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【リーズナブルに湯治体験】初めてでもオススメの大沢温泉・岩手県花巻

湯川カオル子旅・グルメ・温泉流浪人

岩手県花巻にある山あいの旅館「大沢温泉 自炊部 湯治屋」。特に玄関棟は築200年を超える木造建築で、宮澤賢治が訪れた温泉宿としても知られます。今も長期滞在する湯客のために自炊場や売店をもうけ、古くからの湯治旅館の風情を残します。
レトロでノスタルジックな湯治の宿を紹介します。

≪古くからの湯治文化を今に伝える温泉旅館≫

大沢温泉にはサービスの行き届いた「山水閣」と、湯治を目的としたリーズナブルな自炊部「湯治屋」、現在はギャラリー茅(ちがや)として開館中の「菊水館」の3つの棟が建っています。

大沢温泉の開湯は、奈良時代から平安時代へと移り変わる延歴年間で、1,200年も続く温泉地。ひなびた雰囲気の湯治屋は古き良き木造建築の宿で、200年を超える玄関棟は江戸時代後期の建物です。

チェックインは昔ながらの「帳場(ちょうば)」で行います。今風にいえばフロントです。食事つきプランの場合は予約券を受け取り、朝食のないプランを予約した人で朝食を希望する方はチェックイン時に予約が可能です。手続きが終わると荷物と靴を持って客室へ向かいます。

≪混浴露天風呂や男女別大浴場を用意≫

大沢温泉には「大沢の湯」、「かわべの湯」、「薬師の湯」など6か所の大浴場があり、泉質はアルカリ性単純泉。湯治屋の宿泊者は山水閣にある「豊沢の湯」も利用できます。
今回はお風呂場の撮影許可をいただいたのですが、いつもお客さんがいたことから、宿の写真をお借りしました。

混浴露天風呂の「大沢の湯」 <画像提供:大沢温泉>
混浴露天風呂の「大沢の湯」 <画像提供:大沢温泉>

建物の一番北側にある「大沢の湯」は、宮沢賢治も利用したお風呂として有名です。混浴露天風呂ですが、女性専用の脱衣場もあって湯船はとても広く、周囲の山々や目の前を流れる豊沢川など開放感抜群です。
とはいえ周辺を散策している人からも丸見えなので、女性客は夜20時から21時までの女性専用時間の利用がオススメです。この時は男性客が入らないよう入口にスタッフが常駐し、外の遊歩道も通行止めになります。
利用時間:5時~24時 【女性タイム】毎日20時~21時

女性専用露天風呂「かわべの湯」 <画像提供:大沢温泉>
女性専用露天風呂「かわべの湯」 <画像提供:大沢温泉>

気を使わずに露天風呂を楽しみたいという女性客の要望で、2007年に源泉を管理していた小屋を改築して出来た女性用の「かわべの湯」
豊沢川のせせらぎや緑豊かな景色を眺めながら、のんびり湯あみを楽しみました。

男女別の屋内大浴場「薬師の湯」 <画像提供:大沢温泉>
男女別の屋内大浴場「薬師の湯」 <画像提供:大沢温泉>

岩風呂を思わせる壁の装飾や、タイルが張られた湯船など、レトロ感たっぷりの「薬師の湯」。 “あつ湯” と “ぬる湯” の2つの湯船があって、小さいながらも洗い場とシャワーを備えたお風呂場は、湯治屋ではここだけです。脱衣場にはドライヤーも置かれます。タイムスリップしたような空間で湯あみを楽しめました。
湯治屋の宿泊客は、山水閣にある「豊沢の湯」も利用可能。こちらは広い洗い場やドライヤーなども備えます。
※薬師の湯は清掃時間以外24時間利用可能

≪客室は湯治宿独特の料金システム≫

自炊部とも呼ばれる湯治屋は、自炊しながら安い料金で長期間滞在するためのお宿ですが、素泊まりのほかに、朝もしくは夕食のどちらか1食付きのプランもあります。
食事や備品などを込みにした宿泊プランもありますが、基本的には素泊まりの客室利用料のみが設定され、布団一式や浴衣、タオル、歯ブラシ、冬の暖房器具などが別料金になる昔ながらの湯治スタイルです。
布団や備品など必要なものを持ち込めば、より安く滞在できます。今回は初めてでも利用しやすい「ひっつみ定食の夕食と布団付き」のプランを利用しました。

客室は6畳と8畳がありますが、どちらも宿泊料金は同じで、部屋の指定はできません。今回利用した客室は「上館」にある8畳の和室「一号」です。豊沢川に面して広縁のある部屋で、自炊客のために中型のワンドアタイプの冷蔵庫がありました。まだ肌寒い季節だったせいか、こたつが置かれテーブルとして使えますが、暖める場合はコードを有料(1日330円)で借りることになります。

客室の窓からは、対岸にある茅葺き屋根の別館「菊水館」と湯治屋を結ぶ「曲り橋」がよく見えました。宮沢賢治も渡ったと言われる橋で、訪れた時期は川沿いに桜が咲きはじめ、目を楽しませてくれました。

プランについている布団一式が部屋の隅に積まれていて、敷くのはセルフです。もし布団一式を借りる場合は、それぞれ1日分の料金で、掛け布団220円、敷布団220円、毛布220円、シーツ77円、枕は11円となります。

今まで古い旅館には何度も泊まってきましたが、非常用の受信専用電話というものを見たのは初めてです。古い木の茶だんすやテレビ台と、妙に流線形の受話器の形がミスマッチ。

今回は浴衣のないプランだったので、1着220円で借りました。バスタオルは110円で借りられるほか、歯ブラシ(143円)とタオル(300円)は売店で購入も可能です。

外鍵のない昔ながらの客室と、外鍵のある建物「若葉荘」から選べます。今回は外鍵のないリーズナブルな和室に宿泊しました。
客室についている唯一の鍵は、襖を中から閉められる内鍵です。クルクル回して閉める懐かしのネジ式タイプ。温泉や食事などで部屋を空けるときは、貴重品を帳場で預かってもらえます。夜中は警備員が館内を巡回していました。鍵が気になる方は若葉荘の客室がオススメです。

≪情緒あふれるレトロな館内≫

江戸時代後期に建てられたレトロな館内は風情タップリ。客室が並ぶ夜の廊下には明りが漏れ、ノスタルジーな趣きです。

板張りの天井と古い館内表示がいい雰囲気。

廊下には、湯治客のために分別されたゴミ箱やホウキ、ブリキのチリ取りもありました。

階段の途中、板が打ち付けられた壁にこんな看板も。

洗面やトイレは共用です。

廊下に置かれたスリッパは、客室内に置き場のない湯治部屋ならではの光景。

≪長逗留に役立つ商品がそろう売店≫

そこそこ規模の大きな湯治宿には、様々な商品を取りそろえた売店があります。湯治屋では宿の売店というよりも、なんでも扱う村の商店のような品ぞろえでした。

売店にはお土産のお菓子や地酒、地元工芸品のほか、自炊に必要な食材も販売。肉や魚などの生鮮食品は、前日の午前中までに申込めば取寄せも可能です。

シャンプーやリンス、コンタクトケア用品など日用品も充実。缶詰やインスタントコーヒー、調味料までそろいます。

冷蔵コーナーには、ビールやお酒などのアルコールの他、ジュースや瓶牛乳も販売。ご当地アイスも置かれ、ご当地納豆が4種類もある魅力的なラインアップです。

≪レトロな自炊場≫

館内には明るい自炊場があります。電子レンジや鍋、食器なども無料で用意。なんともレトロはガスコンロは、長方形の料金箱につながっていて、1回10円で7、8分ほど使えます。
ちょうど長期滞在している方が食事を作っていて、10円でご飯が十分炊けるそうです。

≪家庭の味!お食事処もあります≫

館内には食事処「やはぎ」があり、日帰り入浴客も利用できます。朝食のみ予約制で、昼と夜は予約なしで利用可能。

メニューも豊富で定食や丼もの、大沢地区で獲れたそば粉を使った名物の蕎麦のほか、一品料理をそろえます。ビールやお酒、ウイスキーなどアルコールメニューも充実していて、お風呂上りに大ジョッキでビールを楽しむ人も多く見かけました。今回は朝夕共にこちらでいただきました。

夕食は宿泊プランの「ひっつみ定食(1,200円)」。大きなお椀に盛られたひっつみ汁のほか、日替わりの小鉢は蓮根のそぼろ和え、ご飯の替わりにいなり寿司、デザートがついています。いなり寿司が大きくて、甘じょっぱくて癖になる美味しさでした。

岩手県の郷土料理「ひっつみ汁」は、水でこねた小麦粉を、“ちぎる” のお国言葉で “ひっつまんで” 鍋に入れる一種のすいとんです。
やはぎの「ひっつみ」は珍しく、ひえや粟などの雑穀が入り、モチっとして雑穀のプチプチした歯ごたえを楽しめます。さらに薄く延ばしてあるのも特徴です。スープは豚肉で出汁をとった醤油ベースで、野菜や油揚げなど具沢山。シンプルな味わいながらも豚や野菜の旨味が出ていて、ご当地の味を満喫しました。

朝定食(予約制) 800円
朝定食(予約制) 800円

この日の朝食は鮭の塩焼きや小鉢、漬物、お味噌汁、ごはんがついていました。日替わりのお漬物は大根の甘酢漬けで、お味噌汁には麩海苔、ネギ、麩が入り、ご飯は花巻産の「ひとめぼれ」です。ご飯だけはお代わり自由で、納豆や生卵は別売りスタイル。ザ・旅館朝食とったメニューは家庭の味。焼き鮭も美味しくてご飯が進みました。
おかずを自炊する方は、ご飯と味噌汁を炊き出しコーナーで予約することも可能です。※ご飯1合200円、味噌汁1杯150円

≪実際に宿泊してみてわかったこと≫

「湯治宿」ってどんなところ?

主に東北地方に伝わる湯治は、春から秋にかけて農作業や漁業などきつい肉体労働に従事していた人々が、農閑期の間温泉で身体を癒す、ある種の民間療法でした。現在も自炊をしながら数週間滞在する人が多く、宿泊代を安く抑える代わりに、布団や寝巻、ときにはこたつ(宿によっては電気代も別料金)なども持ち込んで、長逗留できる宿泊施設です。
時にはお客さん同士仲良くなり、翌年の日にちを合わせて通う方もいらっしゃいます。

お支払いについて
大沢温泉 湯治屋では、平日と土日祝ともに同一料金で、宿泊代も安く抑えています。お食事処や売店ではその都度支払いし、宿泊代や備品の利用料はチェックアウト時に清算します。
支払いはクレジットカードのほか交通系ICやQRなど、21世紀のキャッシュレスにも対応しています。

持参すると便利なもの
先にも紹介しましたが、アメニティ類は別料金です。必要な物を持参するれば安く滞在できます。プランによってはタオルや浴衣、布団付きなど、自分に合ったプランを選ぶのがいいでしょう。
客室にティッシュペーパーがないので、ポケットティッシュやウエットティッシュ、長逗留する方は箱ティッシュが必須です。

湯治旅館ならではのマナーも
古い木造建築なので、館内を移動するときは、足音や会話も注意します。客室の多くは襖(ふすま)や障子がドア代わりで音がよく聞こえるほか、多くの方は部屋で静かに過ごしていて、お風呂の後に昼寝をしている人もいます。廊下は静かに、と覚えておきましょう。
また、連泊や長期滞在が目的の宿などでは、他の湯治客との挨拶も大切にしたいです。廊下でのすれ違いや、大浴場の利用時、自炊場など、時にはそれがきっかけで会話が弾むことも。湯治宿あるあるの “ご近所づきあい” です。

今回は1泊だけの滞在でしたが、宿泊代も安く、他のお客さんとの交流も楽しめました。古い建物はとてもノスタルジックで、レトロな湯治宿の一旦を垣間見られた、心に残る体験でした。

大沢温泉 自炊部 湯治屋
住所:岩手県花巻市湯口字大沢181
アクセス:電車利用の方は東北新幹線が停まる「新花巻駅」と東北本線「花巻駅」より地元温泉組合のシャトルバスと大沢温泉のシャトルバス(どちらも無料で事前予約制)を利用して30分ほどです。
宿泊代金:ひっつみ定食プラン(宿泊代+布団セット+夕食のひっつみ定食)2名1室 1人5,150円+入湯税70円
詳細はこちらをご覧ください 公式ホームページ(外部リンク)

旅・グルメ・温泉流浪人

温泉にハマって全国を旅するようになって、2017年からは旅ライターをしています。ホテルなど宿泊施設の紹介や観光ガイド。グルメ記事では、アフタヌーンティーやカフェスイーツ、ホテルグルメもレポートします。特に草津温泉には今まで200泊以上。ガイドブックには載っていないレアな情報や、草津旅を満喫する方法もお知らせします。

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