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毒母に脱獄囚など、一作ごとに別顔になる女優、菜葉菜と共に。「彼女といまを生きる大人の女性の映画を」

水上賢治映画ライター
「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist

 SMの女王様に毒母、孝行娘に脱獄囚、特殊詐欺犯の青年を手玉にとる盲目の女性に不倫妻などなど。

 「いろいろな人物を演じ分けるのが俳優」といってしまえばそれまでだが、にしても一作ごとに違った顔を見せて驚かせてくれる。

 いまそのような活躍を見せてくれているのが女優の菜 葉 菜だ。

 バイプレイヤーとしてしっかりと作品にアクセントを加えることもできれば、主演も堂々と張れる。

 そんな彼女のこれまでのキャリアをひとつ振り返る特集上映が現在開催中だ。

 横浜のシネマノヴェチェントにて開催される「女優 菜 葉 菜 特集」は、彼女の主演作、出演作、そして顔の映っていない作品(?)まで12作品を一挙上映。これまでのキャリアを振り返る。

 すでに菜 葉 菜本人に話をきいたインタビューを連載中だが、こちらはアナザーサイド編。

 「ワタシの中の彼女」で菜 葉 菜とタッグを組んだ中村真夕監督に「女優・菜 葉 菜」の魅力について話を訊く。全三回。

中村真夕監督     提供:中村真夕
中村真夕監督     提供:中村真夕

菜 葉 菜のファースト・インプレッションは?

 前回(第一回はこちら)に続き、「女優・菜 葉 菜」について訊くが、中村監督が菜 葉 菜と初めて顔を合わせるのは「ワタシの中の彼女」の出発点になった短編「4人のあいだで」でのこと。

 そのときのファースト・インプレッションをこう振り返る。

「前回お話ししましたけど、そのままでダークの役が多かったので、本人もちょっと陰があるタイプなのかなと勝手に想像していたんです。

 けど、実際にお会いすると、そんなことは全然なくて、ものすごく明るい。

 わたしに言われてもと思いますけど(苦笑)、はじめはすごく笑顔の似合う『かわいらしい人だな』と思いました」

わたしもかなり気が強い方だと思うんですけど、たぶん負けます(苦笑)

 ただ、実際に組んで現場で時間を共有すると大きく印象が変わったという。

「単にかわいいだけじゃないぞといいますか。

 けっこう頑固で曲げたくないところは曲げない。

 かなり強気の性格で、いい意味で裏表がない。

 おかしいと思うことは、ストレートにこちらにぶつけてくる。わたしもかなり気が強い方だと思うんですけど、たぶん負けます(苦笑)」

「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist
「ワタシの中の彼女」より (C)2022 T-artist

『夫を支え、家庭を守る』みたいなイメージで

一定の年齢に達した女性はくくられてしまう

 振り返ると、「ワタシの中の彼女」において菜 葉 菜は同志のような存在だったという。

「まず『ワタシの中の彼女』は、コロナ禍を生きる女性たちを描くということがテーマとしてありました。

 それからもうひとつ、大人の女優さんが大人の女性を演じる大人の女性を主人公にした映画にしたい気持ちがありました。

 いまの日本の映画やドラマの現状をみると、大人の女性を主人公にした作品が少ない。

 それが反映されるように、日本の場合特に35歳ぐらいを過ぎると女優さんは良妻賢母の役ばかりがあてがわれる。

 ひとりの女性ではなく、『妻』や『母』としての役割に追いやられる。なぜか『性』の部分がないものにされてしまう。

 実際の社会は変わっていろいろな生き方を模索している女性たちがいる。魅力的な女性も大勢いる。

 にもかかわらず、いまだに日本のドラマや映画、もっというと社会でも、『夫を支え、家庭を守る』みたいなイメージで一定の年齢に達した女性はくくられてしまう。

 そんな印象があって、それはすごくつまらないことと、ひとりの作り手として思っていました。

 それから、宝の持ち腐れといいますか。

 日本にもキャリアを重ねて輝いている女優さんが多くいる。

 彼女たちを生かさない手はないと思うんですけど、実際は大人の女性をメインに据えた作品は少ない。

 それはすごくもったいないと思うんです。

 だから、キャリアを重ねた女優さんとタッグを組んで、いまを生きる大人の女性をメインにした映画を作りたいと考えていました。

 菜 葉 菜さんはこれまでのキャリアを見ればわかるように、どんな人物にもなれてしまう。

 ひとつの顔に収まらない、いろいろな顔をもった役者さんですから、菜 葉 菜という女優を存分に使い倒そうと思いました。

 で、主婦に在宅ワークのOL、風俗嬢、盲目の女性とまったくタイプの違う、年齢も幅があって、置かれた境遇も違う人物を演じ分けていただきました。

 その過程では、正直、意見がぶつかったことはあります。

 でも、最後は同じ方向へ進むことができた。

 だから、菜 葉 菜さんはどう思っているかわからないですけど、わたしとしては同志として作品を一緒に作った感触があります」

(※第三回に続く)

【中村真夕監督インタビュー第一回はこちら】

「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist 
「女優 菜 葉 菜 特集」ポスタービジュアル 提供:T-artist 

<女優 菜 葉 菜 特集>

「ハッピーエンド」(2008 年/山田篤宏監督)

「どんづまり便器」(2011 年/小栗はるひ監督)

「百合子、ダスヴィダーニヤ」(2011 年/浜野佐知監督)

「雪子さんの足音」(2019 年/浜野佐知監督)

「モルエラニの霧の中」(2020 年/坪川拓史監督)

「赤い雪」(2019 年/甲斐さやか監督)

「夕方のおともだち」(2021 年/廣木隆一監督)

「夜を走る」(2021 年/佐向大監督)

「TOCKA[タスカー]」(2022 年/鎌田義孝監督)

「鋼-はがね-」※オムニバス『コワイ女』より(2006 年/鈴木卓爾監督)

「ワタシの中の彼女」(2022 年/中村真夕監督)

「ヘヴンズストーリー」(2010 年/瀬々敬久監督)

以上、主演作、出演作あわせて12作品を一挙上映!

開催期間:9月16日(土)~10月1日(日)

横浜・シネマノヴェチェント

<トークイベント決定>

9月30日(土)11:00~「ヘヴンズストーリー」

ゲスト予定/菜葉菜、寉岡萌希、瀬々敬久監督

10月1日(日)12:00~「鋼-はがね-」オムニバス『コワイ女』より」

『ワタシの中の彼女』

ゲスト予定/菜葉菜、鈴木卓爾監督、中村真夕監督

14:30~「ハッピーエンド」

ゲスト予定/菜葉菜、長谷川朝晴、山田篤宏監督

詳細は劇場公式サイトへ → https://cinema1900.wixsite.com/home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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