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大学生の「タダ働き」が蔓延? 夏休みの「ブラック・インターン」の実態と対処法

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです(写真:アフロ)

 大学ではちょうどいま、夏休みがはじまろうとしている。大学生の夏休みといえば、うらやましく思う社会人も多いことだろう。だが、、今日の大学生の長期休暇は、かつてとは大きく変わってきている。

 1ヶ月半から2ヶ月におよぶ長期休みの時間を使って、社会経験を積むため、あるいは就職に有利なルートを確保するために、インターンシップに参加する学生はかつてとは比べ物にならないほど多くなっているのだ

 マイナビの調査によれば、2025年卒の学生でインターンシップ・仕事体験に「参加」した学生は85.7%と、2014年卒の割合(32.1%)と比べて2倍以上増加している。

 インターンシップ・仕事体験に「応募」した割合となるとさらに増加し、なんと91.0%にのぼる。就職活動をする大学生のほとんどがインターンシップに参加する時代になったといって差し支えないだろう。

 一方、インターンをする学生の中には多忙な業務に忙殺されて、学業が圧迫されるケースも現れてきている。私が代表を務めるNPO法人POSSEの相談窓口には、「インターン先で毎日ほぼ終電まで働いていて、学業に支障をきたしている」と子供を心配する保護者から頻繁に相談が寄せられてきている。

 さらに、寄せられる相談の中には違法なインターンも多数見られる。例えば、「従業員と同様の業務をさせられているのにもかかわらずインターンであるという理由で無給で働かせられている」「1日7時間労働で日給2000円と提示された」「インターンを終えたが給料が支払われていない」という相談も珍しくはない。

 こうしたインターンは、「就活のためになる」「社会経験になる」と学生を騙して、タダ同然で働かさせる「ブラックインターン」だといえよう。

 そこで今回の記事では、「ブラックインターン」の実態とその対処法について紹介していく。これから夏のインターンシップに参加予定の学生や、過去に「ブラックインターン」を経験したことのある学生のみなさんは、ぜひ参考にしてほしい。

新しいインターンシップの定義

 具体的な事例をみるまえに、インターンシップ制度の概要についておさえておこう。

 経済産業省・文部科学省・厚生労働省は、2022年に新たにインターンの類型化をおこなっている。これによれば、企業説明会など就業体験を含まないものはインターンシップとは呼ばず、就業体験が5日間以上で、学生へのフィードバックが含まれるなどの要件を満たしたものを「インターンシップ」とするようになった。

参考:令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります(厚生労働省)

 このような定義に見られるように、インターンは5日以上、具体的な就労体験に従事することになる。学生からすれば本格的な就労体験を得られることになる一方で、拘束が強すぎるインターンシップによる、学業への圧迫も懸念されている。

 特に、インターンシップで企業が取得した学生の活躍情報などを採用活動に活用する「採用直結型インターン」では、定員に制限がかけられていることも多く、インターンに参加するためにはエントリーシートの記入、面接・グループディスカッションを経て、選考に通過する必要がある場合も少なくない。

 採用直結型が広がることで、準備活動も学生の多忙化を加速させていることも、すでに識者からは指摘されており、今後学業との折り合いをどうつけていくのかは、社会的な問題となっていくだろう。

参考:紺屋博昭「若者の就職活動における法的課題─採用直結インターンシップ時代の〈個別選考準備契約〉や離転職にまつわる諸課題」『日本労働研究雑誌』2024年6月号

 その一方で、以下に示していくように、単なる選考や厳しさの問題だけではなく、そもそも違法状態で学生を「使いつぶす」ような「ブラックインターン」も跋扈している。

違法なインターンシップの実例とは?

 最近POSSEに寄せられた相談事例をもとに「ブラックインターン」の実態について具体的にみていこう。

相談①:Aさん(大学生)
「学生インターンとして企業で働いており現在研修中ですが、9〜18時の9時間勤務で日給5000円+交通費です。時給に換算すると最低賃金をかなり下回り、モチベーションにも繋がらず悩んでおります。賃上げを要求するのは認められるでしょうか?」

相談②:Bさん(大学生)
「7月から始める予定のインターンシップの面接で労働条件は1日7時間労働、日給2000円(交通費代と昼食代別途支給)と提示されました。おかしいなとは思いましたが、正社員になれるなら低賃金でも頑張ろうと思い働くことを決めました。しかしよくよく考えてみると不当な労働条件だと思い心配になりました。これはブラックインターンでしょうか。」

相談③:Cさん(大学生)
「通信機器の提案・販売を行なっている会社でインターンをしています。長期インターンで給与が発生する旨が採用ページにありましたが、約1ヶ月半勤務して得られた賃金は0円です。」

 インターンシップに関連する相談で多いのが最低賃金以下で働かされているというケースだ。上記のAさんの場合、9時間労働で日給5000円で働いていたため、換算すると時給約555円で働いていたことになる。Bさんの場合はさらに低くなり、時給約290円となる。どちらも明らかに最低賃金を下回っている。後で説明するように、これは違法行為であるが、多くの会社は「インターンだから」と労働基準法違反を正当化しているのが実態である。

 こうした明らかな違法行為に学生が気づくことも多いが、「正社員雇用」という学生にとって魅力的に映る条件をちらつかせることで、ほとんどタダ働きにちかい労働を学生に強要することが可能になってしまっている。実際、Bさんは会社から「3ヶ月から半年、弊社で勤務をしたら正社員になれる」と言われ、「それなら低賃金でも頑張ろう」と思い立ってインターンを決めていた。

 そして、Cさんのケースように、長期インターンシップと称して大学生がまさに文字通り「タダ働き」させられているケースも珍しくはない。

 こうした「タダ働き」に加え、そもそも「インターン」であるにもかかわらず、学生の体験につながるというよりも、日常的な業務を押し付けられてしまうという問題も生じている。

インターンシップと聞くと大企業で働くことをイメージする人も多いと思われるが、実際には「ベンチャー企業」「スタートアップ企業」でインターンシップをする学生も多い。そこで学生が任されるのは、企業の広報に欠かせないSNS投稿やWEBページなどの作成だ。

 このタイプの典型的な被害にあったDさんの事例を紹介しよう。

相談④:Dさん(大学生)
「とある教育系ベンチャー企業の長期インターンシップとして働いています。具体的な業務内容は、会社の広告用インスタグラムのストーリー作成と投稿です。ストーリーの投稿は土日などにもタスクがあり、まったく休日が無い状態です。また、土日であっても、毎日仕事の進捗状況をslackで報告しなければなりません。完全に休日が無く、常に毎日会社と繋がれている状態です。」

 Dさんの他の事例でも、1日1回のメルマガ配信や企業のHPのランディングページの作成を無給で担わされたという学生からの相談も寄せられている。

 こうした「普通の業務」を担わせるためのアルバイトを採用するコストすら負担したくないベンチャー企業や零細企業が、インターンとして学生にタダ働きを命じるケースが増えていると考えられる。

「インターン」であっても未払い賃金を請求できる

 では、もし「ブラックインターン」の被害に遭ってしまったらどうすればいいだろうか。「インターン」と名称がついていれば、無給で学生になんでもさせることができると思っている人も多いだろうが、実はそれは誤解である。

 インターンシップは無給であることが合法的に認められる場合と、給料を支払わなければならない場合とに区別される。旧労働省(現、厚生労働省)の通達をみてみよう。

「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」(旧労働省平成9年9月18日基発第636号)。

 つまり、直接企業の利益となるような仕事を行っている場合や企業からの指示で業務を行っている場合は、「労働者」として扱われ、賃金が支払われなければならないということだ。この場合は、当然、労働基準法の適用対象となり、会社は労働時間の管理を行い、最低賃金を守る法的義務が生じる。

 そのため、インターンと呼ばれていても、この義務を免れることはできない。また、仮に「日給1000円のインターン契約書」にサインしてしまったとしても、業務を行っている実態があればその契約は無効となり、やはり最低賃金を請求できる。労働法は形式的な契約とは無関係に「実態」で判断を下すからである。

 ここまで紹介した事例でも、厚生労働省通達に従えば、すべて学生は「労働者」として扱われ、労働法の適用を受けることになる。

「ブラックインターン」への対処法は?

 最後に、「ブラックインターン」に遭遇した場合の対処法を簡単に説明しておこう。

 まず、未払い賃金は取り返すことが可能だ。過去には、学生がインターンシップ中に証拠を集め、辞めた後に私たちの支援を受けながら労働基準監督署に申告を行い、労働基準監督署から企業に是正勧告を出させるに至ったケースもある。その企業は労働基準監督署から指導を受けたあと、最終的には学生たちに未払い賃金を支払っている。

参考:「学生を騙す「ブラックインターンシップ」の罠 実態と対処法」

 「インターンシップ」だからという理由で、あきらめる必要はまったくない。今現在インターンシップを行っている学生や過去に行っていた学生は、是非一度自分のインターンシップを見直してみてほしい。

 また、無料で専門家に相談できる窓口も複数存在する。一人で権利行使をすることが不安だという人や、もっと詳しいアドバイスを受けたいという人は、是非一度専門家に相談してほしい。 

アンケート・無料労働相談窓口

NPO法人POSSEでは、「ブラックインターン」の実態を明らかにするためのアンケート調査を実施している。協力していただける方は、下記のフォームから記入をお願いします。また、「ブラックインターン」の実態を告発する取り組みに協力したいという方は、ぜひそういった活動にも参加してみてほしい。

「ブラックインターンを経験したことがある方へのアンケート調査」を募集中!

フォームリンクはこちら:https://forms.gle/ZNysEMLdMiwDKNJ8A

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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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