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「中谷は私のレベルのボクサーと戦っていない」 アンドルー・モロニー単独インタビュー

杉浦大介スポーツライター
Mikey Williams/Top Rank

5月20日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ

WBO世界スーパーフライ級王座決定戦

前WBO世界フライ級王者

中谷潤人(M.T/25歳/24戦全勝(18KO))

12回戦

元WBA世界スーパーフライ級王者

アンドルー・モロニー(豪州/32歳/25勝(16KO)2敗1無効試合)

 スーパーフライ級の実力者対決が今週末、ラスベガスで行われる。井岡一翔が返上して空位になったWBO王座を手にするのは、稀有な才能ゆえに“ネクスト・モンスター”と称され、ここで2階級制覇を狙う中谷か。1週間前に1階級上の世界王者になった兄・ジェイソンとともに、双子同時世界王者を目指すモロニーか。

 

 決戦を直前に控え、モロニーが単独インタビューで意気込みを語った。

 *インタビューは現地5月5日、リモートで収録された

今回の試合で中谷のレベルが示される

――中谷戦に備えてラスベガスに入ったのはいつでしょう?

アンドルー・モロニー(以下、AM) : 試合の約3週間半前に現地入りしました。早く入ったおかげで、調整の時間は十分あります。当然のことですが、この試合は真剣に捉えており、日本人、フィリピン人のスパーリングパートナーといい練習ができていますよ。

――しばらくスーパーフライ級で戦い続けていますが、体重調整はまったく問題ないんでしょうか?

AM : 問題ないです。試合をコンスタントにこなせているおかげで、数年前と比べてもより容易にウェイトコントロールができるようになりました。試合から離れると体重のアップ&ダウンが激しくなりますからね。最近では常にジムで試合に向けたトレーニングを継続しており、おかげでコンディションも良好です。

――今回、対戦する中谷選手の印象は?

AM : とても良い選手ですね。これまで対戦した相手には支配的な強さを誇示してきました。ただ、中谷はまだ私のレベルのボクサーとは戦ったことがないと思います。 高く評価されているのは知っていますが、“ネクスト・イノウエ”と呼べるべき選手なのか、今回の試合で彼のレベルなのかが示されるのでしょう。彼のことはしっかりと調べてきましたし、このファイトを楽しみにしていますよ。

――あなたはしばらく井岡一翔選手との戦いを望んでいました。ここでサウスポーの中谷選手に標的が変わったことに難しさはありましたか?

AM : そんなことはないです。以前は本当に井岡に挑戦したいと思っていました。もともとの私の目標は世界王者に復帰することであり、そのための近道が井岡との対戦だと考えていたのです。ただ、井岡はタイトルを返上し、空位の王座決定戦に出られることに感謝しています。対戦相手は中谷という長身サウスポーに変わり、井岡とはスタイルは完全に別物ですが、準備するだけの時間は十分にありました。自信を持って試合に臨めると思っています。

――井岡選手が中谷選手との対戦ではなく、ジョシュア・フランコ(アメリカ)との再戦を選んだことに驚かされましたか?

AM : かなり驚きました。フランコ戦が統一戦だとすれば、井岡がそれを求めるのは理解できますが、タイトルを返上してまで再戦に向かうとは思いませんでした。井岡が中谷と戦えば、日本では注目のファイトになったのでしょう。フランコとの再戦はその後でもできたでしょうから、ここでタイトルが空位になったのはサプライズでした。ただ、結果的には私にタイトル戦のチャンスが巡ってきたわけですから、彼がそうしてくれたことを嬉しく思います。

激戦必至も、決め手になる要素とは

――中谷選手の試合の映像は何戦、目を通しましたか?

AM : かなりたくさん見ました。一番最近の試合を見ましたし、キャリア前半の試合にも目を通しました。全部で8戦ですかね。しっかりとした研究ができたと思います。おかげで彼の長所、短所がわかりましたし、ゲームプランの構築に役立ちました。試合を優位に進める助けになるはずです。

――話せる範囲で、中谷選手の長所とは?

AM : この階級では背が高く、リーチも長い選手です。腕を伸ばして戦える距離ではとても危険であり、やはり左パンチが主武器となっています。自身の距離を保つのが上手なボクサーという印象もあります。ここですべてを話すわけにはいきませんが、それらの武器を警戒しなければいけません。

――一方、中谷選手の短所はどこなのでしょうか?

AM : それに関しては試合を見て下さい(笑)。戦いの中であなたたちにも見えてくるのかもしれません。

――どんな試合になると予測していますか。

AM : 難しい戦いになるでしょう。両者ともにアグレッシブに攻め、ファンが喜ぶ試合になると思います。日本のファンにも絶対に見逃さないでほしいですね。私たちの両方にとって大事な試合ですが、私の方がよりハングリーであり、この一戦により勝ちたいと思っているのは私だと信じています。激しい戦いの末、最終的にはその部分が決め手になるでしょう。

――あなたはすでに一度、世界王者になっていますが、王座返り咲きを狙うこの試合は絶対に負けられない“マスト・ウィン・ファイト”だという思いがあるのでしょうか?

AM : それは間違いないです。敗れたら大きく後退することになり、キャリアのこの時点での私にそれが許されるとは思いません。だからこそ今回のトレーニングキャンプにすべてを注ぎ込んできたのです。

Mikey Williams/Top Rank
Mikey Williams/Top Rank

――スパーリングパートナーは誰だったのでしょう?

AM : オーストラリアではポール・フレミングといいスパーリングを積みました。ラスベガスには2人のスパーリングパートナーに来てもらい、そのうちの1人は日本人の富施郁哉(ワタナベ)です。彼らは身長も中谷と同じで、中谷のスタイルを上手に真似てくれました。おかげで長身サウスポー相手にも快適に戦えるようになりましたし、このように充実した準備ができたのはスーパーリングパートナーたちのおかげです。

過去20年間、この時のために

――MGMグランドの“バブル”で試合経験がありますが、メインアリーナのリングに立つことに特別な思いはありますか?

AM : それは間違いありません。会場はソールドアウトとなり、テレビでも多くの人が試合を見ることでしょう。メインは最高の好カードですからね。私にとっても名前を挙げるチャンス。MGMの大アリーナで開催されるビッグイベントで世界タイトルに挑めるのですから、すべてのボクサーにとってのドリーム・カム・トゥルー。私にとっても特別なことです。

――メインイベントとして行われるデビン・ヘイニー(アメリカ)対ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)戦の予想は?

AM : とても興味深い試合で、私の見方ももう何度も変わっています。現在はヘイニーの判定勝ちを予想しています。ヘイニーは長身で、ロングレンジの戦いを得意とし、頭のいいボクサー。この試合でも彼が距離をコントロールし、アウトボクシングをすると思っています。ヘイニーの方が若く、精力的に試合をこなし、ロマチェンコがインアクティブなのとは対照的です。それらの要素も影響し、ヘイニーがポイントアウトするんじゃないでしょうか。ただ、接戦になるでしょうし、好試合になるとは思います。

――群雄割拠のスーパーフライ級にはあなたと中谷選手以外にも多くの好選手がいますが、自身以外で誰がベストファイターだと思いますか?

AM : 難しい質問ですが、個人的にはローマン・“チョコラティート”・ゴンサレス(ニカラグア)が依然としてNo.1だと考えています。ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)戦もチョコラティートが勝ったんじゃないかと思いました。おそらくエストラーダがNo.2。他にもいい選手はたくさんいて、ランキングを作るのは難しいですが、この階級ではこれから多くの好カードが実現するでしょう。

――兄ジェイソンも13日に世界タイトル戦を行い、双子の兄弟が2週連続で世界戦の舞台に立つことになります。この2週間は、あなたたちにとってどういう意味があるのでしょう?

AM : 過去約20年間にわたり、私たちはこの時のために努力を続けてきました。一緒に世界王者になるためにハードワークを継続してきたのです。私たちが同じ日に戦うのは簡単ではないですが、今回は一緒にトレーニングを続け、1週違いで世界タイトル戦という最高のスケジュールになりました。まずジェイソンが世界戦を戦い、その栄光が私のモチベーションにもなります。2人続けて夢を叶え、オーストラリアに戻ることができたらそれは特別な瞬間になるでしょう。まるでハリウッド映画のようだし、最高の筋書きです。どれだけ特別な2週間か、言葉で説明はできません。そんなフェアリーテイル(おとぎ話)を現実のものとするため、私たちは仕事をやり遂げなければいけないんです。

 注・双子の兄ジェイソンは13日、カリフォルニア州のストックトン・アリーナで行われたWBO世界バンタム級王座決定戦でビンセント・アストロラビオ(フィリピン)に判定勝ちし、初の世界王座獲得に成功した。

左がアンドルー。右がWBO世界バンタム級王者に就いたばかりの兄ジェイソン 撮影:杉浦大介
左がアンドルー。右がWBO世界バンタム級王者に就いたばかりの兄ジェイソン 撮影:杉浦大介

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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