラマが放送されていました。

「池井戸ドラマ」の同時多発です。

これはもちろん、前年に放送された池井戸さん原作の『半沢直樹』の大ヒットを受けてのことです。

まず、『花咲』は『半沢』を想起させる銀行ドラマでした。

問題を抱えた支店を指導する「臨店班」に所属する女性行員・舞(杏)が、毎回、行く先々で問題解決のために奔走する。

彼女の最大の魅力は、たとえ相手が上司であれ顧客であれ、間違ったことや筋の通らぬことに関しては一歩も引かないことです。

『花咲』は、そんなヒロインが言いたいことを言う、ガチンコ勝負ドラマでした。

もしもビジネスパーソンが、仕事場で「言いたいことを言う」を実践したら大変なことになるでしょう。

だからこそ、何でも口にする舞は危うくもあり、痛快でもある。

ただし、良くも悪くも『半沢』のような重厚感や奥行きを持つドラマではありません。

あくまでもライト感覚で楽しめる、勧善懲悪物語です。

舞が「お言葉を返すようですが……」という言葉をきっかけにたんかを切るのは、いわば水戸黄門の「印籠」のようなもの。

1話完結で見終わってすがすがしい、というパターンにも安心感がありました。

唐沢寿明主演『ルーズヴェルト・ゲーム』

一方の『ルーズヴェルト・ゲーム』は、中堅の精密機器メーカーが舞台でした。

大手の下請けとして成り立っていることもあり、経済情勢だけでなく、発注元の思惑にも揺さぶられています。

社長の細川(唐沢寿明)が、いかにして苦境を脱していくかが見どころでした。

このドラマの特色として、企業ドラマであると同時に、野球ドラマでもあることが挙げられます。

当時、社会人野球がきっちり描かれるドラマというのは珍しく、異色のスポーツ物にもなっていたのです。

会社のお荷物的な存在である野球部が、会社と同様、「逆転勝利」をつかむことができるのか。

チーフ・ディレクターは福澤克雄さん。視聴者の興味を引っ張る力技は、すでに突出していました。

池井戸作品には、企業小説と呼ばれるものが多い。

しかし、主軸はあくまでも企業内の人間模様であり、そこで展開される人間ドラマです。

また、山あり谷ありの起伏に富んだ物語構成と、後味(本なら読後感)の良さも池井戸作品の持ち味です。

その意味で、ドラマとの相性がとてもいいことは、当時も現在も変わりません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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