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国が悪質ドライバー対策に積極姿勢。あおり運転に「暴行罪」適用も

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
後を絶たない暴走運転やあおり運転による事故。悪質ドライバーを取り締まるには?(写真:ロイター/アフロ)

 今年6月、東名高速で起こった「あおり運転」による夫婦死亡事故は、国民に大きな恐怖と怒りを与えました。

 そうした声を受け、上川陽子法務大臣は12月26日、記者会見で次のように述べたことが、先ほどTBSのニュースで報じられました。

「あおり運転等の悪質・危険な自動車運転によって、死傷事故が発生することについては、大変大きな問題だと考えています。対策は指導取り締まりの強化、交通安全教育の充実、その他の施策について、政府全体として総合的に取り組む必要があると考えております」

 警察庁も2週間前、こうした悪質ドライバーに対して、「暴行罪」の適用も視野に入れた捜査を行うよう全国の警察に指示しました。もし、同罪での適用ができない場合は、「急ブレーキ禁止違反」や「車間距離不保持」、「進路変更禁止違反」など、道路交通法の規定で厳しく取り締まりを行い、累積点数がなくても最長180日間の免許停止処分もできるとしています。

 これは、とても画期的な取り組みです。東名事故の加害者がそうであったように、あおり運転をするような悪質ドライバーは、違法な運転を繰り返し、そのうち大事故を起こしますので、とにかくその前に処分をし、自覚を促すことが大切です。

 最近はドライブレコーダーもかなり普及してきましたが、もし、急ブレーキをかけられたり、車間距離を詰められたり、無理な進路変更やジグザグ運転などで怖い思いをした瞬間が映像として記録されているならぜひ警察に届けてください。

 そして警察には、事故にまで至っていなくても、その証拠をもとに道交法違反で悪質ドライバーを積極的に取り締まっていただきたいと思います。

悪質事故は、悪質ドライバーが起こしている

 私のこれまでの取材を振り返ってみても、信じられないような悪質な事故や事件は例外なく、悪質なドライバーが起こしています。

 理不尽に命を奪われ、人生を変えられた被害者、遺族がどれだけいることでしょう。何としても、事故が起こる前に食い止めなければなりません。

 そのためにも、悪質ドライバーへの処分強化は大切です。抑止力にもつながるはずだからです。

2010年12月26日、ラップ音楽に合わせてクラクシンを鳴らしながらジグザグ運転の車が歩道に突っ込んだ現場。この事故で幼い二人の男の子が亡くなり祖父母も重傷を負った
2010年12月26日、ラップ音楽に合わせてクラクシンを鳴らしながらジグザグ運転の車が歩道に突っ込んだ現場。この事故で幼い二人の男の子が亡くなり祖父母も重傷を負った

 実は今日、12月26日は、7年前、東京の田園調布で悲しい事故が起こった日です。

 ラップ音楽に合わせてジグザグ運転をしていた乗用車が、歩道で信号待ちをしていた歩行者に突っ込み、祖父母は重体、いとこ同士だった二人の男の子はまもなく死亡しました。散歩中だった柴犬だけが、奇跡的に無傷でした。

 加害ドライバーは20歳になったばかりで、悪質運転の常習者でした。日ごろからルールを無視した過激な運転は近所の人々に目撃されていたそうです。

 7年前の今日、幹線道路である中原街道で、割り込みや蛇行運転を繰り返した彼は、死亡事故を起こした直後の取り調べに対して一体何を語っていたか……。

 私はこの事件について取材し、『柴犬マイちゃんへの手紙 ~無謀運転で二人の男の子を失った家族と愛犬の物語』(講談社)という本にまとめたのですが、その中から彼の供述を一部、抜粋してみたいと思います。

ふざけた運転をすると、同乗している友達も喜ぶ

「私はテンションが上がっている時に車を運転すると、ふざけて蛇行運転をしたり、運転中に意味もなく、音楽に合わせてクラクションを鳴らしたりします。両方とも遊び目的でやっていました。このようなふざけた運転をすると、同乗している友達も喜ぶのです」

「今回の事故は、私が速い速度で急ハンドルを切ったために車がスリップして起きた事故です。今までは車が危ないものだという認識が非常に甘かったです。今回の事故を起こして、もともと危ないものである車をふざけて運転したことがいかにバカだったか、深くわかりました。(中略)私のせいで子どもふたりの命を奪うなど、とてつもなく大きな結果を引き起こしてしまい、(中略)現実を受け入れて前に進んでいくしかないと思っています」

 二人の子どもの命を身勝手な運転で奪いながら「現実を受け入れて前へ進んでいくしかない……」と語った加害者の言葉を聞いて、ご遺族はどれほど苦しい思いをされたことでしょうか。

 この加害者は当初、「危険運転致死傷罪」で起訴されましたが、刑事裁判の途中で訴因変更となり、結果的に「自動車運転過失致死傷」の罪で懲役7年の判決を受けることになりました。危険運転なら、量刑は2倍以上になっていたかもしれません。

 こうした悪質なドライバーが起こした死亡事故を、「過失による事故=アクシデント」で済ませてよいのか……、私は大きな疑問を感じざるを得ませんでした。

 交通事故においては、その悪質性を故意と判断することは、現実にはなかなか難しいのが現状です。

 クルマは大変便利な乗り物ですが、狂気のドライバーがハンドルを握ると、それはまさに「凶器」となります。実際に世界各国で車を使ったテロが頻発していますが、テロリストたちにとって、車という道具は凶器なのです。

 また、あおり運転やふざけた危険運転も、実はテロと同じくドライバーの故意によるもので、「最悪、不特定多数の人を死に追いやってもよい」という甘い認識で行われていることもあります。

 そういう意味で、今回、警察庁や法務省が「悪質ドライバー」の指導や取り締まりの強化に乗り出したことは、常に危険にさらされている一般市民から見れば当然の取り組みと言えるでしょう。

 もし、あなたの周辺でこうしたドライバーを見かけたら、今日の法務大臣の会見内容を思い出し、積極的に最寄りの警察に通報されることをお勧めします。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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