シリア国内で新型コロナウィルス感染で初の死者:政府だけでなく、反体制派も対応に追われる
シリアで新型コロナウィルス感染による初の死者
シリアの保健省は29日に声明を出し、女性1人が新型コロナウィルスに感染して死亡したと発表した。
シリア国内で死者が出たのはこれが初めて。
女性は病院(詳しい場所は不明)に救急搬送された直後に死亡、その後のPCR検査で新型コロナウィルスに感染していることが確認された。
保健省はまた、死亡した女性とは別に、4人(性別は明示せず)が新たに新型コロナウィルスに感染していることが確認されたと発表した。
ハミース内閣は移動禁止措置を拡大
イマード・ハミース内閣は29日に定例閣議を開き、新型コロナウィルス感染防止対策として、3月31日から4月16日までの期間、県外への移動を禁止することを決定した。
福祉、医療、生産部門の操業や、生活必需品、食品、燃料の輸送に必要な移動は除外される。
ハミース内閣は既に、3月25日から追って通知があるまでの期間、住民の外出を禁止している。
また、3月29日から追って通知があるまでの期間、各県内の都市間、都市農村間の移動についても禁止している。
アサド大統領とムハンマドUAE皇太子が電話会談を行い新型コロナウィルスへの対応を協議
バッシャール・アサド大統領は27日、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン皇太子と電話会談を行い、新型コロナウィルス感染への対応について協議した。
国営のシリア・アラブ通信(SANA)やUAEのエミレーツ通信(WAM)によると、ムハンマド皇太子は会談で、新型コロナウィルス感染が拡大する非常事態において、シリア国民を支援することを確認、「姉妹国であるシリアだけが、こうした深刻な状況下において孤立することはない」と強調した。
両者の電話会談は2012年以降初めて。
両国は「アラブの春」がシリアに波及して以降、長らく断交していたが、2018年12月に国交を回復していた。
北・東シリア自治局も対策を進める
クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の執行評議会は決定第30号を発令し、新型コロナウィルス感染防止対策として外出や移動が制限されているなか、日雇い労働者の世帯に食料品を配給することを決定した。
北・東シリア自治局は3月23日から4月6日までの15日間、支配地域で住民の外出を禁止している。
執行評議会はまた第31号を発令、支配地域内に搬送される遺体に関して、新型コロナウィルス感染を防止するために、(国境)通行所近くに建設される墓地に埋葬することを決定した。
一方、北・東シリア自治局のジュワーン・ムスタファー保健委員会(保健省に相当)共同議長は、支配地域内に9つの隔離センターを設置したと発表した。
なお、北・東シリア自治局の支配地では新型コロナウィルス感染者は確認されていない。だが、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、同地には感染を検査・治療する十分な体制が整っていないと指摘している。
反体制派が発表する感染状況
反体制系サイトのサウト・アースィマは28日、アサド大統領の弟のマーヒル・アサド准将が実質指揮するシリア軍第4師団の兵士40人が新型コロナウィルスに感染し、ダマスカス郊外県クタイファ市の国立病院に搬送・隔離されていると伝えた。
同サイトによると、兵士8人が19日にクタイファ市の国立病院に搬送され、検査の結果、新型コロナウィルスに感染していることが確認されていたが、今週に入って、新たに30人の感染が確認されたという。
一方、シリア人権監視団は29日、信頼できる複数の医療筋の情報として、ダマスカス県、アレッポ県、ラタキア県、タルトゥース県、ヒムス県、ハマー県、ダルアー県で新型コロナウィルスへの感染を疑われて隔離されている患者の数が260人以上に達していると発表した。
また、シリア保健省が死亡を発表した女性以外にも、女性看護師1人が死亡していると付言した。
イラクのカルバラー県知事がシリア政府を非難
イラクのカルバラー県のナズィーフ・ハッタービー知事はビデオ声明を出し、「カルバラー県は、11人の新型コロナウィルス感染者を確認している…。そのほとんどがシリアからの帰国者だ」と発表したうえで、「シリア政府と医療当局が正確な情報を与えてくれていない」と非難した。
シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル県南東部のマヤーディーン市で「イランの民兵」29人が新型コロナウィルスに感染し、隔離されているという。
内訳はイラン人16人、イラク人13人。5人がアレッポ県南部で感染したという。
反体制派は国際社会に向けて新型コロナウィルス感染防止に向けた支援を呼びかける
反体制組織のシリア対応調整者は27日に声明を出し、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県の新型コロナウィルス感染に対する医療体制の脆弱さを指摘、国際社会、とりわけ世界保健機構(WHO)に支援を要請した。
声明によると、4,017,000人が身を寄せているとされるイドリブ県の反体制派支配地には、ベッド1,689床、集中治療用機器243台、人工呼吸器107台、医療用隔離室32室が用意されているだけ。
ベッドは2,378人につき1床、集中治療用機器は16,531人につき1台、人工呼吸器は37,542人につき1台、隔離室は125,531人につき1室しか確保されていないことになる。
一方、イドリブ県で活動を続ける反体制派の一つイッザ軍は29日に声明を出し、県内の国内避難民(IDPs)キャンプで、新型コロナウィルス感染の脅威が高まっていることを受け、国際社会に対して、シリア政府とロシアに圧力をかけ、シリア軍を最近の戦闘での制圧地から撤退させ、IDPsが帰還できるようにするよう呼びかけた。
イッザ軍は、バラク・オバマ前米政権が後援していた「穏健な反体制派」の一つで、シャーム解放機構と一貫して共闘を続けている。
また、2019年6月にハマー県での戦闘で死亡した「革命のサヨナキドリ」ことアブドゥルバースィト・サールート(バセット)が所属していた組織でもある(「テロリストに転落した「革命家」、バセットの死:シリア情勢2019(3)」を参照)。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)