事故で愛息亡くした母が呼びかける「法定速度で子どもの命守ってください」
■法定速度20キロ、守られていれば息子は死なずに済んだ…
「事故現場の交差点は、すぐそばに保育園があり、最高速度は時速20キロに指定されていました。車が法定速度を守ってさえいれば、死亡するほどの事故が起きる場所ではありません。骨が1~2本折れるくらいのことはあっても、内臓破裂の大量出血で死ぬことはなかったはずです」
3月17日、東京地裁立川支部で行われた民事裁判。法廷中央の証言台には、黒いスーツ姿で意見陳述を行う母親の姿がありました。
東京都の理絵さん(43)。2017年、自宅近くの住宅街で起こった交通事故で、ひとり息子のマサムネ君(当時9歳)を亡くしました。
彼女は、裁判官の方を向き、はっきりとした口調でこう続けます。
「マサムネの小さな胸から、かわいいほっぺにかけて残っていた、あの黒いタイヤの痕をこの目ではっきりと見ました。『故意ではない』『悪意はなかった』と言うのかもしれません。でも、マサムネをタイヤで踏んだ事実には、一生向き合い続けてほしいです」
本件については、2年前、以下の記事で取り上げました。
息子のいない小学校の卒業式に、母が虹色の着物で出席した理由(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
自動車運転死傷処罰法違反(過失致死)の罪で略式起訴された加害者の女性(当時57)は、自らの速度違反を認め、すでに罰金70万円の処分が下されていますが、民事裁判は現在も続いています。
「判決はもう少し先になるため、争点については改めてお伝えしたいと思いますが、私たちがこの季節にどうしても伝えたかったのは、通学路や生活道路では絶対に法廷速度を守っていただきたいということです。どれだけ子供たちに交通ルールを教え、気をつけるように言っても、車が十分に速度を落とさなければ安全は守れません。私は、命をかけてでも守りたかった、たったひとつの大切な宝物を失いました。これ以上、このような思いをする人を増やしたくないのです」(理絵さん)
■小学校入学前に息子の通学路を総点検。対策講じた母
実は、理絵さん自身、小学5年生(11歳)のときに交通事故で重傷を負った経験があります。
青信号で横断歩道を横断中、左前方の道から左折で進行してきた車が、横断歩道で停止することなく、そのまま理絵さんをはねたのです。
全身を打ち、救急車で運ばれた理絵さん。幸い命に別状はありませんでしたが、足に全治1か月の大けがを負い、1週間は車いす、その後は松葉づえでの生活を余儀なくされたそうです。
「私はあのときの恐怖が、大人になっても頭から離れませんでした。自分自身の経験から、道路に出れば、信号も、大人が運転する車も、なにも信用することは出来ないということを痛感していました。それだけに、息子が小学校に入学するときには通学で道路を歩かせるのが怖くてたまりませんでした」
そんな自身の体験から、「息子だけは絶対に守らなければならない」そう思った理絵さんは、事前に通学路の点検を行い、その現実に愕然としたと言います。
「小学校までの通学路には通学時間帯に車が入ってこないようにと、通行時間の規制が設けられていました。ところが、その時間に観察してみると、ルールをやぶって走る車が多数見受けられたのです。すぐに、校長、警察に相談したのですが、即効性のある改善策はもらえなかったため、地区の議員に相談して有志を集め、入学式までに旗振りのボランティア会を設立させました。それで少しは安心できたことを覚えています」
■息子の事故死に、ネットで浴びせられた根拠なき中傷
また、理絵さんは、マサムネくんが小学1年生のときから、一般財団法人 東京都交通安全協会 東京交通少年団(BAGS) (tou-an-kyo.or.jp)に入団させ、交通ルールについて学ばせていたと言います。
「マサムネはまだ1年生でしたが、交通少年団に通って一生懸命学んでいました。その効果は顕著で、私と歩いていても、横断前にはマサムネの方が慎重だったくらいです。でも、事故で亡くなった後は、ネットの掲示板などに『親のしつけが悪い』『そんな親に育てられた子供はかわいそう』『ネグレクトだ』などと、私たち親子のことを何も知らない人たちから好き勝手に酷い書き込みをされ、本当に傷つきました。私は親として、あれほど気をつけて我が子を交通事故から守ろうとしていたのに……、それでも被害に遭ってしまったのです」
■議連発足。「児童通学交通安全区域」検討
昨年6月、千葉県八街市で小学生の列に飲酒運転のトラックが突っ込み、児童5人が死傷する事故が発生しました。この事故を受け、国は全国の通学路を検証し、危険と判断された全国7万6000か所について、歩道の整備などを進めています。
また、4月4日には、下記のニュースが報じられました。
“小学校周辺の速度規制 さらに厳しく”立民有志 対策強化検討 | NHK | (2022年4月4日)
立憲民主党の有志の議員が議員連盟を発足。登下校中の安全を確保するため、小学校の周辺に「児童通学交通安全区域」というエリアを設けて、車やバイクの速度規制や通行制限をさらに厳しくするなど、対策強化を検討しているというのです。
理絵さんは語ります。
「通学路の速度制限、そして通行制限、これは何より大切な取り組みだと思います。裁判でも訴えましたが、加害者がもし、法定速度(時速20キロ)をきちんと守って走っていたら、マサムネは死ぬことはなかったと思うのです」
4月6日(水)から15日(金)までの10日間、「春の交通安全運動」が行われています。
今年度の全国重点は、以下の3点です。
(1) 子供を始めとする歩行者の安全確保
(2) 歩行者保護や飲酒運転根絶等の安全運転意識の向上
(3) 自転車の交通ルール遵守の徹底と安全確保
今週は新1年生の入学式が行われ、真新しいランドセルを背負った子どもたちが、午前中に下校します。
道路に出たばかりの幼い子どもの命を、交通事故の危険にさらすことにならないよう、ドライバーのみなさんは通学路や生活道路での最徐行を心がけてください。