AmazonのAIは「物流センターの労働者を孤立させる」、調査報告書が指摘
アマゾンのAIは物流センターの労働者たちを孤立させる――。
英オックスフォード大学と国際連携組織「AIに関するグローバルパートナーシップ(GPAI)」は6月5日に公開した報告書の中で、そんな指摘をしている。
報告書は、労働環境へのAIの影響を調査。AIとロボットによる効率化を追求するアマゾンの、英国の物流センターに焦点を当て、労働者への聞き取りなどから実態をまとめた。
報告書では、AIとロボットによる業務効率化が「労働者を精神的および身体的リスクにさらす可能性がある」と指摘。「息つく暇もない」という作業員の声も紹介している。
AIリスクは、職場環境にも濃い影を落としている。
●「息つく暇もない」
英オックスフォード大学インターネット研究所のプロジェクト「フェアワーク」と、「責任あるAI」実現のための国際的な官民連携組織「AIに関するグローバルパートナーシップ(GPAI)」は6月5日に公開した報告書の冒頭で、アレア(仮名)という英国の物流センター作業員の言葉を紹介する。
報告書は、英アマゾンの物流センターなどの施設で働く労働者22人の聞き取りや、管理職へのインタビュー、施設の視察などをもとにまとめたという。
その内容を、同大学とGPAIで策定した「フェアワークAI原則」の「公正な給与」「公正な条件」「公正な契約」「公正な経営」「公正な代表」という5つの基準に当てはめて評価している。
そこで取り上げられているのが、AIとロボットを駆使した作業効率化の一方で、作業速度の高速化と、人間の同僚たちと接触しない労働環境での、労働者たちの心身の疲労ぶりだ。
報告書は、「両隣に誰もいないため、10時間もそこにいるのは大変な苦労だ。多くの人が精神的な問題に苦しんでいる」「本当に懸命に、荷物をスキャンして、まるでロボットのようだ」という作業員の発言も紹介し、こう述べている。
●AIと組合
報告書は、「アマゾンという企業は反組合主義という評判がある」と述べ、AIとロボットの影響を、個々の労働者だけではなく、労働組合の問題ともあわせて評価している。
英アマゾンでは、労働組合をめぐる攻防が続く。
英コベントリー市のアマゾン倉庫の労働者らは、ストライキを経て、組合承認を要求している。
アマゾンの組合との軋轢は、英国だけではない。米国では、2022年結成のアマゾン労組が、有力労組であるトラック運転手組合(チームスターズ)加盟合意を発表している。
また、日本でもアマゾンの配送を行うフリーランスの配達員の労働組合が、東京都労働委員会に救済の申し立てを行っている。
●アマゾンのコメント
報告書には、アマゾンのそんなコメントも紹介されている。
一方で報告書は、結論としてこう述べている。
AIのインパクトは、リアルな音声や動画作成の新機能や、偽情報・誤情報の氾濫などとして目にすることが多い。
だが、身近な職場環境を揺るがし、激変を後押ししていることが、報告書からはわかる。
(※2024年6月6日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)