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AmazonのAIは「物流センターの労働者を孤立させる」、調査報告書が指摘

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
英アマゾンでは2023年にストライキも(写真:ロイター/アフロ)

アマゾンのAIは物流センターの労働者たちを孤立させる――。

英オックスフォード大学と国際連携組織「AIに関するグローバルパートナーシップ(GPAI)」は6月5日に公開した報告書の中で、そんな指摘をしている。

報告書は、労働環境へのAIの影響を調査。AIとロボットによる効率化を追求するアマゾンの、英国の物流センターに焦点を当て、労働者への聞き取りなどから実態をまとめた

報告書では、AIとロボットによる業務効率化が「労働者を精神的および身体的リスクにさらす可能性がある」と指摘。「息つく暇もない」という作業員の声も紹介している。

AIリスクは、職場環境にも濃い影を落としている。

●「息つく暇もない」

ロボットが来てから、仕事がどんどん悪化していった。ロボットはとても速いし、息つく暇もない。正直言って、ノンストップです。

英オックスフォード大学インターネット研究所のプロジェクト「フェアワーク」と、「責任あるAI」実現のための国際的な官民連携組織「AIに関するグローバルパートナーシップ(GPAI)」は6月5日に公開した報告書の冒頭で、アレア(仮名)という英国の物流センター作業員の言葉を紹介する。

報告書は、英アマゾンの物流センターなどの施設で働く労働者22人の聞き取りや、管理職へのインタビュー、施設の視察などをもとにまとめたという。

その内容を、同大学とGPAIで策定した「フェアワークAI原則」の「公正な給与」「公正な条件」「公正な契約」「公正な経営」「公正な代表」という5つの基準に当てはめて評価している。

そこで取り上げられているのが、AIとロボットを駆使した作業効率化の一方で、作業速度の高速化と、人間の同僚たちと接触しない労働環境での、労働者たちの心身の疲労ぶりだ。

ジェーン(仮名)はピックアップ(商品の取り出し)が本当に孤独だと感じている。手作業のフルフィルメント(配送)センターでは、商品を抱えながら、ジェーンは倉庫内を1日あたり15~16km、多いときはそれ以上歩くこともあった。疲れるが、少なくとも人に会うことはできた。ロボットによるフルフィルメントセンターでは、ピックアップ担当の作業員は固定されたステーションで働き、同僚はロボットだけだ。

報告書は、「両隣に誰もいないため、10時間もそこにいるのは大変な苦労だ。多くの人が精神的な問題に苦しんでいる」「本当に懸命に、荷物をスキャンして、まるでロボットのようだ」という作業員の発言も紹介し、こう述べている。

機械のように働く、あるいはロボットのように働くという考え方は、労働者が経験する高い要求を反映して、この調査のために行ったインタビューに共通していた。

●AIと組合

この報告書で強調されている中心的な発見は、職場における労働者のAI体験についてだ。それは、業績目標を達成するために感じる絶え間ない圧力、遍在する不透明なアルゴリズムによって設定された硬直的で変更がきかない労働プロセスのシステム、日々の仕事に影響を与え、管理する意思決定プロセスを理解し、関与することもできない無力感、といった体験だ。英アマゾンで労働組合を結成し、労働者の賃上げを確保するために進行中の闘いは、これらの調査結果をさらに裏付けている。

報告書は、「アマゾンという企業は反組合主義という評判がある」と述べ、AIとロボットの影響を、個々の労働者だけではなく、労働組合の問題ともあわせて評価している。

英アマゾンでは、労働組合をめぐる攻防が続く。

英コベントリー市のアマゾン倉庫の労働者らは、ストライキを経て、組合承認を要求している

アマゾンの組合との軋轢は、英国だけではない。米国では、2022年結成のアマゾン労組が、有力労組であるトラック運転手組合(チームスターズ)加盟合意を発表している。

また、日本でもアマゾンの配送を行うフリーランスの配達員の労働組合が、東京都労働委員会に救済の申し立てを行っている

●アマゾンのコメント

アマゾンは、地球上で最も安全で先進的なテクノロジーによる職場を作ることを目指しています。私たちが設計するテクノロジーは、従業員を置き換えるのではなく、従業員を補強しサポートすることで、より良い職場環境を作り出すことを目的としています。フルフィルメントとロジスティクス業務では、ソフトウェアとハードウェアを使用して最も困難で反復的な作業を自動化、従業員の精神的・肉体的ストレスを軽減し、けがの割合は英国の他のリテールやロジスティクス事業者に比べて50%少なくなっています。

報告書には、アマゾンのそんなコメントも紹介されている。

一方で報告書は、結論としてこう述べている。

この報告書の重要な発見は、職場へのAIの導入は、手作業を置き換え、より効率的にするために採用される特定の技術にとどまらないということだ。むしろ、それを上回ることが問題になっている。労使関係の大きな変革が起こっており、これはサプライチェーンにおけるすべての利害関係者(労働者、消費者、企業、規制当局、政策立案者)に影響を与える。

AIのインパクトは、リアルな音声や動画作成の新機能や、偽情報・誤情報の氾濫などとして目にすることが多い。

だが、身近な職場環境を揺るがし、激変を後押ししていることが、報告書からはわかる。

(※2024年6月6日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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