ノルウェーの絶景トロルの舌から転落、初の死亡者 増加する危険な撮影行為
「とうとう死亡者がでた」。ノルウェーのハダンゲルフィヨルド地帯には、「トロルの舌」(トロルトゥンガ/Trolltunga)がある。現地報道によると、9月5日(土)、1人の女性が記念撮影をしようとして、バランスを崩し、崖から200〜300メートル下に転落し、命を落とした。地元の関係団体が把握する限り、現場での初の死亡事故となる。
転落したのは留学生
死亡したのは、ベルゲン大学に通うオーストラリア出身の留学生 、Kristi Kafcaloudisさん(24)。学生の親族と連絡がついたことから、地元警察が7日に学生の国籍や名前を公式発表した。
学生は、ベルゲン大学の人間科で、音楽と文化の科目を8月から勉強し始めたばかりだった。当日は2人の友人と一緒だった。30人ほどの地元の学生たちと自主的に集まり、一緒に行動していたとみられ、ベルゲン大学が主催する登山ツアーではなかった。事故が起きた時刻は18〜19時頃と、トロルの舌の頂上への到着時刻としては、遅めの時間帯。
危険な撮影行為のスポットとして人気爆発
標高約1100 メートルあるトロルの舌は、登山の往復で8〜10時間はかかる。崖の先端での記念撮影写真は、そのあまりにも危険な背景が話題となり、SNSなどのインターネットで拡散されやすい。国内外の旅行や写真雑誌、テレビなどをはじめとして、「一生のうちで訪れておきたい世界の絶景スポット」として頻繁に紹介されている。訪問者は年々増加しており、2014年の登山者は4万人ともいわれている。
事故が起きていないことが不思議だった
「まだ死亡者は出ていないんだよ、不思議なことにね」。昨年、筆者がトロルの舌を取材で訪れた時に、旅行者が頻繁に利用するタクシー会社の運転手が口にしていた。訪問客が増加する一方、まだ事故が起きていないことのほうが奇妙、という認識は、地元では当たり前のように広がっていた。
トロルの舌は自然の一部であるため、国民の共通財産だ。国や民間施設がエリアを取り締まる事はなく、誰もが自由にアクセスできる。「なにがおきても自己責任」という認識が、社会的に広がっている国ということもあり、トロルの舌をはじめとする「絶景=危険エリア」はどこも一般開放。事故が起きても、誰かに責任を問うことが難しい。
トロルの舌は、オーロラやフィヨルドに次ぐ、ノルウェーの観光名所として世界的に認識されつつある。これからも事故が発生するであろう状況に、地元がどう対応していくかは、今後の課題となるだろう。
Photo&Text:Asaki Abumi