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国と地方と地方間の役割分担を明確にする“行政経費の制度的ムダをなくし、民主主義を守る”

穂坂邦夫NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

○地方分権は過去のものか

 最近の様々な事象を捉えると永い間提唱された「地方分権」は影をひそめ、より強固な中央集権に向かって走り続けているような気がします。

 昨年12月の国会で水道法が改正され、公営と民営の是非について様々な議論がおきました。諸外国の失敗例や地域独占的な水道事業が民営化したならば利益重視の経営が行われ、値上げを阻止できない極めて危険な状態が予見される。あるいは品質の保持も業者任せになって劣化する危険があるなど、様々な意見が出されました。

 しかし、多様な意見が出されたにもかかわらず、自治体の水道運営における公設・民営の選択の余地が拡がっただけだとする意見は皆無でした。当然議論されるべきであった自治体自身の力量が問われることなど、どこにもありません。とても不思議です。同時に地方自治のあり方に不安感をおぼえたのは私だけでしょうか。

 同じ様に東京都の財源であった地方法人税や地方事業税9200億円を他の自治体に移譲するという今回の処置も、地方財源の不均衡緩和策のひとつとしか捉えられず、東京都という行政機関が反対の声を上げるだけで住民サービスが減少するであろう都民自身の反対のうねりは一向に高まっていません。財源移譲の是非はともかく、都知事選で高まった都民の声がまったく聞かれなかったことに、驚きと大きな不安を感じています。

 地方分権が叫ばれた時代はもう過去のことで、我が国は絶対的な中央集権を望む時代へと移ってしまうのでしょうか。

○分権の目的を再認識する

 私は国民・市民が身近で学ぶことの出来る地方自治の基本理念が崩壊すると極めて危険な状況になると危惧しています。少子高齢化の加速によって日本経済が縮小される中で、福祉費や安全保障の懸念から防衛費の増加が加速すると国家予算がさらに拡大し、財政赤字は一層増大して、近い将来福祉の切り捨てなど、抜本的な行政経費の削減が求められることになるでしょう。税収をはるかに超える行政経費のムダの削減は、国だけでは不可能です。なぜならば、国(約100兆円)と地方(都道府県約50兆円・市町村約50兆円)は同額に近い行政経費を費消しているからです。特に地方間における役割分担の明確化はムダ削減のキーワードといっても過言ではありません。

 さらに、地方の領域にまで及ぶ国家の権限は各省における様々な不祥事件や国民生活に大きな影響を与える不適切な事務処理などを生み続けることになるでしょう。このように中央集権体制の加速は国民の政治への無関心と政治不信を呼び全体主義を誘引して、民主主義の堅持さえ危ういことになりかねません。

 私達は新たな時代を迎えるにあたって「地方分権」の是非をもう一度議論する必要があるのではないでしょうか。現在のようにうわべだけの地方自治が行われ、実質的な権限の全てを国家が担うという制度設計の大欠陥を、もう一度検証してみる必要があるのではないでしょうか。

 地方分権は地方が国からの権限を求めるだけだと誤解されますが、国と地方(都道府県や市町村)と地方間の役割分担を明確にすることに尽きます。

 分権は新しい時代に向かって「真の民主主義国家」の実現と「制度による税金のムダ使い」の是正であることを再認識する必要があります。

NPO法人地方自立政策研究所・財団法人日本自治創造学会理事長

埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議員、議長、埼玉県議会議員、議長を歴任。2001年、志木市長に就任。2005年6月任期満了にともない退任。2005年7月、NPO法人地方自立政策研究所理事長。2010年4月より一般財団法人日本自治創造学会理事長に就任。著書に『教育委員会廃止論』(弘文堂)、『地方自立 自立へのシナリオ』〔監修〕(東洋経済新報社)、『自治体再生への挑戦~「健全化」への処方箋~』(ぎょうせい)、『シティマネージャー制度論~市町村長を廃止する~』(埼玉新聞社)、『Xノートを追え!中央集権システムを解体せよ』(朝日新聞出版)などがある。

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