少年院と民間事業者の協働、その制約と課題
平成27年6月に新少年法及び少年鑑別所法が施行されたことを受けて、各少年院は、「再非行防止に向けた取り組みの充実」「適切な処遇の実施」「社会に開かれた施設運営の推進」に取り組んでいる。
特に矯正教育の現場では、「開かれた少年院」というビジョンを掲げ、外部の民間事業者等との連携・協働の取り組みを始めている。
認定NPO法人育て上げネットでも、現在、四カ所の少年院の中での継続活動、在院少年が出院した後の更生自立への支援のため、民間事業者として少年院と連携している。年に数回であるが少年院、少年鑑別所の協力によってスタディツアーも開催している。
そのような活動を通じて出会った民間事業者から、少年院との協働を模索する動きへと広がり、どうしたら少年院との協働が実現できるのかを問われることが増えた。その都度、少年院関係者とコミュニケーションを取り、また、関係者間のつなぎを行ってきた。
しかしながら、日常生活ではほとんどかかわることがない少年院についての知識および連携経験の少なさが、協働推進を目指す少年院にとって何が求められることであり、何が実施負担が大きいのかを見定めることを難しくさせた。
今回、一般財団法人村上財団の支援を受け、私たちは法務省、東京矯正管区、管区下にある少年院の協力によって、調査報告書『開かれた少年院実現に向けた少年院の取り組み実態に関する調査』(無料DL可)を公開する。
本記事は、同調査報告書より、少年院との連携・協働を模索する個人および民間事業者が理解しておかなければならないことについて考えたい。
外部事業者と連携することによる少年院側のメリット
そもそも、少年院は外部事業者との連携に何を求めているのだろうか。在院する少年が出院後、社会に出て更生自立を実現することが大前提であるが、少年院側のメリットについては、同調査で行ったヒアリングをもとに作成した上図のように三つにまとめることができる。
1. 矯正教育の質の向上
2. 法務教官の負担軽減と強み領域への特化
3. 法務教官の成長
法務教官は24時間365日、在院する少年と向き合っている。外部民間事業者による少年とのかかわりはほんの一部に過ぎない。しかし、私が法務教官から言われたことで印象的であったことのひとつに、少年の「余所行きの顔」を見られることにあるという。
法務教官は長い時間、生活をともにするため、ときに家族のような関係性に近づくことがある。その家族に見せる顔というのは、社会での顔とは異なることがある。
少年院で見せる少年の姿が家庭内のそれであるとするならば、外部の人間は少年の出院後の社会で見せる表情や姿であり、それが日常の矯正教育にフィードバックされるということだ。
少年院での生活の中では、非常に快活であっても、外部の人間の前では緊張してうまく話ができなくなる少年。逆に、外の人間だからこそ普段とは異なる積極性を見せるなど、少年の変化に着目できる機会としての価値があるという。
外部の人間は、法務教官のような立ち振る舞いや指導、専門性を求められているのではなく、むしろ、出院後の日常生活を少年院に持ち込むことが役割のひとつである。
連携する際の留意点
少年院と外部事業者がスムーズに連携していく上での留意点を法務教官に聞いた。すると大きくは二点に集約される。
1. 少年院での活動に対する制約についての理解
2. 連携における効果、エビデンスの提示
法務教官は、外部事業者に危害が及ばないよう、活動の場の保安を確実なものにしなければならない。また、在院者の個人情報の特定につながるような情報が伝わらないよう責任を負っている。
そのため、携帯電話やカメラの持ち込みといったものは当然のことながら、「どのような活動をしてはいけないか」「在院者に対してどのようなアプローチをしてはいけないか」という禁止事項を多く提示する。
例えば、在院者個人が特定されるような質問を投げかけてはならない。「地元はどこなのか」「過去に犯した犯罪について」につながり得る質問は、雑談の範囲でも許されない。
また、こちらの個人情報が伝わることにも注意が必要で、フルネームや居住地なども伝えてはならない。対人援助職(支援者)は、信頼関係を築いてから具体的な支援に入るが、その信頼関係を築くという行為がほとんどできないところから支援をスタートさせなければならないというのは、少年院での活動に対する制約のひとつである。
それ以外でも、院内ではインターネットが原則使えないため、インターネット接続を前提とする事業は難しい。持ち込みできるものも限られているため、たくさんのワークシートやカードを使うような場合は事前に十分な確認が必要だ。
少年院ごとに判断は異なるが、女性が在院する少年院では、男性が講師をすることはなるべく避けてもらいたいという話もあった。在院少年にとって男性という存在であるだけで過去のつらい経験を想起させるようなこともあると、という説明を受けたこともある。
次に、「連携による効果、エビデンスの提示」という点については、そもそも在院少年に対する効果やエビデンスを明示できることは簡単ではないが、どういう条件で、どのようなひとにやったとき、どれくらいの効果があったのか。課題が解決されたのかということは事前に提示したい。
例えば、日本マイクロソフト社と育て上げネットが協働する若者TECHプロジェクトの一環で、茨城農芸学院で毎週開催しているPC講座は、無業の若者がPCスキルを身に付けた先の効果についても事前に議論し、在院少年のニーズを満たし得る判断から実施への調整が始まった。
まずは、少年院という環境や制約についての共通理解を持ち、提案段階で協働の条件や効果についての調整および意見交換を行うことが望ましい。具体的に環境調整をする法務教官としても「なぜこの活動をする(している)のか」という指摘への説明責任を背負っており、相互信頼が醸成されていれば、現場も少年のために安心して連携していくことができるのではないか。ある法務教官から示唆をいただいた。
連携活動を実施して直面した課題
外部民間事業者との連携において直面した課題についても回答をいただいた。回答では、「外部事業者と法務教官との役割分担」、「外部事業者の活動内容の評価」というものがあがるが、複数回答としては数が少なく、直面した課題は限定的という読み方もできる。
民間事業者としての経験で言えば、課題は連携活動実施の前にあると考える。特に、法務教官が外部とのコミュニケーションにかけられる時間は限られている。基本的に少年とのかかわり、24時間365日をローテーションをするため、それ以外の時間を確保することが非常に難しい。
もうひとつは、コミュニケーション手段の制約もある。保安の観点からもインターネットの活用が強く制限をされているため、メールなどでのコミュニケーションは原則的にできない。そのため「電話」「手紙」「FAX」のやり取りになるが、現実的には「電話」が最も多い。
そのため互いに電話を掛け合ってしまうすれ違いも起こりえるため、会議のように時間を設定しておくか、何時から何時までは電話に出られるという合意をしておくことがスムーズだ。ちょっとした用件かもしれないが、現場に出ている場合、特定の法務教官と電話で話すことはほとんどできないと言っていい。
この部分は保安上の制約と受け止め、もっとも効率の良いのは少年院に指定日時に伺うことであり、その際に質問や確認事項をできるだけ解決しておくのが望ましいであろう。
では、最初の接点はどこから作るといいのか。少年院を理解し、関係者と接点を持つ機会としては、各少年院が年に何回か開催している施設見学会を勧めたい。実際に施設を見ることや、該当少年院に在院・出院する少年の傾向や特徴なども共有されるため、短時間で多くの学びを得ることができる。
ただし、施設見学会はネットで調べてもあまり情報が出ていないことがあるため、参加を希望する少年院に施設見学会の日程を問い合わせてみることから始めてみられてはどうだろうか。