『ドラゴンボール』で、セルは「太陽系を吹き飛ばせる」と言ったが、それは実際にできること?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『ドラコンボール』のなかでも、ヒジョ~にもどかしい思いで読んだのが「セル編」だった。
セルは、20年後の未来から来た人造人間。
レッドリボン軍のドクター・ゲロが、悟空やベジータやピッコロたちの細胞を採取して生み出した。
人間の生体エキスを吸収して、どんどんパワーアップする。
で、何がもどかしかったというと、みんなのセルへの対応だ。
最初に戦ったのは、ピッコロ大魔王。セルはまだ強くなく、充分に倒すことができたのに、油断して逃げられてしまう。
クリリンは人造人間18号への想いから、ブルマが作った緊急停止コントローラーを故意に壊し、セルのパワーアップを封じる機会を逃してしまう。
ベジータは、より強い敵を求めて、わざわざセルを「完全体」にしてしまい、それによって完敗する。
悟飯もセルを追い込むが、「あんなやつはもっと苦しめてやんなきゃ…」などと言ってとどめを刺さずにいるうちに、セルは体を爆弾化!
それは地球を消滅させるほどの威力だったが、爆発の直前、悟空が瞬間移動でセルを界王星に連れ去り、そこで爆発した。
これによって、悟空は死亡! 界王さまも死亡!
一方、セルはたちまち復活して地球に舞い戻る。
そのうえ「瀕死の状態から復活すると強くなる」というサイヤ人の細胞を持っていたため、セルはいっそう強くなってしまった。
みんなの少しずつの油断が、結果的にセルを強くしちゃったのである。
そして、このときセルがオソロシイことを言った。
「ふはははは どうだ!!! すでに地球どころか太陽系すべてが吹き飛ぶほどの気力が溜まっているぞ!!!!」
太陽系が吹き飛ぶ!?
恐るべき発言だが、これは本当だろうか?
確かに、それまでにセルはどんどん強くなっていった。
自分を爆弾にして、地球を消滅させることもできるほどになった。
そのうえさらに強くなったのだから、太陽系を吹き飛ばすまでの気力を溜めたのかもしれないが……。
実際に、太陽系をすべて吹き飛ばすには、どれほどのエネルギーが必要なのだろう?
本稿ではこの問題を考えてみたい。
◆「太陽系」の広さとは?
そもそも「太陽系」とは、どこまでを指すのだろう。
太陽系は、太陽とそのまわりのさまざまな天体で構成されている。
中心の太陽は、直径139万km(地球の109倍)。質量は地球の30万倍で、太陽系の全質量の99.9%を占めている。
太陽を回る「惑星」は8つあり、近い順に太陽からの平均距離を記すと次のとおり。
水星……5800万km
金星……1億800万km
地球……1億4960万km
火星……2億2800万km
木星……7億8000万km
土星……14億3000万km
天王星……28億8000万km
海王星……45億km
以前は、これより遠い冥王星が9番惑星とされていたが、定義が変わって「準惑星」となった。
準惑星は他にも4つあり、それより小さな「小惑星」が、いま軌道がわかっているものだけで80万個ある。
「彗星」も楕円軌道を描いて太陽を回っている。
太陽から海王星まで45億kmも離れているが、これが太陽系のすべてではない。
海王星より外側には「エッジワース・カイパーベルト天体」が回っていて、いちばん遠いところは太陽から75億km。
さらにその外側には、彗星のもとになる氷の集まり「オールトの雲」が、15兆kmまで広がっている。
太陽系は、メチャクチャ広いのである。
オールトの雲まで範囲を広げると、さすがに話が壮大になりすぎると思うので、ここでは海王星以内の天体をすべて破壊するエネルギーを考えよう。
それでも、大変なことだ。
◆太陽系が吹き飛ぶ可能性は?
天体を木っ端微塵に吹き飛ばすためのエネルギーは、天体の質量の2乗に比例して、半径に反比例する。
地球を壊すエネルギーは、220000000000000000000000000000000J(ジュール)である。
いちばん遠い海王星は、重さが地球の17.1倍、半径が地球の3.88倍で、これを破壊するのには、地球を破壊するエネルギーの76倍が必要だ。
もちろん、セルから放たれたエネルギーは、空間の全方位に向かって球面状に広がるから、海王星に届くまでに薄まってしまう。
それを考慮すれば、セルが海王星を破壊するには、地球破壊エネルギーの11兆倍が必要である。
その場合、地球と海王星のあいだにある木星(最大の惑星)は破壊できるのか。
計算してみると、必要なエネルギーは地球破壊の6兆1千億倍だから、上記の11兆倍のほうが上。木星も充分に壊れるということだ。
でも、太陽系の中心である太陽を破壊するには足りなくて、それをやるには地球破壊エネルギーの190兆倍が必要!
つまり、地球から太陽を破壊できるエネルギーを球面状に放てば、その余波で他の天体も吹き飛ぶ……ということだ。
セルはそれほどのエネルギーを持っていた、ということになる。
地球を壊すチカラがあるのはわかったが、その190兆倍もの気力を溜めたというのか!?
うーん、にわかには信じがたいような……。
あまりにエネルギーが巨大なので、ついセルを疑ってしまうが、現実的に考えると、太陽系の消滅は決してあり得ない話ではない。
星系が吹き飛ぶことは、超新星爆発(星が寿命の終わりに爆発する現象)や、惑星状星雲(星を作っていたガスが宇宙空間に流れ出す現象)など、宇宙の時間スケールではよく起こるのだ。
そしてこれは、われわれの命にも関係がある。
生物の体は、ほとんど炭素、酸素、水素、窒素などの軽い元素でできているが、鉄や銅やマンガンやモリブデンなどの重い元素も必要だ。
軽い元素は大きな星が燃える過程で作られるけれど、鉄より重い元素は、超新星爆発が起きないと生まれない。
つまり、われわれが生きているのも、昔どこかの太陽系が吹き飛んだおかげ!
そう考えると、セルの発言も大袈裟ではないかも……という気がしてきますなあ。
――ところで、そこまでに強くなったセルを、『ドラゴンボール』の人々はどうやって倒したのか。
なんと、悟飯は渾身のかめはめ波を撃った!
そんなことをしたら、セル体内のエネルギーが解放されて、やっぱり太陽系が吹き飛ぶのでは……と心配したのだが、死んだ悟空があの世からパワーを送ったり、ベジータも光線を撃ったりして、ついにセルは消滅したのである。
その跡には、直径25mほどのクレーターが残った……。
地球破壊の190兆倍のエネルギーはどこへ行ったのだろう?
太陽系が無事でよかったけど、最後まで、セルの発言が本当だったかどうかわからない描写であった。
いろいろな意味で、『ドラゴンボール』における「セル編」は独特の印象を残す。